✕✕話 節度ある対応を
はい、3話目です。ちょっとお色気。
で、次回がまだ書き終わってないので未定になってしまいますがすいません……多分タイミング合わせのために、数日投稿を休むことになるかもしれませんので、そちらも申し訳ない……。
5/13 この後のお話はえちえち過ぎて運営さんから怒られてしまったので、削除致しました……読みたい方は、私のTwitterのDMや、なろうのメッセージ機能などを使っていただければ、お話をお送り致します。
申し訳ない、いやほんと、あのお話は反省しなければ……
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昼食の時間ともなれば、別に勇者だからと特別なことは……過酷な土地でサバイバル生活をしていたから、人によっては食べるのが異常に早いかったり、カロリーメイトなどを食している奴もいるというのはあるが、少なくとも隠さなきゃいけないほどのことはない。
だがしかし、うちの学年特有のことといえば、ぼっち飯はまず居ない。結束が高いからか、全員が全員誰かしらと食っていたりするし、その輪に入るハードルも極端に低い。
さて、そんな俺であるが、昼は二パターンがある。
友人達と食うか、妹と食うか。この二つである。
だいたいその決定権は俺にはない。何故なら……。
「刀哉にぃご飯、ご飯食べよ!」
「兄さん、こんにちは」
こんな感じで向こう側に委ねられるからだ。
三年生の階に臆することなく入ってくる金光達は、これまた臆することなく入口から俺の名を呼ぶ。
あぁ、白い視線が……周囲へのアピールのために、これみよがしに頭を抱えてみせるのは、ささやかな抵抗だ。
朝一緒に登校、というのは別に見られても構わない。同じ家から出ているのだし、その点に関してだけはやましいことも何も無い。
だが昼食を一緒にというのは……流石に恥ずかしいのなんの。ただし俺には恥ずかしいと思うことだけしか許されていないため、拒否権は無いのだが。
無いというか、俺の精神的に妹の言葉を拒否できないというか。
「まーた妹と一緒に食べるらしいぞ」
「ホントシスコンだなあいつ」
「というか、本当に昼食うだけか? もしや……」
そんな声が聞こえてくるような気がする。気がするだけで、実際に誰かがそんなことを言っている訳では無いけども。
「どしたの刀哉にぃ?」
「いや……兄冥利に尽きるなと思ってただけだ」
「お? そうだよそうだよ、こんな美少女妹二人にお昼ご飯誘われるのなんて、刀哉にぃぐらいだよ。感謝してよね?」
恩着せがましいなこいつ。ありがためとせがむ金光の額を小突き「あいたっ」つつ、廊下に出る。
わざとらしく声を出すな。痛くないだろ。
感じる視線はきっと気の所為意識のし過ぎ。いやむしろ今更と思えばいいのだ。朝に何度も感じてるじゃないか。
「兄さん、今日は屋上でいい?」
「おう、俺は構わんが」
「ん。本当はあまり人がいるところは恥ずかしいんだけど……」
「気にしたって仕方ないからなぁ」
俺が言えたことではないが。
以前のクーファと言えば、金光と同じで人前でもスキンシップをとることに抵抗が無い様子だったが、最近では逆に恥ずかしがるようになっていた。
元々人見知りはする方だが、そういう訳では無い。恐らくだが、俺との関係の変化が、クーファの価値観や認識にも少し変化をもたらしたのだろう。
例えばそう、俺が今、昼食を一緒に食べることに少し恥ずかしさを感じるように。その理由は、やはり実際にやましい関係があるからか。
それを考えれば、そんなことをちっとも気にせずに俺の腕を抱き寄せてズカズカと歩く金光は凄いなと思う。堂々としてればむしろ平気という考えなのか、前々から思っていたように羞恥心をどこかに捨ててきてしまったのか。
