第5話 刀哉の場合
ちょ、ちょっと、ゴホッ……か、風邪が酷いでごわす……ゴホホっ、ゴホッ……というか熱も酷いし、ワンチャンインフルか、と思い始めた今日この頃。
でもまぁ、この投稿ぐらいは割かし楽なのでちゃんとやっていきますよっと。読者の皆様に若干の同情を持たせていくスタイル。
昨日前書きとかなかったのは風邪が原因です。はい。その分をここで書いてるだけ。
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「───ん?」
俺がそれを感じたのは、176層の迷宮を走り抜けている時だった。
『
魔力で何となく把握はできるが、目視しているのとしていないのとではまた違う。だから走って移動をしているのだが……。
現階層の道や魔物を確認しようと、魔力で索敵をした途端、異質な魔力を俺は感じとった。
魔物とも人族とも違う。俺が感じたことの無い魔力だ。
魔力が全く同じ存在など居ないが、基本的にはその種族によって、魔力の根元はある程度決まっている。
だが、その魔力のルーツは、俺が知っているものではなかった。
俺が遭ったことのない新種の魔物、とも考えられるが、その魔力は、あろうことか迷宮の壁の中だ。
迷宮の壁───正確には床、壁、天井など、迷宮に使われている素材───は、魔力をほとんど通さない。例外として、魔物が死体となり、魔力となって迷宮に還る場合だけ魔力を通すが、それとは違う。
その場合は魔力は下層に向かって流れていくはずなのだが、それはその場に留まっている。
先に言っておくと、俺ならば迷宮の壁の中に魔力を侵入させることは可能だ。
しかし、難易度は極めて高い。生物の体の内部に直接魔法を発動させるぐらいには、難しいと思う。
常人ならば不可能な範囲だ。
更にそこから、魔力をしばらく留めさせておくとなると、相当な魔力量を侵入させたか、魔力の質が極めて高いかのどちらかだ。
魔力は基本的に、自身の身体から離れた瞬間から、徐々に劣化していく。だから、長時間留めておくには、ある程度の劣化では問題ないほどの、量や質が必要となる。
そして、迷宮の壁の中であるという事実を考慮した場合、魔力量はともかく、質に関してはギルドマスターを凌ぐかもしれん。
───ギルドマスター、貴方の凄さがこんなところでも掠れていきますよ。
ギルドマスターが弱いように扱われそうだが、今の門真君達が総掛かりで倒せるかわからん程の相手なので、決してそんなことは無い。
……いや、まぁ多分俺が勝手にそう思ってるだけなんだろう。普通の人はギルドマスターを弱く扱わない。
───問題は、一体何故こんな所に魔力があるのか、ということだ。
残念ながら、この異質な魔力がどのような効果を持っているのかはわからない。[禁忌眼]は目視したものしか鑑定ができないため、壁の中にある魔力の詳細を知ることは出来ない。
[千里眼]も同様だ。壁の中に視界を転移しても、何も映らないだろう。
また、魔力同調で魔力の内容を探るのも難しい。
人間やエルフなどの、既に知りえている魔力ならば問題なかったと思うが、全くの別種族だと思われるため、1から解析しなければならない……。
せめてここでなければもっと詳細に探れたのだが、今の状態だと、迷宮の壁が邪魔をして魔力感知も上手く働かない。
そのため、同調するために必要な情報が集まりきらないので、同調が出来ないのだ。
まだまだ未熟である証拠だが、今できないことはできないのだ。
だが、ここは推測を確信にする必要がある。
一番有り得る可能性は、罠だ。今まで俺は一度も迷宮の罠に引っかかったことがないので何とも言えないが、考えられる可能性としては高い。
一応、丁度壁部分に魔力を発する何かが埋め込まれてるとかも考えられるが、その場合特に害がある訳でもないだろうし、考える必要性がない。
まぁ、気になるなら一度試してみればいいだけの話だ。
俺はその魔力がある場所まで走り寄る。直線距離で500メートルほど離れていたのだが、よくもまぁこの距離でわかったもんだと今更思う。
常に階層丸ごとを覆うように魔力による索敵を展開しているので、当たり前と言ったらそうなのかもしれないが。
500メートルの距離を数秒で移動し、俺はその魔力のすぐ近くまで来ていた。
どうやら通路の左右の壁に1つずつ仕掛けてあるらしい。ますます罠の可能性が高くなってきたな。
さてと、解除の目処がたってる訳でも無いし……やはり試すのが一番だな。
俺は、その場所へと臆することなく踏み込んだ。
「───ッ!?」
途端、ガコンと音がなり、物凄い勢いで左右から壁が押し出てきた。
壁から新たな壁が出現するという事態に驚きつつも、俺はすぐさまその壁の動きを
