第23話 対抗試合開始

 さて、この未完の作品も残すところ数話となりました。実を言うと25話で終わるので、この話を含めてあと三話ということになりますね!

 ……あぁ、はっやーい。


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 「───へぇ、こんなところがあったんだね」

 「貴方、ここの生徒でしょ?」

 「いや、俺は最近来たばかりだからね?」


 二週間程度前に来たばかりの俺では、まだ全施設を回りきれていないのもおかしくはないだろう。正直地形自体は把握していたが、実際に足を運ぶのは初めてであるし。


 「あぁ、そうだったわね……いつも訳知り顔でいるから、てっきり昔からの顔ぶれと勘違いしていたわ」

 「それはどっちと取ればいいのかな」

 「褒めて貶してるわ」

 「手厳しいことで」


 理事長室から教室に戻ると、既にほぼ全員が来ており、ミリア先生の指示によって学校の北側───競技場区画へとやってきていた。

 前々から敷地が広いとは思っていたが、目にしてみるとよく分かる。地球の学校を丸ごと一つ詰め込んでも余るような大きさのフィールドと、そこを更に囲むような観客席。フィールドには幾つもの魔力を感じ、様々なギミックが仕込まれているのだろうと推測できる。


 「それで? この後はどういう流れなのかな。理事長に呼び出されてたから、特に聞いてないんだけど」

 「まずは全クラスが整列した後、女王陛下がお見えになられて、歓迎のパレードが終わってから、競技が始まる形ね。私達は競技が始まるまで、特にやることは無いわ」

 「……この国の国王は?」

 「国王陛下は五年前にご病気で逝去されてしまっているの。だから今は女王陛下がトップと言っていいわね。新たに国王を据えるというのも大変でしょうし……女王陛下には御息女しか居ないから、世襲制を採用しているとなると、このまま女王という体制を容認する形になるのではないか、とも言われているわね。今はそれで議論も起こっているほどよ」

 「へぇ、そこら辺の事情にやけに詳しいんだね」

 「……貴族なら普通よ」


 一瞬の間は、気にしないことにした。整列する際、基本的には番号順で前から並ぶが、途中で入ってきた俺とソティが一番後ろの方、その更に後ろ側に勇者が続いている形だ。


 結局ここに至るまで、一部の勇者以外とは関係を作ってこなかったが、まぁ……それはそれだろう。

 全員がここにいる訳では無いし、今の俺は一応こちら側の世界の住人という立場だ。色々と話すなら、同じ勇者としての立場の方が効率もいい。


 そして俺の前にはリーゼロッテが居るが、これもまた偶然だ。


 「ソティ、今日は本気で行こうな」

 「………」(コクリ)


 後ろにいるソティの頭を撫でながら言う。後ろに振り向いたため勇者の一人と目が合うが、苦笑いをすると、微妙な表情を返された。

 『時と場合を少しは考えろや』という声が聞こえてきそうだ。俺が心を読める能力を持っていたら、間違いなくそう聞こえるだろう。


 「貴方ねぇ……」

 「今朝あまり構ってあげられなかったからね。その辺、少し調節しないと、俺が後で酷い目に遭う」

 「……酷い目って言っても、単なる色ボケでしょ」

 「違う、と言っても信じてくれそうにないね」


 俺が肩を竦めると、ギロりと睨まれはするものの、それだけだった。

 まぁ、あまり放置しすぎると痺れを切らしたソティが魔力量とは関係なしに強請ってくるので、それ対策だ。幸いにして、スキンシップなら基本どれでも構わないようなので、たまにたまにそうやってスキンシップを取ってやることで、彼女の機嫌を良くしている。


 なんか、そういうゲームありそうだ。好感度管理という訳じゃないが、何かしらのゲージを管理しておくようなやつ。


 「……まぁいいわ。ところで試合の方、その子には『本気で』なんて言っていたけど、貴方こそ、本気でやるのよね?」

 「それはもちろん。全力でやるよ」


 ジト目で聞いてきたリーゼロッテに即答すると、今度は目を丸くして驚いたような仕草をする。


 「……昨日は相手に合わせるとか言ってたのに、どういう風の吹き回し?」

 「事情が変わったんだよ。競技の方でも闘技戦の方でも、相手の対応をみたりなんかせず行くつもり」

 「事情って、何の?」

 「連れが見に来てるからね。どうせならカッコいい姿を見て欲しいっていう考えじゃ、納得できないかい?」


 実際には先程理事長から聞いた件によるものであるが、理事長自体が少し怪しく思えてきたし、リーゼロッテとて、その事実を知ってなお万全のコンディションで試合に臨めるかと言われれば微妙だ。そういうことで、嘘をつくことにした。

 とはいえ、全力で挑むこと自体は嘘ではない。俺が出なければいけない部分に関しては、チーム戦以外は全て本気で挑む所存だ。


 それも、そこまで進めば〃〃〃〃〃〃〃の話であるが……。


 取り敢えず最もな理由をつけておくと、リーゼロッテはあからさまに怪しむような顔をしつつも、追求はしてこなかった。


 『女王陛下の御成~り~!!』


 よく聞くような言葉。どう通ってきたのか、入口から豪華な馬車や騎馬隊がやってくると、待機していた楽奏隊がパレードマーチを演奏し始める。

 リーゼロッテの追求は、これに阻まれたとみていいだろう。


 



