第50話 厄介事は向こうからやってくる
すいません。普通に、ナチュラルに、なめらかに投稿を忘れていました……。
あ、明日、明日二話投稿致しますので……
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迷宮の魔物は、死体となったあと1時間ほど放置しておくと魔力となって消える。
俺は、阿修羅の骸が、その場で魔力となって迷宮に還るまで休憩をしていた。
「あっ……」
目の前で消えていく阿修羅に、何とも言えぬ感情が俺の胸を占める。切なさというか、儚さというか。
剣を通して、多少は分かり合えた気がしたのだ。そして、奴が前に戦った、110階層の
倒したはずの魔物と同一個体が出現した。これの意味を、俺は深く考えるつもりは無い。
一つ言えるのは、この迷宮の中でなら、奴とまた会える可能性があるということなのだ。
その時、恐らくやつは急激に強化されて襲ってくるだろうが、いつか俺の本気で相手したいと思う。
「……辛いな」
『プル』
俺の呟きに、グラが静かに身体を揺らした。
何故かこいつは、阿修羅を全く食べようとはしなかった。いつもは俺が何も言わないと、食べていいかと思いっきり催促してくるくせに、こいつは俺が休憩している間、隣で見ているだけだったのだ。
もしかしたら、グラも何かを感じ取ったのかもしれない。意思のある魔物。グラと同じように、阿修羅は正しくそれだった。
普通の魔物とは違い、グラもまた意思がある。同じ類の魔物であり、共感でも得たのか。
「……よしっ、待たせて悪いなグラ。さっさとボスを倒して、このモヤモヤを解消して帰ろう!」
『プルッ!』
その後、出てきた魔物を自重なく魔法で瞬殺し、ボス部屋前に辿り着き。
第155層、
「『
たったこれだけで倒してしまったのであった。
◆◇◆
「ふぅ……」
迷宮から帰った後、すっかり深夜と言ってもいい時間帯となった街中を、俺は散歩していた。
昨日に続いて寝る時間が短くなるのは体調的に良くないかもしれないが、何となくフラフラと歩きたくなったのだ。
放浪癖でも新しく増えたのだろうか。
まぁ、とにかくそんな訳で、夜の街を特にあてもなく散歩していた。
何とな~く誘われるようにメインストリートから外れた道に入り、そこから更に、賑やかな街に潜む、暗い一面を視界に入れた。
「……スラムってとこか?」
どうやら、俺が足を踏み入れた場所は丁度スラム街のような場所だったらしい。
この辺りは全くと言っていいほど人が居なかったから少し気になってはいたのだが、スラム街があるから誰も寄り付かなかったのか。
細い路地を抜けた先に広がるは、ボロボロとなり、辛うじて寝泊りだけなら行けそうな建物や、地べたに座って虚ろな目をする老若男女。
……帰っていいだろうか?
そんな選択肢が浮かぶが、俺はすぐに消した。いつまでこの街にいるかわからないが、土地勘はあった方がいいだろうという合理的な判断からだ。[完全記憶]があれば、一度通っただけても道順を把握できる。
何より、俺なら万が一もないだろうしな。
「にしても酷いな……」
少し歩きながらの感想がコレだ。
まさにゴミだめ。鼻をつんとつく悪臭に、汚れた住人。生気のない目からは、意思というものが一切感じられず、ただそこにいるだけのオブジェクトと成り果てている。
職にあぶれ、金が無くなったのか、何かの理由で表には居られないのか。スラムにいる住人の経緯を考えればこのぐらいしか思いつかない。
何となく、平和な日本との違いを見せつけられたような気がする……問題は、それに関して特に心を痛めた様子がない事だが。
ありふれたという訳では無いが、特筆すべきことは無い光景とでも言うかのような……取り敢えず先に進もう。
「…………」
歩いていると、たまにこちらを見てくる者がいる。変わらず目は虚ろだが、ジッとこちらを見つめてくるのだ。
精神的に病んでいるというか、こちらも病んでくるというか。言葉に出されないので、そこにどんな意図があるかも分からない。
目が虚ろだから、そこから感情を読み取ることも出来ない。
相当酷い場所であると確認出来る。
そして、たまにいる正常な奴らも、やはりスラム街の一員ということなのだろう。
自分からぶつかってきて財布を盗んでいこうとするが、生憎俺は『
指輪を狙われることもあるが、まぁ俺から奪えるわけなどない。
まぁ、スリを行っている大半が小学生ぐらいの子供であることも含めて、やはり暗い部分はとことん暗いのだなと思う訳だが。
そうして歩くこと数十分。スラムの奥の方まで来た。
