虹の噂
虹って不幸の象徴だったらしいよ、
彼は平気な顔で、そう告げる。
虹を見たらなんだか幸せな気分になれるね、という私の言葉を聞いた後の一言が
これとは、彼にはデリカシーは無いみたい。
昔の人は虹の美しさを不気味に感じたらしく、良くないものと決めつけたのだという。
きれいなものはきれいであり、美しいものは美しいのだ。それを、不気味だからとか
得体が知れないから拒絶するとは、なんて
つまらないんだろう。
呆れが2割、怒りが8割を占める私の心に
全く気付くことなく笑顔で話を続ける彼。
無神経な彼に対してのムカムカが溜まり
表情に出そうになる。
「もったいないよね。こんなに綺麗なのに」
空に浮かぶ虹を指差しながら笑顔を
消さない彼は惜しむような声で小さく呟く。
彼の笑顔は不思議だ。
くしゃくしゃと笑い目が細くなる笑顔なのに、嬉しさも悲しさもそこには含んでいる
ように見える。
その表情を見てると、胸がキュッと締められ苦しいのだけど、少し暖かくて安心する。
気がつくと彼の顔をジッと見つめていた
私はすぐに目線を自分のブラブラしている
足に向ける。
柔らかい日の光がポカポカと体を温めて、
少し湿った風が、顔を通り過ぎていく。
ベンチの右端に肩がぶつかるほど近い距離で座る私たち、少し頬が緩み、熱を帯びる。
胸の鼓動が少しずつ大きくなっていく。
「だからさ、僕たちで新しい虹の噂を作ろうよ」
屈託の無い笑顔でそう言い放つ彼は私の
ドキドキに微塵も気づいていないようだ。
なんだか私だけ意識してバカみたい。
でもそれが君だもんね。
クスクスと溢れる笑みを止めてから彼を見る。
「どんな噂にするの? 」
軽く微笑みながら尋ねる私は彼の目には
どのように見えているのかな?
少なくとも、私にとって今のこの時間は、
虹よりも鮮やかに色付けられている。
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