 ◆◇◆




 競技場の外周に引かれた白線。そのレーンに沿って、敏捷性の高い選手達が走り抜けていく。

 外周凡そ800メートル以上あるだろう長大なコースを、いち早く5週〃〃することが勝利条件である『短距離走』の協議。


 果たして、これのどこが『短距離』なのかと一度は思ったが、この世界の、特にこの学校での身体能力を考えると、あながち短距離と言えないことも無いだろう。冒険者などはその足だけで何十キロ、何百キロという道程を素早く移動していくのだから。


 数キロというのは、地球で言う200メートル走ぐらいの感覚なのだろう。


 そして今は競技の5割が終わったところ。選手の全員が既に50%の距離を走り終え、あとはどれだけ本気の速度を維持できるか、という勝負になってきたのだが……。


 『早い早い早い!! こ、これはなんということでしょうっ!! まだ選手の大半が半分を終えたばかり! だ、だというのにこれはなんだあぁぁぁぁぁっ!?』


 実況席の生徒が半狂乱気味に叫ぶ。それはそのまま観客の声を表しており、今まさに、その目を疑うような展開に驚愕と高揚を隠しきれずに歓声が響いている。

 2位3位辺りの接戦もさる事ながら、しかしそんなものは目に入らんとばかりにその生徒は一人だけにご執心だった。


 他の選手を周回遅れで置いていく青い影───残像が残りそうな速度で駆け抜けるソティは、一人だけ倍速されているかのような動きで残り少ない距離を走破していく。


 それはもちろん、実況の生徒も無視などできるはずもなく……。


 『なんと、なんとなんとぉ!? 4組のソティちゃんが、ソティちゃんがあああぁぁぁ───!! 今っ!! ゴールテープを切りましたあぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 他の生徒全てを置き去りにして一人悠々とゴールゥゥゥゥ!! この圧倒的戦力差に観客席も歓声の嵐です!!』


 ドッと、一際大きい歓声と拍手が鳴り響いた。


 視線の先では、この競技に出ていたダークホースことソティが、息を乱した様子もなく走りから歩きへと移行し、そのままこちらへ戻ってくる様子が見える。汗一つかかず、見た限り体に疲労がある様子もないソティは、まだまだ体力が有り余っているように見えた。


 『これは、まさかの前代未聞の展開だァァ!! その人形のように冷たい瞳に完成された美貌!! 幾らパラメータが高かったとしても、ここまで余裕に走り抜くとは、一体どんなステータスをしてるんだソティちゃぁぁぁんっ!!!』


 そうやって既に終わったソティの実況をしてる間に、後から粛々と2位3位と生徒が続いてゴールしていく。一度に走った生徒は12人。ソティの他にも二人同じクラスの生徒が降り、彼女達は3位と5位と、中々の好成績。


 ただし、同じクラス以外の、他のクラスの生徒達には走り切った爽快感などなく、むしろ完全なる憂鬱モード。それは遠くから見てもわかってしまっていた。


 「………!」(ガバッ)

 「……お前はよく頑張った。だから……だから、何も言わん。ホント頑張った。頑張り過ぎだとか、言わないからな」


 走り終わった選手はそのまま各クラスの応援席へと戻ってくるのだが、最初に終わっていたソティはそうやって俺に飛び込んでくる。

 辛い。その純粋な『頑張ったよ?』と言わんばかりの瞳とは反比例の、周りの雰囲気が。悪いことをしてしまった、と本気で思う。


 この後の展開を考えると、余計に辛い。


 『さぁさぁ競技戦は序盤も序盤ですが、初っ端から4組が大きくリードォ!! とはいえ、入ってきたばかりの転入生にデカい顔をさせたままでいる他クラスでもありません!! まだまだ対抗試合も始まったばかりぃ! ここからどんな展開になっていくのか、全く予想がつかないぞォォォ!!』


 実況のテンションも最初からマックス。クラスもソティの大金星と、残り2人の好成績もあり、士気は高い状態。

 応援席から立ち上がる男子リーダー───レオンが拳を突き上げる。


 「っしゃお前らァ!! ソティちゃんだけに頼りっぱなしになるんじゃねぇぞぉぉ!! 特に男連中!! 次は俺らの番だァァ!!」

 『しゃああぁぁぁぁっ!!』


 なんとも体育会系なノリである。そう思いながらも、俺も拳を突き上げて参加する。こういうのは心を一つにすることが大事であり、全力で挑む以上、こういう面からもしっかりと見せていった方がいいだろう。


 「……バカね」

 「そうは言わないでよ」


 呆れたように言うのは冷たい女子筆頭のリーゼロッテ。とはいえ、彼女もまた嫌気がさしているようには見えない。

 この雰囲気を悪くは思っていないようなので、やはり根は普通の女の子、ということなのだろう。


 孤高ではあるが、他者を寄せつけない性格とは裏腹に、思考まで誤魔化すことは出来ない。


 消極的であれ、そういう感情を少しでも見れると、こちらとしても面白いものを見れて良かったと思う。


 ───うん、前言撤回だ。他のクラスに悪いと思っていたが、ここはやはり、このまま突き進ませてもらおう。


 クラスの士気の上がり幅的に、俺はそう考えた。 


 

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