でも多分俺も堂々としだしたら、周りからは終わってるような視線で見られると思うので、せめて、少しでも引きづられてる感を出す。
そんな中、ようやく屋上へと辿り着くと、意外にも人は少なかった。というか居なかった。
屋上庭園と呼べるような、自然溢れる場所。この高校自体近年建てられたものらしいが、恐らく全国を見てもここまで綺麗な屋上はないだろう。そもそも屋上に庭園がある高校自体、数が少ないと思われる。
低木や花が植わり、芝生の上にはベンチやテーブルが存在し、学校屈指の昼食スポットとなっているのだが。
俺は金光を見る。スッと視線を細めれば、金光はきょとんとした顔になって……。
「お前、認識阻害の魔法かけたな?」
「っ、な、何を言ってるのかな刀哉にぃ?」
図星らしい。どうやら余程バレない自信があったのか、俺が顔を向けても素知らぬ顔をしていたのに、今や一転して『ギクッ』と擬音がなりそうなぐらいに肩を硬直させていた。
「認識阻害。なぁクーファ、金光はそれ系の魔法使ったろ?」
「……ん、使ってた。私は他の人が可哀想って言ったけど、姉さんがたまにはいいじゃんって」
「あぁクーファちゃん酷い! バラさないでって言ったのにぃ!!」
「だって、もう兄さんにバレてるし」
「それでも言わないでよぉ……」
更に妹にそんなことを言う始末である。ダメだなぁこの姉、もとい妹。話からして、事前に仕組んでいたようだし。
「はぁ~……この感じ、大方
「うぐっ、そ、そういえば刀哉にぃはそういう眼を持ってましたね……」
ということはやはりそうか。一慶には後で彼女との行為中にすぐに果ててしまう呪いをかけよう。数日間程度の呪いなら指の一振で気付かれずにかけることが出来る。
にしても、普段なら絶対十人近くは居るのに一人もいなかったら、異世界帰りの者なら魔法を疑うのは当たり前だ。そこら辺抜けているというか、そこを考えさせないようにするなら、金光自身が、人がいないことに真っ先に疑問を抱くように見せかけなければならなかった。
それでもわかるだろうけど。
「全く、人気スポットなんだから、独占しようと考えるなよ。他に人が居たって変わらんだろうが」
「だ、だって~……こうでもしないと刀哉にぃとイチャイチャできないんだもん」
と、小声で漏らす金光。両手の人差し指を胸の前でつんつんとしている仕草が、またなんとも拗ねているというかそんな態度を表している。
ちなみにイチャイチャと言うならこうやって一緒に食べようとしてる時点で十分だ。それ以上は校内では慎めという話である。
「素直になれよ~。刀哉にぃだってイチャイチャしたいでしょ? クーファちゃんだってそうでしょ?」
「……私は、別に、兄さんといられればそれで……」
「うっそだぁ。私は知ってるよクーファちゃん。学校では常に欲求不満そうな顔をしているのを!」
「よ、欲求って……そ、そんな顔、してない……!」
金光の物言いに顔を真っ赤にして否定するクーファは、すぐに俺の方に向いた。
「に、兄さん、違うの! 私そんなこと……」
「わかってるから大丈夫だ。どっちかって言うと欲求不満なのは金光の方だしな」
「ひ、酷い! いや間違ってないけど!」
「それより、だ。認識阻害の魔法は解かせてもらうからな。ここは皆の場所だ。俺たちだけで独占するんだったら、それこそ全員の了承を得るとかしないとダメだ」
「……むぅ~……分かったよ。別に私だって、迷惑かけたいわけじゃないしさ」
