第1話 道中
今書いてる部分がエロすぎて、常に悶々としてます。イミティです。万年発情期ですよこれじゃ。
………なんの報告なんでしょうかね? 開幕堂々セクハラとは酷い。
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大きく肩を揺さぶられ、俺は目が覚めた。
寝起きの微睡みなどは一切なく、一瞬にして平常時まで覚醒した意識が、瞬時に周囲の状況を把握し、起こしてくれた少女────ルナへと顔を向ける。
「悪い、寝てたか」
「うん、すごい熟睡してたよご主人様」
「……どのくらいだ?」
「六時間くらい、かな」
そんなにか。よく見れば、寝る前は昼間だったのに、既に馬車の外の景色は夕焼け色に染まっていた。
意図せず寝てしまうなんて珍しいなと自身で思いつつ、ふと膝が重いことに気がつく。
いや、実を言えば視界には入っていたのだ。
「……寝起きは生理現象があるから危ないんだけどなぁ」
「ゴシュジンサマ?」
「冗談だよ」
膝の上で寝ているミレディを見つつ零すと、やたら片言でルナから冷たい視線が飛んでくる。それこそ、変なことしたら刺すよ? とでも言わんばかりだ。
もちろん変なことをするはずもなく、固まってしまった身体を一度伸ばす。ガタガタと揺れる馬車ではあるが、今更痛みに呻いたりなんてことはしない。
一応クッションは敷いているものの、完全に衝撃を無くせる訳では無い。だからルナも膝立ちのようになっているのだろう。魔法を使えばやりようはあるだろうが、面倒くさいのでやらない。
「んーっ、と……寝てる間に何も無かったかな?」
「うん、一個街を経由したぐらいよ。起こした方が良かった?」
「いや、大丈夫。俺も疲れてたからな、ちょうどよかった」
考えれば、スタンピード的な異変に、クロエちゃんの件と、働き詰めではあった。精神的ストレスは極力感じないようにしているものの、ゼロにすることは出来ないし、何気に『
どこかでガタが来る前に休息をとることができたのは、ある意味朗報だ。どうせ今夜も寝ないのだろうし。
「ぅしっと、ちょっと外の空気を吸ってくる」
「あ、うん。行ってらっしゃい」
膝の上にあるミレディの頭をゆっくりと持ち上げて、クッションの上に寝かそうとする。すると、俺の体にくっついていたグラが、すかさずミレディの枕のように、クッションとミレディの間に入ってくる。
「枕の代わりか?」
『プル』
肯定したように感じたので、俺はグラにミレディの枕を頼んだ。ルナとは既に顔合わせしているが、グラの身体の感触が面白いのだろうか、何度もつついている。
それにしても、この体勢からすると、俺が寝た後に、ミレディは俺の隣に来たのだろうか。そう知れば嫌われている訳では無いと分かるので、悲しくはない。
楽しんでいるルナを尻目に馬車の外に身を乗り出し、そのまま御者台へと出る。走行中の移動は危険だが、今更だろう。
「お疲れ様です、ハルマンさん」
「おや、トウヤ君、目が覚めましたか」
「えぇ。お陰様でぐっすりでした」
馬車の御者を務めていたハルマンさんの所へと行き、一言。馬車の速度は決して速いものでは無いが、恐らく俺が寝ているのを知って、速度を落としていたのだろう。
ちなみに、ハルマンさんには俺の事を『君』で呼んでもらうようにしている。というのも、一緒に旅をする中で、他人行儀な呼び方はやめようというだけなのだが。
「ところで、今日はもう少し先にある、ちょっとしたスペースで停めようかと思うのですが、いかがですか?」
「えぇ、そこで構いません」
ハルマンさんの申し出に俺は快く頷く。俺よりもハルマンさんのほうがこういった場所には詳しい。俺は立地もあまり分かっていないからな。
なら、特に意見する必要性は見当たらない。
「あ、ならその間、少し馬車の上に登ってもいいですか?」
「問題ありませんが……何か気になることでも?」
「いえ、単に風に当たりたいもので」
ハルマンさんに許可をとり、俺は馬車の上へと上る。本来乗る場所ではないため、はしごなんかついていないが、そこはそれ、魔法で直接転移すればいい。
「おお、これは中々……」
周囲に障害物がないからか、吹き抜けの風が身体に当たる。その感覚が何となく気持ちいい。
上から見る景色。草原と言うにふさわしい環境。
茜色に染まる草原は、どこか哀愁を感じさせ、のどかな雰囲気でもあった。
────魔物がいなければの話だが。
魔物がいるのを察知して、馬車の上からハルマンさんに声をかける。
「ハルマンさん、少し馬車を離れます」
「おや? どうしました?」
「ちょうど進行方向に魔物が居たので、ちょっと倒してこようかと」
「なるほど、分かりました。お手を煩わせますね」
「いえいえ、お互い様です」
見える範囲にはいないのに、ハルマンさんは俺の言葉を疑わずに頷いた。
