第27話 光に誘われて
またか......。
ヴェスターの村を出て、東へと向かって歩き始めた......俺。
その俺が、いまは何故か小さな泉の畔で、一人ため息をつきながら休息を取って
いる。
言い訳をしたいわけではないのだが、誰でもいいから聞いて欲しい。
今回は、街道を順調に東に向かって歩いていたんだ......三日目までは。
そう、三日目までは。 “雲一つない青空を眺める”
それは、四日目の朝の事だった。
前日の夜は、公共の野営地を利用して、商人の人達とか、冒険者パーティの人達などと一緒にテントを張り一夜を過ごしていた。
翌朝、他の人達は早目に出立して行ったのだが、俺は一人旅なのでのんびりと
出立の準備をしていて、少し遅めの出立となった。
そして、出立した野営地から15分ほど街道を歩いた辺りで、急に発生した濃霧
によって周りを白く染められてしまっていた。
だが俺はそんな中、その白くぼやけた視界の中にキラリと光る部分を見付けて
しまったのだ。
最初の内は朝靄が太陽の光でひかり輝いているのかと思っていたが、よ~く目を
凝らして見ていると......一人のフェアリーが、優雅に舞を踊っていた。
それから、暫くその踊りを眺めていたのだが、フワフワと舞いながら移動して
行くので、興味を惹かれた俺はそのフェアリーの後を追いかけてしまったのだ。
そして、霧が晴れフェアリーが見えなくなると、小さな泉の畔に俺は立っていた。
“あっ、やっちまった”
正気に戻った時には、もう既に手遅れだった。
そこで、その場所から街道へ戻ろうと地図を出して確認したのだが、この泉は地図には記載されていなかった。
さらに、お日様の方角を参考に戻る事も考えたが、霧の中を進んで来たせいで東西は判るのだが南北の方向があやふやになっていた。
そして、いま現在、俺は泉の畔で途方に暮れているところである。
“はぁ~、どうしたものか......”
“溜め息ばかりついてると、幸せが逃げていくわよ”
“えっ、???”
急いで周りを確認するが、そこら辺に誰も居ない。
すると、頬を撫でるように一陣の風が吹いた気がした。
“人間さん、人間さん。 私の声が聞こえるの”
“あれっ、空耳、幻聴???”
“人間さん、幻聴じゃないわよ‼ もう、仕方ないわね。 はい、これでどうかしら”
“あっ、君はさっきの、舞を踊っていたフェアリー”
“なぁ~んだ。 姿を見られたのね。 驚かそうと思っていたのに、ざぁ~ねん”
“なぁ、一つ頼みがあるんだけど......”
“なぁに、キスはダメよ”
“それは、良いから。 街道の方向を教えてくれないかな”
“えっ、あなた‼ 迷子なの、その年齢にもなって”
“申し訳ない”
“いいわ、ついて来なさい。 こっちよ”
フェアリーに案内される事、15分......俺は無事に街道へと戻る事が出来た。
“ありがとう。 助かったよ”
“どういたしまして。 そうだ、あなた少し魔力を貰えるかしら”
“魔力で良ければ、お礼に幾らでも大丈夫だよ”
“そう。 じゃぁ、遠慮なく”
そう言うと、何を思ったのか? フェアリーは、唐突に口づけをして来た。
“ふぅ~、美味しい魔力だったわ。 ありがとう。 じゃ~ね~”
そう言って、光の粒子となって去っていった。
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