第49話 原因究明
金貨2枚を一応として送ったが、果たしてルナ達は大丈夫だろうか。
良く考えれば、2人だけでどこかに行かせるのは初めてだ(グラはついているものの)。少し心配になるが、気にしても仕方が無い。
それより目の前の少女だ。少女は一通り自分の体を確かめ終わったのか、今は何をするでもなく座り、俺の方を見てくる。
どうやら俺に対して何か思うところがあるらしく、動くと目で追ってくる。
これが、俺だからなのか、単純に動くものとして反応しているのか。
「……………」
特に意識したわけではなかったが、ふとした拍子に、目が合った。
先程まではチラチラとだったのだが、その瞬間は、俺も少女もピッタリのタイミングだった。
その途端、少女はゆっくりと立ち上がる。
「って、おい」
新たな反応を示したことに対することよりも、少女が立ち上がろうとして、そのまま倒れそうになってしまったことに声を上げた。
急いで近くまで行き、俺はギリギリで少女の体を受け止めた。
「……全く、ビックリさせるなっての」
腕の中で不思議そうに俺を見上げる少女に、俺は苦笑い気味に言う。
やっぱり今の感じ、そもそも人間の体に慣れていないように見えた。魔剣擬人化説はより濃厚になってきたな。
なるほど、女の子座りだったのもラッキースケベという訳ではなく、どうしてもあの体勢になってしまったのか。体の動かし方があまり分からないから。
手を動かすというのはできても、立ち上がる、歩くという動作は難しいようだ。二足歩行ロボットが難しいというのも、生物が歩くという動作には、平衡感覚なんかの細かな微調整があって初めて可能だからだとかなんとか。
そうだよな、生まれたての赤ちゃんが歩けるわけがない。
腕の中にいる少女は、やはり無表情で、だがゆっくりと手を動かして、俺の顔へと伸ばしてきた。
そして、俺の顔をペタ、ペタ、確認するように触る。
「………………」
一体何を確認しているのだろうか。だがここで無理に止めてまた少女が無反応気味になっても困るので、俺は少女を抱えたまま、動きを止めた。
俺の顔に触れている手はひんやりと冷たく、気持ちいい。だが、これほど冷たいなんて言うことがあるだろうか?
抱えている体から心臓の鼓動的なものは感じない。鼓動なんて多少離れていても分かる。こうやって触れてもわからないというのは、つまり鼓動していないということ。
だが、見た目は少女だ。青髪赤目で、皮膚にも異常なところはない。いや、まぁ見てしまったのは不可抗力だが。
肌の色は驚くほど白いが、アルビノまでは行かない程度。
無口無表情系キャラ、か。似てるのはルリだが、ルリは人間味があるし、無口とは言うが、喋る。
この少女は、まるで喋ることを知らないかのように、表情というのを知らないかのようにしている。
……あぁ、そう言えば[禁忌眼]、使ってなかったな。
今は特別だ。普段なら無闇に人に対して使ったりはしないが、この少女にはいいだろう。一刻も早い原因究明が必要だ。
武器なら等級や説明文、特殊効果で、人ならステータスが見えるはず。魔物や動物であれば種族名だ。
俺は少女に対し、[禁忌眼]を使用する。
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ティソティウス 女 0
魔剣・
主『イブ(夜栄刀哉)』
レベル1
保有スキル
[剣術Lv.10][魔剣術Lv.10][無感情Lv.10]
[自我Lv.-][全能力低下付与Lv.10][呪いLv.10]
[精神汚染Lv.10][取り込みLv.-][人体操作Lv.1]
[擬人化Lv.-][魔剣化Lv.-]
説明
とある人物との契約により擬人化した魔剣。本来ならこんな事はありえないが、魔剣に自我があったことと、とある人物の規格外の魔力と存在力によって擬人化してしまった。
その結果『
また、あくまで"擬"人化であり、本物の人体とはまた別で、常時少なくない魔力を使用しているため、適度な魔力補給が無いと、武器の状態に戻ってしまう。
