第7章 学園編

プロローグ 泡沫の夢

 何気初のプロローグ。プロローグなのでとても凄くホントに短いですが、お許しください。


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 「────刀哉、にぃ……?」


 少女の目が少年の背中を捉えると、掠れた声で呟いた。


 後ろ姿であれど、見間違えるはずもない。以前まではほぼ毎日見ていたのだから。

 ただ視界に入れていたのではなく、意識して、目で追うように、その姿を視界に入れ続けていた。


 だから見間違うこともなければ、疑念になることも無い。ただ一度だけで、少女はすぐに理解した。

 

 ───もう会えないと思っていた。諦めていた。

 ───それでも、僅かな希望を頼りに生きてきた。

 ───だから、今目の前にいるのは、その奇跡に縋ったおかげ。


 少年が少女に気づき、振り返る。その時には、少女の足は地面を離れていた。

 駆け出した少女に、驚きの視線が向けられる。それは、突然の行動に対するものか、少女という存在に対するものか。


 それに構わず少年に近づいた少女は、その顔に知らず知らず、涙と笑顔を浮かべていた。


 少女と少年の距離が、ほとんどゼロとなる。少女は硬直した少年の首に手を回すと、そのまま衝動に任せるように自身の顔に引き寄せ────




 「───ご主人様、起きてよ」

 「ん………」


 唐突に声をかけられた刀哉は、暗闇から意識を引き上げた。

 その時には、夢の内容は全く覚えていなかった。

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