この人も慣れてきたのだろうな、とどこか嬉しい自分がいて、俺は馬車から一度跳躍する。
地面に着く前に、俺は無詠唱で『
空中で突然消えた俺を、ハルマンさんはどう見ただろうか。既に転移している俺にはハルマンさんの表情など分からない。
まぁ、感心しているに留まるような気がするな。
『
「確か、クジャタだったか。始めて見るな」
[禁忌眼]は使っていないが、本の知識から、該当するであろう魔物を引っ張り出す。体躯の大きい牛型の魔物が5匹も並んでいると圧巻だ。
突如として現れた俺に、クジャタ達は驚いたように身を硬直させた。
「遊んでやりたいのは山々だが、今回は馬車で来てるからなぁ」
時間をかけて、万が一があったら目も当てられない。俺は呟きながら、クジャタへと歩み寄る。
ようやく硬直から抜け出したクジャタ、その先頭に居る個体が俺へと猛突進してきた。人間など易々とはね飛ばせるような速度に巨体。当たれば致命傷だろうな。
それを前にしながら、俺は一切恐怖も動揺もしない。一応言っておけば、なんの対策も無しに当たれば、俺とて重傷となるだろう。その後回復できるかどうかはともかくとして。
「『アイシクルソード』」
手の中に、氷で出来た剣を作り出す。透き通るような水色の剣は、握っても冷たさを感じさせない。
しかしそれは、もちろん冷気を放っていない、という意味ではない。
氷の剣を、その場で地面に突き刺す。地面は柔らかい土だが、それでもなんの抵抗もないというのは不自然だろう。
刀身の半ばまで剣は刺さると、その瞬間、地面との接触面から氷の茨が湧き出てくる。
その茨はたちまち成長し、突進してくるクジャタを迎え撃つように進んだ。
細く、少し衝撃を与えれば砕けてしまいそうな茨は、2mを超える体躯を持ったクジャタを相手にするには、些か以上に頼りなかった。
しかし現実は、その茨はクジャタに触れた途端、爆発的に成長すると、1秒にも満たない間にクジャタの身体にまとわりつき、完全に拘束した。
触れた場所から一気に凍結していき、みるみるうちにクジャタは氷の彫像へと姿を変える。
「おっと、この魔法はこれだけじゃないぞ」
誰にともなく語りかける。氷の茨は拘束したクジャタを媒体として、更に複数の茨となって、残りのクジャタへと這い進む。
『
仲間がやられたために、残りのクジャタはその茨から逃れようとするが、少し魔力を込めると、茨の動きはそれこそクジャタをも超える速度となる。
たちまち残りの4匹も茨に包まれ、氷の彫像と化す。キラキラとした輝きは、その氷によるものか。
僅か十数秒。それがクジャタを倒すまでにかかった時間だが、結局遊んでしまった感は否めない。
地面に刺した氷の剣を抜く。ちなみに言うと、先の魔法を発動するにあたって、これはなんの関係もない。ただ見栄え的にこれを媒体としてみただけに過ぎないのだ。
「さて、と……」
何となくこれらの彫像をハルマンさんに見せてみたいなと思ったため、俺はそのまま放置してみる。この魔法は対象の魔力を吸い尽くすという特殊なもののため、中にいる魔物は既に死に絶えている。例え氷が溶けることがあろうとも、中から出てくるのは死体だし、そもそも溶けることは無いだろう。
数分ほど待つと、馬車が視界に入ってくる。恐らく向こうからも、氷の何かがあるのは見えているだろう。
即席の氷の椅子を作り出して、俺はそこに腰掛けて待つ。冷たさを感じないのは、俺が魔法の使用者だからだ。
でなければ、今頃俺の尻は霜焼けしている。
馬車が近くまで来ると、ハルマンさんが苦笑いを向けてくる。
「これはこれは……見事な彫像ではありませんか」
「でしょう? 頑張って彫ったんですよ」
「なんと、素晴らしい才能ですよそれは」
これが魔物であるのは一目瞭然で、露ほどにも思ってないだろう言葉だが、ハルマンさんが俺に乗ってくれてるのは分かる。特に訂正せず、俺は馬車へと乗り込んだ。
「それにしても、少し寒いですね。トウヤ君どうにかなりませんか?」
「あ、すいません……これでどうですか?」
「おぉ、『アイスレジスト』ですか。寒くなくなりました」
そう言えば術者である俺はともかく、ハルマンさんなんかは氷の影響を受ける。
謝罪しつつ、無詠唱で『アイスレジスト』をかけておく。もちろん馬車の中にいるルナとミレディもだ。グラは寒さを感じるかわからないので、放置。
「ほえ~、凄いのね。ご主人様が作ったの?」
「そうだよ」
馬車の中から顔を出したルナが氷の彫像を見て言う。彼女は魔物との戦闘があったことなど知らないので、本心からそう思っていることだろう。
訂正するのも特に意味は無いので、俺は否定せず頷いていおく。まぁ、嘘を言っている訳でもないしな。
馬車で十分に離れてから、俺はその彫像を粉々に砕いた。
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