不満顔ではあるが、金光は仕方ないと頷いた。全く、良かれと思ってというか、動機が俺とイチャイチャしたいという話であると、複雑だ。それだけ想われているのは嬉しいが、周りに───恐らく魔法の効果を受けた者達は気づいていないだろうが───迷惑をかけてまでして欲しくはない。
金光の了承を得たので、俺は少し意識をそちらにやって、魔力同調から入って魔法を解除する。強い魔力で無理矢理押し流せば誰でも魔法の解除は可能だが、やはり魔力同調以上の効率のものは無い。
流石に勇者の中でも、あの拓磨にすら匹敵するかもしれないポテンシャルを持つ金光の魔法、それに加えて勇者の隠蔽能力が働いているとなると、少し手間取りはしたが、それでも一瞬と形容して問題ない時間で終わる。
「あ~あ、刀哉にぃとイチャイチャキャッキャウフフしたかったのに」
「なんか増えてるぞ」
「クーファちゃんがさぁ、一緒に強請ってくれれば、きっと刀哉にぃも折れたんだよ、このこの~」
「ね、姉さんやめてよ……」
悪ノリしたのか、クーファの胸辺りを横からツンツンと指でつつく金光。全く、普段から二人はどんなことをしていたのか知らないが、どうも性的イタズラ多いぞこいつ。
クーファはともかく、金光にはレズの気があると思う。こいつ結構シスコンだし。聞いた話によれば、クーファを所謂
その逆もまた然り、なのだろう。
『刀哉にぃをおかずにしたこともあるけどね!』と胸を張って豪語していた金光の姿を思い出す。同時にレズエッチなるものを行ったこともあるらしい。
別にクーファも恥ずかしがってるだけで本気で嫌がってるわけじゃないので、特に止めることも無く、いつも俺らが使用している定位置に着く。食ってる途中にクーファにイタズラされても困るので、金光とクーファを俺の両隣りに置く。
見事両手に花状態だ。片方は微妙だが。
「さてさて今日のお弁当は……おぉっ、唐揚げにハンバーグじゃん! 豪華!」
「唐揚げは昨日の残りだけどな、好きだろ?」
「そりゃもちろん!」
「こっちは、卵とベーコンエッグ。兄さんって、毎回私と姉さんで内容変えるよね。ほとんど手作りだし」
「同じのとか冷凍食品系はなんか手を抜いてる感じがしてな。一応変えてる」
それに、金光とクーファは明らかに手作りの方が喜ぶのだ。俺の料理の腕なんて並程度だろうに。
だがそんな風に喜ばれると嬉しくなってしまうわけで、だから基本手作りである。手作りとはいっても、レシピは有り触れたもので、何も特別では無いのだが。
ちなみに二人とも嫌いなものがほとんど無いので、おかず作りは非常に楽だ。栄養バランスを考えつつ、二人の好きな物を入れることが出来る。
料理と言えば、『料理長』と呼ばれる同級生が、料理に関する能力を持っていて、あいつの作る料理がくっそ上手くて美味いのを思い出す。
魔族と戦争していた最前線ではよく支えられた。食べるだけで強くなる料理で、バフ効果としてはお手軽かつ腹も満たせて味も最良と、何気一番必要とされている人物だったかもしれない。何せ具体的な数値でいえばパラメータを1.5倍近くまで引きあげて、体の再生能力を強化し、感覚を鋭敏にさせてくれるのだ。マジでなんの害もない(はずの)ドービングである。
その分戦闘に直接参加することはほとんどなかったが、俺とて支えられたものだ。
流石にバフ効果は能力なので真似出来ないが、より良い料理作りのために、今度弟子入りするか……っと、食事中に考え事して手を止めるのは良くないな。
「やっぱ刀哉にぃは私達のこと大好きだよねぇ」
「あぁ、大好きだぞ───クーファ」
「え、私は!?」
「好きだぞ金光」
「大がついてない!」
恥ずかしくなったのでからかえば、金光は抗議の声を上げてくる。全く、欲張りなやつである。実の兄から面と向かって好きだと言われてるのに満足しないなど、妹としてどうなのだ?