言うまでもなく、[時空魔法]による
壁の動きを完全に止めた俺は、そのまま壁の時間を巻き戻し、元の状態に戻すことで、事なきを得た。
───だが、罠はそれで終わりではなかった。
「ん?」
突如として空気を切り裂く音が聞こえたかと思えば、今度は通路の奥から、視界を埋め尽くすほどの量の矢が飛んできた。
それも、前方後方の両方から、高速で飛来してきている。
「ま、変わらんけどな」
腕を下から持ち上げ、振り下ろすと、それに合わせて全ての矢が床に落ちた。
カランカランと、矢が床に当たる乾いた音すらならない。
久々に使う[重力魔法]で、全ての矢を床に縫いつけたのだ。
「……へぇ」
だが、今度はその矢が突然発光しだし、次の瞬間には全ての矢が爆発を起こした。
一つ一つの爆発が、『
───が、その爆発によって、迷宮内に黒煙が充満することは無かった。
「誰だか知らんが、甘いなぁ」
『
俺の圧倒的な魔力で凍らされた空間では、魔力による爆発は起きない。そもそも、分子の運動を停止させているので、爆発は一瞬で収まる。
だが、それでも罠は終わらなかった。
「随分とまぁ」
突然俺のいる部分の天井が消えたかと思えば、代わりに鋭利な棘が生えた天井が押しつぶさんとばかりに降ってくる。
それが俺に当たるより前に、続いてまたしても通路の奥から、今度は渦巻く炎が迫ってくる。
明らかに殺す気満々だ。普通反則だろう。
だが、俺相手だとそれでも不足だ。
棘天井と炎、両方に腕を向けると、棘天井は動きを止め、炎は突然床から生成された水の壁に防がれた。
「っと」
その油断した隙を狙ったかのように、突如床が消え去るが、俺は[大地魔法]によって、消え去った床の分を一瞬で土で埋め立てることで、床を補充した。
[重力魔法]で宙に浮くことも可能だが、こちらの方が意外性が強い。
───それでも終わらないのは、本当になんなのか。
「今度はなんだよ……」
何か重いものが転がってくるような音が響き、俺はうんざりとしつつそちらに目を向ける。
どうやら今度は、ド定番である丸い岩を転がしてきたらしい。
ご丁寧に大きさはこの通路ぴったりで、抜け出す先はない。
「しかも退路を断つと来た!」
普通に逃げようとしたところで、背後に壁が出現し、逃げ道がなくなった。
転がってくる岩は、正確にはツルツルとした金属のようなもので出来ており、表面を何かの液体で濡らしていた。
その液体は、魔力の浸透を防ぐらしく、魔法発動を防止する役目を果たしているらしい。
ここまで来ると、俺も少しうざく感じてきていた。正直最初は楽しかったが、スリルが無くなると今度は時間を浪費してるだけに思えてしまう。
しかもこの液体があったところで、俺の魔法はおそらく防げない。
「めんどくさいなぁホント」
俺はぐるっと肩を回して、スキルの[金剛][剛力][闘気][全パラメータ倍加]を解放して、腰を落とす。
こういうのは普通逃げられるようにどこかに小道ができるはずだが、そんなものは見た感じ存在していない。
だったら、この罠に対する対処は簡単だ。
「せーのッ!!!」
俺はその場で腕を引き絞り、
ある程度封印を緩和した状態で、更にパラメータを底上げするスキルを使用した現在の俺が、迷宮の床に向かって本気で攻撃を放つ。
───さて、今までの非常識っぷりから、もう結果はわかるだろう。
今まで壊されたことがないらしい迷宮の床は、俺のたった一度の攻撃で一瞬にして崩壊し、その衝撃波だけで金属の玉は砕け散った。
俺の攻撃により、迷宮を物凄い地震が襲うが、その時には既に[時空魔法]でこの階層の空間を丸ごと固定している。そのため、この地震が地上まで届くことは無い。
そして、幾度とない罠はこれが最後だったらしく、破壊された床や、ヒビが入った周囲が元通り修復されると、それっきり俺に襲いかかる罠はなかった。
「どこの誰だか知らないが、随分と舐められたものだ」
まさかこんなピンポイントに狙ってくるとは。明らかに既存の罠ではあるまい。
俺はここにダンジョンマスターの影を見た。この迷宮のダンジョンマスターが、俺に狙いを定めたのではないか。
おそらくダンジョンマスターなら迷宮の様子も逐一調べられるはずだ。物凄いスピードで進行してくる存在がいれば、排除しようと動く可能性はある。
そもそも、俺は迷宮のシステムを『
もし反則をしたから反則で返したというなら……その時はお互い様ということにしてやろう。
殺されかけたにしては随分と甘いのは、おそらく俺が優しくなったとかではあるまい。
───今回の場合、明らかに、人間としておかしくなったと言うべきだろう。
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