第70話 それでも人は男装の麗人と呼ぶ
「え~、今度は舞台に立つんですか。 嫌に決まってるじゃないですか」
「そこをなんとか......」
「だって、女性しか舞台には立てないんですよね。 その時点でアウトだと
思うんですが」
「そこは、大丈夫だ。 団長権限で何とかするから。
それに、ジョンならお化粧をすれば、もう全然分からないから余裕だよOKだ」
「なにが、余裕でOKなのか分かりませんが。
それに何で急に親父言葉で話すんですか、絶対にいやです」
この後、2時間くらい団長と押し問答の末、結局YESと言わされてしまった。
“大丈夫なのか本当に”
“今度は、男装の麗人なのね”
“俺は男だから男装では無いと思うんだけど”
“あら、そうね。 じゃ、なんて言うのかしら”
“顔だけ女装のメイクだからね、なんだろね”
不毛な議論になりそうだったので、休憩所で一休みする事にした。
この後、メイク担当さんが俺の顔で本番用のメイクの練習をするらしい。
二日後、劇場楽屋......
昨日、男装用の衣装が出来たと、宿の方へ言伝があったので、劇場の衣装部屋へ
とやって来た。
「さぁ、ジョンさん。 この衣装に着替えて下さい」
「随分と派手な造りの衣装なんですね」
「こうしないと舞台では映えませんから。 そんな事よりも、さっ早く着替えて」
前回の事もあるので、衣装担当さんは気軽な感じで進めてくる。
結局、更衣室に無理矢理、押し込まれてしまい俺は仕方なく着替えることにした。
“はぁ~、男装用の衣装だから大人しい感じを想像していたんだけれど......”
“まぁ、舞台は客席から遠いからこれ位じゃないと映えないんじゃない”
あーだこーだ言いながら着替え終わると、更衣室からでて衣装担当さんに出来上
がりを確認してもらった。
「ジョンさん完璧です。 ではこのまま、舞台の方へ行きましょう」
午後1時......。
劇団演出家の監修のもと、舞台稽古が始まった。
「団長さん、いいわね! 凄く映えるわ、そうこんな感じで演出したかったのよ」
午後5時......。
「は~い、終了。 明日は、いよいよ本番よ頑張ってね!」
演出家の終了の合図で、最終確認の為の舞台稽古が終わった。
「お疲れ様。 明日だけだからよろしくね!」
それだけ言うと、団長さんは離れて行った。
本番、当日......。
午後1時開演で、舞台の幕が上がる。
第1部、第2部、合わせて100分の劇が始まった。
俺の出演部分もどんどんと進行していく、稽古はしたがセリフは口パクだ。
半日では、当然のことながらセリフの全てを覚える事は出来なかったからだ。
それだけに、演技の部分はもう必死になって頑張った。
そして、午後3時。
大喝采の中、無事に舞台の幕が下りた。
さて、今回どういう経緯でこんな事になってしまったのか......。
団長さんの説明はこうだった。
今回の舞台稽古中に男装役の女性が階段を踏み外して足首を捻挫してしまった
ので協力して欲しいと......。
それから、今回は夏前から始まる舞台の特別観覧会で、王族も観覧する予定な
ので、見栄えのする男装の麗人が欲しかったとのこと。
“背の高い美人さんは帝都を探せば幾らでもいたと思うのだが”
団長さん曰く、“気心が知れているから” との理由らしい。
********
帝國劇団・華組の劇団員達を応援する、所謂、追っかけの人達。
「今日の舞台、最高だったわね。 特にあの新しい、男装の麗人!」
「そうそう、加入したばかりの新人さんらしいわよ」
「ねぇねぇ、追っかけリストに追加して置きましょうよ」
ジョンの知らない所で、追っかけファンが出来ようとしていた。
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