その妹に真顔で好きと言ってる俺もどうなんだろうか。前ならそんなことを考えそうだが、今の俺は取り繕うことをしない。
「私も、兄さんのこと大好き……」
「あぁ、ありがとな」
「ぐぬっ、クーファちゃんのそういう所ズルい……わ、私も、刀哉にぃのこと、だいす───」
「飯冷めるぞ」
「ねぇ刀哉にぃそれはなくない!?」
俺の腕を掴んで涙目で更に抗議。全く、からかうのが楽しいのなんの。
「冗談だ。大好きだぞ金光」
「っ、と、刀哉にぃの女たらし! シスコン! 鬼畜ぅ!」
「と言いつつ?」
「でも大好き!」
おぉ、女たらしでシスコンな鬼畜が好きとか、お前いい趣味してるな。
それを言えばまた涙目になりそうなので我慢しましょ。
「そろそろ昼飯に専念しないか?」
「学校ではこの時ぐらいしか刀哉にぃと会える時間が無いんだよ? この時間でいっぱいおしゃべりしてイチャイチャするのは当然だと思います!」
「ん……ごめんね兄さん」
「………いや、そういうことならな。ただ時間かけて途中で腹がいっぱいにならないか心配なだけだ」
「刀哉にぃが作ってくれたご飯残すなんて有り得ないよ」
真面目に言ってるのが困る。というか本当に欠片も疑ってないのが凄い。一種の使命すら感じてるんじゃなかろうか。
昼休みは残り40分程度。まだ付き合わなきゃいけなさそうだ。
そうこうしているうちに、という訳でもなく、不思議なことに魔法を解いても人が上がってくることは無かった。
もう飯は食い終わったが、まだ時間は残っている。三人でゆっくり過ごしているのだが、誰も来ないから貸切状態だ。
認識阻害の効果でもう皆他の場所で食べ始めてしまったのだろうか。いくら認識阻害を解いても、教室で食べ出したら『あ、やっぱ屋上に行こう』とは思わないだろう。俺だったら屋上で食べればよかったなと思いつつも、面倒くさいからそのまま教室で食べてしまう。
一度だけ扉の目の前まで来た人は居たのだが、その人達もそこで引き返してしまった。
果たして、何を思ったのだろうか。二人組、昼時、カップル……カップルかどうかは俺の想像だが、それだったら分かる気もする。
そうなると、俺たちの声が聞こえて、屋上には誰かが既にいると悟って引き返したのだろう。
……最近男女の組を見たらそういうことしか考えられないのは、爛れた生活の影響だろうか。
そんな思考をしたからか、弁当を片付けた金光がしなだれかかってくる。
「ねぇ刀哉にぃ……誰も来ないしさ~?」
「……おい、お前は万年発情期か?」
「ちょ、姉さんっ」
もしかしたら同じことを考えていたのだろうか、さり気なく手を滑らせてくる金光。クーファは場所やタイミングをわきまえているのに、こいつは暇さえあればこれだ。
「この体に快楽を教え込んだのは刀哉にぃじゃん……責任、取ってよ?」
「人聞きの悪い。その快楽を欲しがったのはお前だろ、このエロ妹が。クーファを見習って節度というものを持ったらどうだ?」
「クーファちゃんが節度? 違うよ刀哉にぃ、これは溜めだよ溜め」
「なんだ溜めって」
力を蓄えてるのか?
「学校では我慢して我慢して、家に帰ったらその分たくさん甘える。最近のクーファちゃんは家での甘えが尋常じゃないの、気づいてないとは言わせない!」
「……まぁ、言われてみれば確かに……って、お前も家でクーファと同等以上に甘えてるじゃねぇか。さもクーファの方が甘えてるみたいに言うんじゃない」
「そそ、そんな事ないよ! きっと、多分……うん、クーファちゃんの方が甘えてる、よ? 多分」
「そうかそうか。クーファ、どう思う?」
「姉さんの方が甘えてる。だって私、姉さんより朝練とか部活あるし」
「だそうだが……時間的にもお前の方がどう考えても甘えてんな」
「そ、それはその……あ、クーファちゃんもしたいかしたくないかで言えば、刀哉にぃとエッチなこと……もといイチャイチャしたいよね!?」
状況が不利になったと見るや、今度はそんなことを言い出す金光。ホント
聞いていることが酷い。
「えっ、えっと……」
そんな金光の策略にハマり、チラチラこちらを見るクーファ。クーファは子供のように『好き』と伝えることに抵抗は無いが、初心だ。そういうことを面と向かって聞かれれば普通の女の子のように恥ずかしがるのは当然と言えよう。
金光は『エッチしたい』とか『欲求不満』とかそういうことを躊躇いなく口にするが……そういう痴女的な部分は多分金光に持ってかれたんだろう。
それでも、根が素直な子なので、答えてしまうのだが。
「……ど、どっちかって言えば、兄さんとしたい、けど……」
「だよね、だよね! 刀哉にぃ、クーファちゃんもこう言ってるしさぁ?」
「だからエッチしようってか?」
「そこまで言ってないけど、刀哉にぃがしたいなら……」
「いや言ってたろ今」
取り繕っただけで言ってたろこの野郎。
「でも、私とクーファちゃんの思いは一緒! 刀哉にぃが私達のこと『大好き』で『愛して』て『世界の誰よりも大切』で『刀哉にぃ@嫁は妹』って思ってるなら、その本能と欲望に従って、私達にエッチなことするべきだと思います。正直最近ご無沙汰で性欲を持て余してるから」
「アホか」
最後、何を人妻のようなことを言っているのか。そして『@嫁は妹』ってなんだ。結婚式とかなにも挙げてないし。
……いやまて、状況証拠的には何も間違ってないのか……?
