第59話 お人形さん




 さて、どうにかソティと学校内でも居ることが確定した訳だが。

 転入生のお約束である取り囲まれ質問大会は、まぁソティであっても例外なく発生する。


 「悪いけど、ソティは喋れないんだ。だから質問なんかは……」

 「ねぇねぇ、イブ君とソティちゃんは、どんな関係なの?」


 そうなる前に、ソティが喋れないことを予め伝えておこうと思ったのだが、ダメだ、そんなことお構い無しである。まぁこれは俺にも聞いているのだろうが。


 女生徒の言葉に、俺は何と答えるべきか考えるが、しかしそれより先に、ソティが俺の腕にぎゅっと抱きついてきて。


 「……………」


 俺のことを上目遣いに見た後に、質問してきた女生徒にチラッと視線を向けた。

 まさに、『こういう関係』と言わんばかりに。


 「……こ、これはまさか!? まさか、イブ君!?」

 「あぁ、間違いない……イブ、お前………」

 「いや、レオン? 君は多分勘違いを……」


 俺の弁明が最後まで終える前に、更にソティが、俺の手に指を絡めてきた。


 ……え? え?

 

 困惑して思わず持ち上げてしまう手。余計みんなの視界に入るだろう。

 結果は未来予知能力がなくても容易に分かる。


 「やっぱりその子の恋人か!!」

 「イブ君イブ君、こんな可愛い子を自分のものにするなんて、実はとても積極的な人だったんだね!!」

 「イブお前ぇ! この前入ってきたと思ったら今度は可愛い彼女を連れてきたのか!」

 「わ、私もソティちゃんと手を繋ぎたい……」


 このクラスもうダメだろ。わーわーと騒ぐ周囲のクラスメイトに、俺は頭を抱えたくなる。

 ソティもソティだ。何故こんな誤解を助長するような真似を……待て、わざとか? 実はわざとか?

 

 そんなソティは、今はクラスメイト達の騒ぎ様に興味があるのか、ぼーっと眺めている。


 流石に今回の騒ぎは拓磨達も入ってくるだろうか。そう思ったが、クラス内には拓磨達ルサイア組はいない。

 そういえば、拓磨達以外の奴を見てないな。まだ来てないとか言ってたが……。

 

 「なぁイブ、お前一体どうやってこんな子をゲットしたんだよ! あれか、催眠術でもあったんだろ!」

 「レオン、余りふざけたことを言っていると、『ブラスト』で粉々にするよ?」

 「ひっ!? きゅ、急に殺気をぶつけてくるなよ!」


 全く騒がしい。周囲の生徒の二割増でうるさく聞こえてくる。

 試しにとちょっとした威圧をしたら、割と本気で怖がっていた。そんなに怖いか?


 ただ、どうやってソティをゲットしたかといえば簡単だ。


 「宝箱だよ」

 「そうか、奴隷商店に行ったんだな、だからか!」


 もうこいつどうしようもないだろ。深読みしすぎだ。




 ◆◇◆




 そんなこんなで今日も一日過ごすのだが。


 「……………」

 「……………」


 授業中、俺の隣でずっと俺を見つめてくるソティ。


 それが一時間、二時間、三時間、四時間と続き、合間の休憩時間に俺が席を立つと、後をずっと着いてくる。

 トイレに行く時も着いてくるので、俺は本気で苦悩していた。


 「ねぇ……」

 「いや、俺も流石に分かってる……」


 昼休み。昼食を急いで食べ終え、ここ数日で多少話してくれるようになったリーゼロッテと例の木の下で会う。

 リーゼロッテは俺が来ると露骨に嫌な顔をしたが、今回はそれだけではなかった。

 見かねたのだろうな、ツッコミを入れられそうになるが、俺は待ったをかけた。


 「…………」


 座る俺の腕にギュッと抱きつくソティ。リーゼロッテは割とガッツリ冷たい目だった。


 「ソティ、少し離れてくれるか?」

 「…………」コクリ


 取り敢えずリーゼロッテの視線から開放されたい。そんな思いで俺はソティに言うと、ソティは頷いて離れてくれた。

 

 ………ほんの数センチだけ。


 「……随分と仲がいい」

 「もう何も言わないでくれないかな……」


 ギャグかよ。あと何十回言えば普通の距離になるんだいソティさん?

 そしてリーゼロッテの目が怖い。


 「………これだからリア充はホントに」

 「リーゼロッテ、またスイッチが入りそうになった?」

 「……なってない」


 そう言えばリーゼロッテはリア充に結構な恨みがあったな。いやまぁ、完全なとばっちりだけど。

 俺が遮らなきゃ、また呪詛を聞かされるところだった。


 「ところで、俺とソティはそんな関係じゃないんだけど……」

 「むしろどんな関係なのよ?」

 「親と子だよ」

 「見えない」


 クッ、だがいちばんしっくり来るだろ?

 カップルとか恋人同士とかは言わせん。そんなこと言われた今日の朝は、ソティを意識しないようにするので大変だったんだ。


 「……どっちでもいいけど、その子、あまりここに居ない方がいいと思う」

 「うん?」

 「なんで、毎回私以外の人が居ないか知ってる?」


 それはつまり、この場所に、ということだろうか。

 確かにここは風も気持ちいいし、花も綺麗だしで、カップルなんかにはおすすめのような場所だ。ここ数日ずっとリーゼロッテしか居ないというのは、不自然である。

 それはつまり、なにか理由があるのか。


 「魔力」

 「魔力?」

 「この木、近くの生き物から魔力を吸い取るの。それも一般の人だったら数分で空になるレベルで」

 「いや、なんでそんな木がここに……」

 「植物の研究をしてるリコリスっていう先生が去年に植えたの。なんでも、新しく作りだした種だとか。だから本来、ここはあまり立ち入っちゃいけない場所」


 いや、去年に植えたって……ここはファンタジー世界でしたね。直ぐに木も成長したりするのか。

 あと何気に『新しく作りだした種』という発言、そのリコリスという教師は品種改良でもしていたのだろうか。天才感漂う。


 リーゼロッテはソティを指さしながら更に言った。


 「それで、その子今あまり魔力がないでしょ」

 「…………」


 ……今朝に魔法みたいなものを使い、理事長とも戦闘していた。それはつまり、現在は魔力が減っているということで……。


 ソティに目をやると、既に若干息が上がっているように見えた。


 ……魔力補給? 待て、魔力補給をしなきゃ行けないのか?

 

 魔力が完全に枯渇したら剣に戻る。だが今の状態で剣に戻れなかったソティが、そのあとまた人の姿に戻れるか?

 俺としてもこっちの姿の方が嬉しい。


 だが、マジでか? またあの、あの魔力補給をしなきゃ行けないのか?


 ───ええい、このままソティが倒れるよりはマシだろ俺!


 「……ごめんリーゼロッテ」

 「何?」

 「魔力補給のために席を外す」

 「むしろもう来ないで」

 「すぐ……いや少ししたら戻ってくるから」

 「来ないで!」


 俺はリーゼロッテの言葉を無視して、「それじゃ!」とソティを連れて走る。

 取り敢えず、人気のない、誰かに見られる心配がないところで!





 「………そういえば、魔力補給って言ってたけど……魔力補給って、どうやって…………っ!?」


 1人残ったリーゼロッテは、刀哉が残した言葉を反復して、ある事実に気づいたようだ。


 「………やっぱりリア充。死ねばいいのに」


 嘯きながら、少しだけ染った頬は、若干魔力補給の内容〃〃に関して興味があることを示していた。

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