隣の席の子は考えすぎる人

六枚のとんかつ

水曜日のスペル

私の学校の隣の席は真白さんという女の子が座っています。


この子は学業での成績がとても良く、どれくらいかと言うと三百人の一年生の中で、学年一位を毎回当然のようにとる方なのですが、どこか話しがけがたい雰囲気を常に出しており、彼女とまともに話している人を見たことはあまりありませんでした。


私の学校では男女の比率が3:4ぐらいで女子の方が若干多く、クラスの中では誰かが必ず女子同士、隣の席になります。


そして六月の席替えで、私は真白さんと隣になりました。あまり話したことはなかったので、当時の私は一抹の不安を覚えました。




私のクラスでは、水曜日の一時間目は英語になっています。

英語の授業はあまり好きではありません、たった26の文字で構成されているはずなのに訳が分からなくなります。

ゆっくりと考えないと解けそうにも無いので、とりあえず名前と日付の欄を埋めて、最低限の体裁は整えましょう。


「ねえねえ」

隣の席の真白さんがシャーペンで私の左胸をつついてきました。……何ですかこの子……ほぼ初対面なのに凄い絡みかたをしてきます。

……無視しましょう、あまり話したことの無い人とのコミニケーションなんて私には無理です。


「ねえねえってば」

今度は右手にシャーペン、左手ボールペンをもって左の胸を集中攻撃してきます。

……なんなんですかこの子!私の左胸に両親でも殺されたんですか!


「何ですか全く!」

授業中なのに胸を突っついてくる真白さんと、授業中なので声をなるべく抑えて、でも怒りの意を伝えようとする私、先生はテストだけではなくこういうところも評価するべきです。


「あーようやく反応した。難聴かと思ったよ」

「故意に無視していただけです!」

そしてなぜ胸をつついたんですか!なぜ!


「まあ、いいや、それより昔から考えてたことがあったんだけどさ」

「まあいいや!?」

彼女がシャーペンでの攻撃を止め、すらすらとプリントの裏に何かを書いていきます。


「水曜日のスペルと発音は明らかに神様が適当に考えたよね」

そういって見せてきたのは、綺麗な筆記体で書かれた「Wednesday」の文字。


「……と、言いますと?」

「この単語、読んでみて」

疑問に思いながらも彼女に言われたとおり、なるべくはっきりと、

「ウェ……ウェンズデー」

と言いました。私は一体何をさせられているのでしょう。


「そうだよね。でもさ……これって絶対『ウェンズデー』って読まなくない?」

「――!」

確かに!言われてみれば明らかにそうは読まない!


「dの発音がどっかにいっちゃってんだよね、この単語初めて習った時先生から、

『ウェドネスデー』って覚えなさいって言われなかった?」

私は妙に納得した気分でこくこくとうなずきました。

でも……


「だからなんだって言うんですか!」

真白さんの両肩をがっちりと両手でホールドし揺さぶります。だから何なんですか!

「なんだってわけではないよ~」

揺さぶられながらも真白さんは笑顔を絶やしません。


「よし十分間経ったな、じゃあ今日の日直の遥から横一列順に答えを発表してくれ」

ああああああ!終わった!真白さんのせいで……プリントが一問も埋められてない……そして私は……盛大に恥をかくんだ……。


「はいこれ」

真白さんからプリントを渡されました。答えが全てびっちりと埋められているプリントでした。

「暇だから書き写しておいたよ~」

「ぐっ……」

これでも一応私は学年三位です……プライドはあります……でも……。


「……ありがとうございます」

「どもども~」


今日くらいは……迷惑を掛けられた相手に頼ってもいいでしょう……。




その日から、私は真白さんに懐かれてしまいました。

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