「さぁさぁさぁ!」
「おまっ、だからそっちに手を伸ばすな。触れようとするな。ここが学校である限り俺はせんぞ」
「そうは言うけどね、こっちにはクーファちゃんがいるんだよ」
そうニヤリと笑う金光は、クーファに顔を向けて。
「クーファちゃん、多分刀哉にぃも満更じゃないから、今押せばしてくれるよ。というかするよ。だってズボンの下がもう……」
「馬鹿、お前何把握してんだ」
「だってこの体勢だと私の脇腹に当たるんだもん」
いやそれはわかるけど、だったらそのままにしないで離れろや。俺がさっきから離そうとしてるの分かるだろ。
そしてそれを聞いたクーファが、またチラチラと俺を見る。『兄さん、ホントに?』みたいな声が聞こえてきそうというか、実際そう思ってるだろう。
「……に、兄さん、私……」
「よし分かったクーファ、帰ったら
「た、たっぷり?」
「あぁ、たっぷりだ。だから我慢しようか」
「ななっ、刀哉にぃそれはずるいよ!」
「うるさい。今朝拓磨にお前らとの関係について心配されたけど、大丈夫って返したんだよ。そんな傍から学校で手を出してみろ……あいつのことだから勘づくぞ。俺の信用ガタ落ちだぞ? 広めることはしないと思うがしばらく根に持たれるぞ」
現に、初めて金光達としてしまったことを正直に打ち明けた時には、気持ちの整理と称してしばらくは顔を合わせてくれなかったものだ。
例えば、叶恵は少し悲しそうにしていたが受け入れてくれ、美咲も金光達側に共感出来たからか、複雑そうにしながらも受け入れていたし、樹は引いていたが何も言わなかった。
恐らく、一番真面目な拓磨だったからこそなのだろう。それでも拓磨もまた受け入れてくれたことには感謝するしかないが、流石に節操なしであると思われるのは友人としても怖い。
今更絶縁とか、距離を置かれるとか、そんなことはないと思うが、確実に、間違いなく俺の株価は大暴落だ。
……帰ってからするというのもまた何とも言えないが、まだ大丈夫だろう。最後にしたのは……一週間前だから。平気平気。
「……分かった、我慢する」
「あー買収された!」
「だって、兄さん困らせたくないし……か、帰ってからいっぱいしてくれるって、言うし……姉さんも、ここより家での方が、いっぱい出来るんだよ?」
「それは、そうなんだけど……我慢出来ないから今ちょちょっとやりたかったのに」
「何度も言うが学校でしようとするな、アホ。というかね、こんな誰かが見てるかもしれないところで出来るわけないだろ。俺は嫌だぞ、お前らの痴態が誰かに見られるとか。俺以外の人間に見られるとか……腸が煮えくり返りそうになる」
「え、えぇっ? そ、そんな、独占欲があるなんて……う、ううん、私は別に全然気にしないよ! 刀哉にぃが私の事独占したいなら、もう好きにしてって感じだから!」
すると、果たしてどこに琴線が触れたのか、急に嬉しそうに言い出す金光は、「もー仕方ないなぁ。家まで我慢するっ」とあたかも妥協してあげたように言ってくる。
独占欲というか、妹のそういう姿を見るのは自分だけでいいだろ、と思うのは普通ではないか。いや、妹のそういう姿を見るのは兄として普通ではないが、一般的なカップルとしては普通だと思います。
