第22話 垣間見える思惑
「はて、まだ大事なことを何か残していましたか?」
状況は話してもらったし、俺達が何をすればいいかも聞いた。だが、俺としてはそこは重要じゃないのだ。
結局のところ、最初から疑問が残っていた。
「カルルス達に言わなかったこと、隠していることがありますよね? 彼らが気づかなかったのも仕方ないのかもしれませんが……」
「……果て、私は嘘偽りなく全てをお話したつもりですが?」
そう言って首を傾げる理事長だが、残念ながら俺から隠し通せるはずがない。
思考を読むのはともかく、相手が嘘を言ってるかどうかというぐらいは、わざわざ意識するまでもなく把握できるのだ。
「───いえ、すいません。そうでしたね、隠し事は良くないでしょう。ですがあまり広めたくないのも事実なので、できれば内密にお願いしますね」
俺が鎌をかけているのではなく、そう考えた上で聞いているのだと理解したらしい理事長は、すぐに肯定を返した。
「
理事長は語る。その内容は、
「……魔族を秘匿する理由は、ギルドマスターから聞いています。だから冒険者にも依頼を出さず、内々で処理をしたいのでしょう? ただ、正直言いまして、相手によっては理事長でも荷が重いかと……」
「おや、これはまた言いますね。私はテレシアよりも早く勇者の従者となり、そもそも彼女より50年ほどは長く生きています。戦闘に関しては私の方が実力はあると思いますよ?」
それは初耳である。理事長のステータスは覗いていないが、となるとレベルは200を超えていると考えていいだろうか。
十分以上に強いのだろうが、しかし魔族相手となると、果たして足り得るか。
「そうは言いますが、魔族は個体別の力の差が激しい……少し前に中級魔族から
実際には聞き出した、ではなく
魔族というのは個体の強さが激しい。勇者もまた随分なものであると思うが、魔族はエルフのような長命種でありながら、エルフのように成長が遅い訳ではなく、むしろ普通の人よりも成長が早い。
更に言えば、肉体においても大きく差があり、人間とエルフには、平均的な魔法適性の高さに違いがあるぐらいだが、一方で魔族はエルフよりも高い魔法適性、魔法技術に、屈強な肉体を持つ。
基礎スペックに大きく差があるのだ。向こうは簡単に言えば、全員が勇者のようなものだ。もちろん厳密に言えば、勇者の方が成長も早く、強いと思うが、魔族もまたこちらとは平均的な強さに大きく差がある。
主婦が中級魔法を使ってくるような感じだろうか。兵士は余裕で上級魔法以上を覚えているし、無詠唱も会得している。
「大丈夫ですよ、私もその程度は存じています。流石に最上位の魔族は成長した勇者でもないと相手が出来ないと思いますが、上位の魔族までなら相手ができます。現に私は、一度上位魔族を、多対一とはいえ撃退している身ですから」
「……なるほど、失礼しました。ですがやはり、万全を期して冒険者に依頼をしては? もし本当に魔族が今回の主犯であるのなら、内々で処理出来るとは思えません。相手が複数人で来れば、恐らく俺達は魔物の対処で手がいっぱいのため、理事長や教職員の方で相手をしなければいけませんが……」
「えぇ、ですから、多少分の悪い賭けになるとは思います。ですが、一応カルルス君はSSSランクの魔物を非公式とはいえ倒しており、現時点において、SSSランク冒険者になれる実力はあると思います。だからそちらに関しては、ある程度問題は無いでしょう。問題があるとすれば、少人数の可能性が高い魔族よりも、実際に攻めてくる魔物の数と、本当にここに攻めてくるのか、というところです」
そこで理事長は、話を最初に戻した。ここが襲われるというのは元々推測での話。魔族が魔物を持っていったということすら、可能性が高いとはいえ、所詮は可能性の話。
わからない以上、絶対はないのだ。そもそも勇者を狙っていることからして事実確認は取れないのだから、結局のところ推測に基づいて行動するしかない訳だが。
「一番ありがたいのは、当然このまま何も起こらないことです。ですが、わざわざこの日を狙ったということに意味があるように思えるので、私は勇者を狙っている可能性も考え、今日、この日、ここに攻められると予測している訳ですが……最悪としては、無警戒の場所、つまりここ以外の場所に攻め込まれることです」
当然どこの場所にも高ランクの冒険者がいる訳では無い。だからここ以外の場所に攻め込まれれば、そこは最悪防衛ができない。
勇者を狙っているのであればそれもある程度は絞れるが、そうでない場合はそれこそ最悪の事態が引き起こされるだろう。
「かと言って今から他国に連絡をしに行っても、経緯を説明し、納得させるのに十分な時間も証拠もない。この国だけならともかく、他国にまで説得力がある訳ではありませんからね。だからこそ、教職員の方たちに探しに行ってもらっている訳ですが……」
