第6話 街
『僕らの時代』
僕らの時代 お金持の家がすぐわかったよ
あの家には自家用車がある あの家にはテレビがある 僕の家にはどちらもない .
でも、大丈夫。友達の家もほとんどそうだから。
僕らの時代 母さんはいつも割烹着姿だったよ .
母さんは魔法使いみたいに何でも出来た .
料理はもちろん ミシンを踏んで洋裁師 障子を張替え,おはぎも作れた.
母さんがいないと「母さんは何処」というけれど 「父さんは何処」とは言わないと、父さん笑ってた。
僕らの時代 夏の夕方は涼み台が出て 団扇なんぞをパタパタと 簡単着姿の女の人はご近所の噂話 .
ステテコ姿の男の人は政治談義か縁将棋 僕らガキ達は鞍馬天狗か月光仮面、 「おっちゃん、飛車取り王手やんか」 「うるさい!ガキは黙っとれ」と叱られた。
牛乳屋さんのガチャガチャ瓶の音聞けば 朝は時計がなくてもすぐわかり 夏は氷屋さんで 冬は炭屋さん ほんに便利に出来ていると感心したもので ,
酒屋のオヤジ、若い後家さんもらって 配達途中 都々逸詠ってご機嫌だ。
冬は火鉢でもち焼いて 炬燵で家族がみかん食べ ,
父さん新聞 母さん家計簿 妹着せ替え人形 ぼくは感心 明日の宿題やっていた。
街には映画館もいっぱいあって 夕方から雨でも降ればしめたもの 「店は早仕舞いにして映画じゃ」父さんの声.
僕ら家族は傘の一連隊。
物干しから見れば 3階建てなんてなく どこまでも瓦の家並が広がって 路面電車が走ってた .
商店街の「えー、らっしゃい」の呼び声も 物売りの声も どこかで何かの音がいつもして 何だか街はとっても賑やかで
僕らの時代 都会というのに こんな寂しい街ではなかったよ。
『南海平野線』
専用軌道を 電車が通り過ぎてゆく
ちんちんと鳴る
踏切の向こうに 初恋の人が
買い物籠下げて 立っているような
そんな街だった
誰だ 電車を道の下に埋めたのは!
『浴衣の君』
下駄を鳴らして 君が行く
浴衣姿の 君が行く
赤い鼻緒の 下駄はいて
お盆の踊りか 花火の宴
僕も浴衣に着替えて
物干しの上から君を見てる
今日は 天満か天神さん
ほんに夏の君は忙しい
夏が終わって セーラー服になって
冬が終わって またセーラー服になって
春が終わって 夏が来たというのに
下駄の鳴る音も 浴衣姿も
見なくなったよ
交通事故で亡くなったと
君んちのおばさんが泣いていた
僕も物干しの上で泣いたよ
勇気を持って 盆踊りや花火
さそって行ったら良かったと
怒って泣いたよ
『浴衣の君たち』
君たちだって 乙女だね
浴衣姿に原チャリ乗って
頭にヘルメット
足にスニーカー
やってきたのかい 花火の宴
「ああ そこには止めてはいけないよ」
「おっちゃん ここの人か? かめへん行こう」
ちょっと待った 娘たち
浴衣姿が泣いちょるよ。
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