「じゃーさ、これは、代わりにって話で、あくまで出来たらで良いんだけど……」
「……何だよ」
「チューして?」
一瞬また額を小突くべきか迷った。手が出そう(デコピン的な意味で)になったのをギリギリで留め、代わりに眉間を揉む。
「………クーファ、金光がキスをご所望だからしてこい。姉妹でもキスぐらいなら良いだろ」
「え、姉さんと?」
「いや違うでしょ! あ、別にクーファちゃんが嫌ってわけじゃないしむしろ後でしたいけど、今は刀哉にぃとしたかったの!」
「おぉいナチュラルにシスコンを発揮するな」
やはりレズの気があるのか。
ふむ、姉妹のキスか……俺はレズには別に何の、これっぽっちも興味はないが、自分に好意を抱いてくれている二人がするというのは……なんだろう、それはそれでゾクゾクするし、見てみたい気はする。
俺も変態度に磨きがかかったかな。全く嬉しくないし誇れない。
「そんなにキスがしたいならしてもいいが、やったらしばらく学校では大人しくしてろよ?」
「え、いいの?」
「まぁ、学校でキスぐらいならしてる奴もいるだろうしな。許容範囲内だ。もう一度言うが、代わりにしばらくは大人しくしてろよ」
「う、うん」
結局俺は折れる。何だかんだ、節度節度とは言ってるし、我慢しろとか言っている俺であるが、それはつまり、俺もしたいけど仕方なく我慢しているという意味で……まぁ、そういうことだ。
建前としてはキスぐらいなら許容できる、と言ってはいるが、実際のところ、少しは触れ合いたいというのもある。
言ったら調子に乗るので、思うだけに留めているが。
「じゃあ、えっと、お願いしま~す」
「……調子狂うなぁこういう形でキスすんの」
「え、に、兄さんホントにするの?」
「まぁ、一応」
慌てるクーファに、俺は微妙な表情で頷いて、体勢を整えた。わざわざ立たせるのもあれなので、座った金光の正面に立って、覗き込むように顔を近づける。
なんだか、『キスしよ!』『仕方ないな』の間にワンクッション挟んでるからどうもやりづらいというか。それを頑張って抑える。
「ん~~~」
「なんだその声。いいから黙ってろ、ムードぶち壊しだから」
「いやだって……なんか改まると恥ずかしいんだもん。ちょっとギャグっぽくしようかなって思ったんだもん」
「多分見てるクーファが一番恥ずかしいから。ほら、早くお前も寄せろ」
「わわ、分かったよ……」
と、珍しく恥ずかしがりながら、口を近づける金光。普段はどちらかといえば無理矢理してくるタイプの金光も、最後の一押しはしてこない。
もうこれ以上焦れったくなるのは嫌だ。サササっとやってしまおう、と俺はそのまま金光の口を塞いでしまった。
きゅっと、金光の体が一瞬強ばる。体勢が体勢なので首と腰が辛いが、それこそムードぶち壊しなので、その体勢を頑張って維持しつつ。
「んっ………ね、ねぇ、刀哉にぃ?」
「分かってる」
唇を触れ合わせただけのものに困惑顔を向けた金光だが、俺は一言答える。
当たり前のように『なんでディープキスしないの?』と聞いている感じだが、ディープキスってこんな軽くやるものだっけか?