─────────────────────────────
俺がそうやって先んじて予測を立てていたからだろうか。
色々と中途半端な情報が俺の脳内に流れてきた。
「……オーケー、よく分かった」
「…………………」
少女が俺の顔から、今度は首を触り始めた。これ、段々とやばくなっていくパターンでは? と思いつつ、情報を咀嚼する。
ステータスとも武器の情報とも取れぬ表記。保有スキルという欄の書き方はステータスであるが、説明文は武器の表記。
さてさて、問題はこの少女、年齢が0歳になってたり、魔剣という文字の隣に見慣れぬ武器名があったり、レベルがあったり、説明文は色々とヤバそうな臭いがしたり。
とにかく、この文を読むからにして、"とある人物"というのは間違いなく俺のことだろうし、擬人化したのは俺のせいだと言う。
というか、魔剣と契約ってなんだ。そんなものを結んだ覚えはないぞ。
アレか、俺がコイツに同情心を抱いて、更にはこの魔剣の使い手であることを認めてしまったからなのか。
少女を見る。少女は自身の体を支えている俺の二の腕を触っていて、俺が見たのに気づくと、その大きな赤い目で見つめ返してくる。
無表情なのは、スキルの[無感情]というもののせいだろう。レベルが10もあることだし、自身が溜め込んだ憎悪に耐えるために覚えたスキルか、もしくは元々は武器という感情を感じない道具だったからか。
スキルが取得した順ならば、自我を持つより前にこのスキルを持っていたことになるので、後者か。
さて、そして気になるのは『
……そう考えると少女が可哀想な気がしたため、そこについては触れないようにする。
少女────一応[禁忌眼]での情報では『ティソティウス』という名前だが、ティソティウスは、自分の肩を掴んでいる俺の右手をあろう事か剥がしていき、恋人繋ぎとも言うべき風に握ってきた。
まぁ肩から離れただけで、安定性は失わないが。どれだけ俺の体に興味津々なんだ。
それとも、触った感触を覚えようとしているのだろうか。武器だから触覚なんて(多分)なかったろうし。
それにしても、やはりこの体は本物の人体とは違うと。鼓動がないからもしやとは思っていたが。
俺は悪いと思いながら、少女の体の内側を覗く。といっても視覚的に覗くのではなく、あくまで情報としてではあるが。
(……内蔵とかはあるが、どれも形を模してるだけで機能してない模造品か。心臓もあるが鼓動していないし、血管も、あるけど血が通ってるわけじゃない)
もし本当に血が通っていないならもっと白いはずなので、まだ若干の赤みが残っている皮膚は、恐らくそういう色で構成されているのではないか。
脳もまた形だけで、機能しているわけじゃない。元々脳がない武器の状態で自我なんかを持っていたのだし、ここら辺は未だ解明されていない精神の部分ということか。
しかし、これは確かに、擬人化とも言うべきものだ。魔力を使用して維持していることからも、あくまで似せているだけで、本物じゃない。
だが、それでもティソティウスは動いているし、無感情でありながら、その中に僅かには何かある気がするのだ。
真に無感情ならば、俺の体をこんなペタペタとは触らないだろう。多分。つまり、感情の起伏が極端に乏しいだけで、あるはずだ。
なぜなら俺は、ティソティウスが魔剣である時に、その
「……って、次はそっちか」
恋人繋ぎも程々に、俺の胸元をまさぐり始めたティソティウスに言う。
まぁ服の上からだし、俺は男だから別にいいが、無遠慮にも程があるな。仮にも主ということなのだし。
しかし、困ったものだ。今日なんの予定もなかったのは、実はこうしてティソティウスが現れることを予期していたからじゃないだろうな、俺。
結局今日の予定は、この少女についての対応で埋まりそうだ。
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