「……人手が足りませんか」
「そうなんです。正直未然に防ぐことは出来ないと思っています」
魔物を見つけられないんじゃ、未然に防ぐことも、対策を立てることも難しい。
「一応冒険者ギルドは、各支部同士で通信が可能な魔道具が設置してあります。ですから、たとえ襲撃されたとしても連絡自体はすぐ来るでしょうが……」
「間に合うかは微妙ですか。仕方ありませんねそれは……」
「出来れば未知数の君にも、行ってもらいたくはありますが」
「それは無理ですね。教職員の方が探しに出ても見つからないのなら、俺が行っても結果は変わらないと思いますし」
理事長の期待には、首を振って拒否を示す。俺がここから居なくなる方が危険だろうからだ。
「そうですか、君なら心強いと思ったのですがね……まぁ、ですから、先程は彼らに戦力として動いてもらうためにああ言いましたが、実際のところ、しっかりと責任は取るつもりです。今回の魔物は私が捕まえたもので、例え相手が魔族だとしても、それらを連れていかれたのは防衛面から見ても非常に厳しい。だからこそ、魔物が現れた地域には全て駆けつけ、事が終わり次第、裁判を受けるとしましょう───まぁ、被害が皆無でもないと、ほとんどの確率で死刑、良くて追放か終身刑ってところですが」
ここで理事長は、俺にそう告白する。あくまで自分は責任を取るつもりであり、先程の言葉は一種の焚き付けであると。
「良いんですか? 理事長なら隠蔽も出来ると思いますが」
「それをしてどうなるんですか。隠蔽出来たとしても、その事実を教職員や君達は知っている。いわば弱みを握られている状態です。それで後々明らかになるよりも、自ら申し出た方が多少は罪も軽くなるでしょう」
理事長の言葉に、納得するように俺は頷いた。確かに俺達は知ってしまっているし、それを口止めするには何かしらの対応が必要だ。
それをしても確実とは言えないのだろうから、それなら最初から自首した方がいい。選択肢はほぼ無いに等しいのだろう───それを理解するのは容易い。
「さて、そういう事ですから、イブ君達も出来れば警戒しつつ試合に臨んでもらえると。期待してますよ?」
「SSSランク等の危険な魔物が攻めてくるかもしれない状況で、そんなことを言われましてもね……いや、分かりましたよ。でも、カルルスでしたか、彼らに具体的な内容を話さなくてよかったんですか?」
理事長は俺にも、カルルス達にも、大して指示はせず、警戒しろとだけ言っている。
「彼らは特別ですからね───特にカルルス君やマルコ君は実力も知能もあります。大人顔負けとは、彼らのことを言うのでしょうね。私がわざわざ言わなくとも、勝手にクラスをまとめて、やってくれることでしょう。むしろ彼らに一任した方が、臨機応変に対応してくれそうだ。イブ君もその点、信頼していますからね」
と、知識ならともかく、特に高い知能を見せた覚えがないのに言われたため、俺は少し困り気味に頷いた。
「はぁ、ありがとうございます……俺が聞きたかったのはそれだけなので、これで失礼させていただこうかと思いますが」
「えぇ、構いませんよ」
とりあえず、聞きたいことは聞いた。理事長が魔族を撃退すると考えていることも、カルルス達のことをある程度は信頼していることも、表面上の理由としては理解出来た。
そして───やはりまだ、決定的な部分を隠していることも。
「どうかしましたか?」
「いえ、何も。それでは失礼します」
理事長が俺の顔を見て首を傾げたので、なんでもないと首を振る。だがその実、思考では今までの話を聞いてなお、理事長が触れていない部分が気になっていた。
少々不自然な部分が残っている。そしてそれを、恐らく理事長は理解していながら
魔族に関する話もそうだが、それ以上にもう一つ───何故SSSランクという危険極まりない魔物を、3体も用意したのか。
魔物戦とやらに使うためにしては、その戦力は些か過剰にも思える。
何より、捕獲事態は可能だとしても、そう簡単に捕まえられるものでも無いはずだ。
幾つか浮き出てくる疑問。そしてそれを裏づけしてしまうような、要素。
となれば、否応が無く脳裏を過ぎってしまうのは、理事長自身、もしかしたら今回の件を
理事長室からソティを連れて退室し、俺は自身の手を見た。
「……何かあってからじゃ、遅いからな」
不確定要素の発生。ここに来て、理事長が見せた疑惑の色。
まだ全部が見えたわけじゃない。だが不安は募る一方だ。
それらに対応するために、事前に指輪を外しておくぐらいのことは、しておいてもいいだろう。
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