隣でクーファが耳まで赤くしながらも、チラチラとみている。何気に誰かがキスする瞬間など間近で見たことないはずなので、いくら自分がしたことあるとはいえ、刺激が強いのだろう。
可愛いことこの上ない。帰ったら少しからかってやろうかな。
ベンチに片膝を乗せて、逃げないように肩を掴んで……もう一度金光と口付けをする。
そしてそのまま、少しだけ開いた口から舌を絡ませ、水音を響かせていく。
「んっ……んんぅっ……んッ………とうやにぃ…………」
「………」
一度キスが始まれば、金光は俺の首に腕を回して密着してくる。
体が熱い。絡んだ舌はとにかく気持ちよくて、ここが学校であるということも忘れてそのまま押し倒してしまいそうで……。
何より名前を呼ばれるのがダメだった。確実に、学校じゃなかったらその先までやっていただろう。
一応クーファの目もあったから、抑えられはしたものの。
「……ちょっ、お前、いつまで───」
「もう………ん……ちょっ、と………ッ」
一度離れた唇が、再度、強く押し付けられる。俺のことを離さずに、いや、むしろ俺の方に来て、そのまま押し倒そうとするかのように。
ガタガタっ! と少し派手に地面に倒れる。
「あ、兄さんっ」
クーファの声が聞こえるが、痛みはない。この程度で痛みなど感じないし、常時張り巡らせている微弱な『
だが、妹に押し倒される兄とはこれ如何に。
「ん…………ぷはっ……はぁっ、はぁっ……」
「……お前なぁ」
とはいえ流石に、馬乗りになった金光を咎めようとするが、しかし───。
「はぁ~っ……やばっ、体めっちゃ熱い……」
「っ、おま、おい、馬鹿」
やはりスイッチが入ってしまったようだ。金光は水気のある吐息を漏らすと、そのまま上半身を倒して、俺の体に密着する。
速い鼓動が、金光の慎ましやかな胸を通して伝わる。だがもう羞恥を感じる段階ではない。高揚もとい興奮が、一定値を超えている。
そういうのは夜だけにしてください。お願いだから。
どうして俺が制止する側なのだ。ここまでされると流されてしまいたい気持ちが強くなってしまう。
更に金光は、俺の事を見て笑う。
「ねぇ刀哉にぃ……もう、しちゃお?」
そう言って俺の手を自身の胸に導く金光。制服の上からとはいえ、その控えめな胸は確かな柔らかさを持っていて……ポーカーフェイスが乱れる。
元のただただ仲のいい兄妹の頃だったら、普通に止められたのに。そうじゃなくなったから、一度一線を超えてしまっているから、確実に自制が効きにくくなっていて。
「それに刀哉にぃも、
しかも今となっては、金光は
───いやいやダメだろ。外でなんて、誰が遠くから見てるかも分からないし、衛生的でもない。青姦は守備範囲外である!
欲に負けそうな心を、俺はギリギリ耐えようと試みてみる。いっその事魔法でも使おうか。
だが、歯止めが効かない金光は、俺のようにどうにか我慢しようとするのではなく、むしろこのまま行ってしまえという勢いに任せた様子が伺えるため、俺の自制心ももたなそうだ。
「───姉さん、ダメ」
そうやって俺が真面目にどうしようかと考え始めた時、隣で見ていたクーファがいよいよ耐えきれなくなって、
もちろん、幾ら夢中になっているとはいえ、元勇者。金光は蕩けた顔をまるで仮面でもつけたように一瞬で切りかえて俺の上から飛びずさった。
粘性のある闇の奔流が俺の上を通り過ぎ、金光も流石に魔法を使われたことに驚いた様子でクーファの方を向いていた。
「ちょっ、クーファちゃん魔法はやりすぎでしょ!」
「……だって、姉さんが兄さんに迷惑かけようとするから」
「いやそうだとしても危ないから!」
「姉さんは、こうでもしないと退かない」
その間に、俺は乱れた鼓動を整えて、体の状態も元に
俺がもう通常通りであることを悟ったようだ。
「……えっと、刀哉にぃ?」
「この馬鹿野郎」
恐る恐る聞いてきた金光に俺は躊躇いなく拳を振り下ろした。ガツン、と鈍い音が鳴って、割と真面目な声で「痛いっ!」と声が上がる。
