第28話 紋章付きの馬車は遠慮したい

“あっ、フェアリーに名前を聞くの忘れた”


まぁ、俺も名前を言い忘れていたし、どれだけ黄昏ていたんだか。


“はぁ~”


そのフェアリーの案内で街道に復帰して三日、俺は順調に次の目的地の街へと

歩を進めていた。


何故、駅馬車を使わないのかと思うかもしれないが、やはり一人旅には歩く

のが一番のお似合いだからだ。


“まぁこれは、あくまでも個人の見解で、強制はしません。”


次の目的地、ベルツァーの街までは徒歩で残り四日というところか。


この街道は公共の野営地が、程よい距離で整備されているので、一人旅でも

安心して進む事が出来る。


“至れり尽くせりなんだよな、今度実家に手紙でも書いて伝えてみるかな。”


そんな如何でもいいような、独り言を言いながら、のんびり、だらだらとした旅は続いていく。 それから、食材の確保はなるべく街道からは余り奥へは入り込まないようにして当然のことながら自ら行っていた。


そして、いよいよ、後一日でベルツァーの街に到達するぞという所までやって来た。


安心の野営地でテントを張り、道中で確保した食材を簡易的に造った竈で調理していく。 食事の支度が終わり、料理を頬張っていると、2台の紋章付きの馬車が野営地へと入って来た。


野営地にその2台の馬車が入って来た事で、広場の中には多少の混乱が生じた。


それは、馬車を停める為のスペースをどう確保するのかが心配だからだ。


紋章付きの馬車という事は、どこぞの貴族な訳で横柄な輩も多いのだ。


今回は当りか、外れか......。


大きな商隊のまとめ役が馬車の方へと近づいていく、多分場所の割り振りについて話し合いをするのだろう。


俺はその光景には興味はなく、直ぐに料理の方へと手を伸ばした。


“うん、我ながら美味い料理が出来た”


周りの状況は気にも留めず食事を済ませ、後片付けをしていると、護衛なのか一人の騎士が俺の方へとやって来た。


「済まないが、この場所を使わせて貰いたい」


如何やら、ここに馬車を留めて置きたいようだ。


面倒ごとは嫌なので “片付け終えたら、場所を開けますので” と返事をしておいた。


「済まないな。 よろしく頼む」


礼儀正しい騎士だったので、今回は当たりのようだ。


俺はサッサと後片付けを終わらせると、この場所とは反対側の空きスペースの方へと移動して、直ぐにテントを張り直した。


そして、簡易の竈を作り直すと、湯を沸かして紅茶を淹れた。


“ん~、食後の紅茶もいいな”


そして、竈の火を利用して本を読んでいると、そよ風が頬を撫でて行った。



“こんばんは。 迷子にならずに無事に旅を続けているようね”


“ほえっ、......。”


俺の目の前には、先日お世話になったフェアリーが浮かんでいた。


“えっ、移動出来たの......?”


“えぇ、あなたから魔力を分けて貰ったでしょ、その分で移動が可能になったのよ”


“でも、居場所までは、判からないのでは......?”


“あ~、それはね......。

あの時、あなたとキスをして魔力を貰ったでしょ。

その時に、内緒でパスを繋いでおいたの、いつでも会えるように”


“・・・・・・”


“害は無いから安心して、今夜はそれを伝えに来たの。 じゃ~ね~”


と言うと、また光の粒子となって去っていった。



あっ、また名前を聞くのを忘れた。

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