第71話 神秘の泉

“随分と長いこと帝都にいたね”

“冬を越して春を待った時以来かしら”


俺とティーナは帝国から西隣の聖教国に向かう船に乗船する為に、帝都モスコ

から街道を南へと徒歩で移動していた。


今回、船を利用するのには理由があった。


ロシアーノ帝国から隣国のマール聖教国へ行くのには両国の間にそびえ立つ山脈

を二月掛けて越えるか、帝国の南にある港湾都市サンクトから船旅で三日で行く

か、の二択だったからだ。 なので当然、俺達は船旅を選択した。


それでも、帝都モスコから港湾都市サンクトまでは駅馬車で7日、徒歩だと20日

ほど掛かる道のりだ。


帝都モスコの冒険者ギルドで得た、港湾都市サンクトの情報は次の通りであった。


帝国の港湾都市サンクトには、外洋航海が出来る大型の船舶が停泊出来るように

整備された港がある。 その港を利用した貿易が盛んに行われている。

そして、その物資などをスムースに運ぶ為に近隣諸国との定期船も就航している。


いつかは、ユーロスター大陸以外の大陸にも行って見たいものだ。



そして、俺とティーナが徒歩で街道を南下しているのには理由があった。


帝都モスコから南部の地域は雪も降らない温暖な気候で、色鮮やかな木々や草花

が生息しているからだ。

そして、その景色を観ながら旅をしようという事で徒歩を選んだのだ。


“駅馬車では、景色を堪能しながらの旅は出来ないからね”


徒歩だと行きたい場所を自由に選べるからという事で、街道から離れて目的の

場所を目指していた。


“ティーナ、地図を見るとそろそろだよ。 神秘の泉”

“神秘というのが、気になるのよね”


“妖精が住んでいるのかな”

“まぁ、可能性は低い、とは言えないわね”


“とにかく、行って見れば分かるか”


街道から泉への小道を歩くこと1時間半、結構な距離を移動したと思う。


すると目の前の林だった景色が急に開けて、神秘の泉が見えてきた。


“ティーナ、何か感じる”

“もう少し近くに寄らないとかな”


俺とティーナは林を抜けて、草花の絨毯の中を泉に向けて歩いて行く。


そして、泉まで残り10mという所で......。


“あなた達、それ以上は今は近づかないで、私がそちらに......”


不意に掛けられた言葉に。


俺とティーナは、その場に留まった。


“ふふっ、留まってくれてありがとう。

私は、この泉の精霊エリアスよ。 あなた達のお名前を聞いてもいいかしら”


“俺はジョン、旅人で冒険者です”

“私は、フェアリーのティーナよ”


“あなた達からは、清浄なマナが溢れているが分かるわ。

いいでしょう、私に着いてきて。 泉のお友達に紹介しましょう”



俺とティーナは、精霊エリアスの言葉に従い泉の方へ歩き始めた。

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