涙目で頭を押える金光が、恨みがましい目でこちらを見上げてくるが、俺は咎める視線を向け続ける。
「あぅ~……い、痛いよ、刀哉にぃ」
「何が、キスしたら大人しくしてる、だよ。全然大人しくできてないじゃねぇか、このアホ。痴女でももう少し節度があるぞ」
「で、でも、刀哉にぃも乗り気だったじゃん! 満更でもなさそうだったじゃん!」
「あれは乗り気じゃなくて自制してたんだよバカ」
「う、うぅ……でもぉ……」
金光が縮こまる。小声で「だって我慢できなかったんだもん……私じゃなくてもうこれは刀哉にぃに責任があると思うのに……」なんて言っているので、反省しているわけじゃなさそうだ。
むしろ俺のせいにしてくるのは完全におかしい。それはレイプをした人間が『俺が悪いんじゃない、俺をレイプさせる気にしたこの女が悪いんだ!』と言っているような理不尽さである。
「……はぁ。ほらこっち来い。体元に戻してやるから、それで平常心になれ」
最早呆れしかない。別に本気で言っているわけじゃなく、あくまで態度としてなのだろうが、それでもまぁ強かといいますか。
ブツブツ愚痴のようなものを言いながら近寄る金光の体を、時間を遡って正常の状態に戻してやる。すると、ふっと顔の赤らみが消える。
別に精神に干渉しているわけではないが、体の各器官の活動を平常時にすることは、アドレナリンやらその他諸々説明の面倒くさいようなものも全てが普通通りに戻るので、結果として精神を落ち着かせることになる。
精神と肉体は別物だ。だが、関係がない訳では無い。だから肉体が正常になれば、自然と鼓動の高鳴りや顔の熱なども消え、鎮静化する。そうすれば思考も元に戻っていく、ということだ。
「全く、最初からこうしてればよかったな」
「刀哉にぃに対するエッチな気分が無かったことになるから、私あんまり好きじゃない」
「エッチな気分とか言うな。はしたない」
そこまで言って、ふと、クーファを見る。
「クーファ、お前もさっきは少しやりすぎだぞ。声をかけてくれれば良かったのに」
「ん、私、兄さんと姉さんに声かけた。でも何も返事がなかったから、仕方なく魔法使っただけだよ」
と、先程のことを叱れば、淡々と、だが先程のことを思い出してかまだ少し赤い頬で答えられる。
声をかけた……? 金光を見ると、金光はフルフルと首を横に振った。
だがクーファが嘘を言っている訳では無いだろう。つまりだ。
「……そんなに動揺してたのか、俺……いや、まぁなんだ、そういうことなら仕方ない。悪かったな怒って」
「別にいいよ。それに、姉さんのこと、ズルいって思っちゃったのも、あるし……」
「ん? なんだよなんだよ、クーファちゃんもそう思ってたんなら混ざれば───あいたっ!?」
馬鹿なこと言ってる金光には一発入れておいて、全く可愛いこと言う。
こうも心地よい嫉妬はないだろう。いやまぁ、嫉妬を向けられているのは金光なのだが。
「……そうだな、金光は確かにズルいな。だから、真面目に待ってたクーファは偉いよ。金光とは違って。だから今日は帰ったらお前だけに時間を使うよ。金光は今日は放っておこうか」
「………ん、ありがと兄さん」
「ちょっと待って刀哉にぃ、それって私はどうなるの? 最近私もしてもらってないし、刀哉にぃとそろそろ情熱的に愛し合いたいんだけど」
「クーファ。今の俺には、お前だけ居ればいいよ」
「ちょ、お願いだから刀哉にぃ無視はやめて! あ、謝るから、ホントに! さっきまでのことは全部私が悪かったし、約束破ったのも謝るから! か、代わりに私の事好きにしていいから!」
金光の叫び声が屋上に木霊する。最後に願望が入ってるあたり全然罰を受ける気がない金光には、後で俺から説教をプレゼントしてやろう。
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