外壁が見えてきたので、もう街の外周部なのだろう。これ以上先には行けず、細かい路地に入る気もないが……。
『ぐあぁっ!? 止めてくれェ!!』
「……なんだ?」
その時、近くから悲鳴が聞こえてきた。それはもう、野太い声で。
昨日に続いて今日もそういうイベントがあるのかと、俺は呆れながらも、取り敢えず見るだけ見ていこうと悲鳴の方向へと駆けつける。
細い道に入って進むと、角を曲がった先で、俺はカオスな光景を見た。
腹を抑えて転がる男と、その男の知り合いなのか、心配して駆け寄っている男2人と、そしてそんな3人を見ているローブを着た人物……。
えっと、明らかに怪しいんだが。
「おい、何をやってる」
取り敢えず、俺は出ていくことにした。今回は威圧感を込めるために、敬語ではなく普通の言葉で。
流石にスキルまでは解放しませんが。
「お、おういい所に!! だ、誰だか知らんが助けてくれぇ! 急にこいつに襲われて」
「待てっ、話を聞くのだ!! 我は悪いことは何もしとらん!!」
俺が出た途端、介抱していた片方の男とローブの男が反応した。
ローブの男の口調は些か特徴的だったが、それはともかく。
話の内容を聞くに、恐らくどちらかが本当のことを言っているのだろうが……。
「我はこやつらに絡まれて、仕方なく反撃したのだ!!」
「違う!! こいつが急にザクロの腹を殴ってきたんだ!!」
「そうだそうだ!! 俺も証人だ!!」
おうおう……なんだか分かりにくくなってきたな。全員が自分の主張をするからうるさいぞ。
取り敢えず双方の意見は食い違ってて厄介だなぁ。助ける方が明確なら楽なのによ。
「まぁお互い言いたいことはわかった。よし、ここは俺がしっかり判断して……」
そう言って俺が近づいた時だ。
月明かりで照らされたその顔を、俺は見たことがあったとようやく思い出した。
「お前ら昨日のなんちゃって不良ズか!」
「なっ、テメェは昨日のすかした野郎!!」
相手も俺の顔が視認できる距離になったからか、同時に驚きの声を上げてきた。
そう、こいつらは昨日クロエちゃんに絡んでいた不良ABCだった!
「昨日は良くも逃げやがったなぁ!! 折角の絶好のチャンスだったのによォ!! テメェのせいで驚いて転んだんだぞ!?」
「それに、その言葉遣いはなんだ!! 怖ぇじゃねぇかよ!!」
「うるせぇお前ら素直か!」
なんだよ『テメェのせいで転んだ』って! なんちゃってにも程があるだろ!
「へ、へへ! だが、今日は逃がさねぇぜ。昨日の復讐をしてやるよ」
「一度殴らねぇと、気がすまねぇからな!!」
───だが、これでどちらを信じるべきかは分かったな。
昨日はクロエちゃんが居たから、こいつら相手に怖がるような真似はできなかったが……。
「「ガッ!?」」
「幸いにして、今日は男だけだ」
一瞬で間合いにまで入り込んだ俺は、二人の顎に掌底を喰らわせた。
バタッ、と気を失ったなんちゃって不良BCが後ろに倒れる。一度やって見たかったというのもあるが、これ便利な技だな、とどうでもいいことも同時に考えていた。
「さて、と……」
「ヒッ!?」
俺が未だ腹を抑えて悶えているなんちゃって不良A(恐らくザクロという名前なのだろう)をチラッと見ると、そいつはあからさまに怖がる反応を返した。
「……こいつら元々アンタに用があったようだし、後は任せるわ」
「ふむ、そうか。分かってくれて何よりだ」
だが俺は、その反応を他所に当人に譲った。
ローブの男は、俺の言葉を聞くと安堵したように息を吐いて、落ち着いた声でそう言った。
「フッ、お主よ、安心せい。我は非常に寛大である。そこに倒れている仲間を連れて今すぐこの場を去れば見逃してやろう」
「っ、お、覚えてやがれ!!」
ローブ男の言葉を受けたなんちゃって不良Aは、なんの抵抗も躊躇いもなくそんな小物感満載の言葉を吐くと、腹の痛みに耐えながら2人を担いで逃げて行った。
割と力あるなと思った俺は悪くないはず。
あのなんちゃって不良ズが逃げ去ると、辺りに再び静寂が訪れる。
だが俺はその場から離れなかった。
「ふぅ、スマンな。変なことに巻き込んでしまったようだ」
「勝手に俺が来ただけだし、気にするな」
歳上だろうが、俺は特に口調を改める気はなかった。
何となく、あの口調を使った後に元に戻すのが嫌だったのだ。
「それで、お主は何故こんな場所に? 腕に覚えがあるのは見てわかるが、好き好んで入るような場所ではないぞ」
すると、ローブ男は少しこちらを疑うような目で見つつ、そんなことを聞いてきた。
俺はとりあえず『散歩だ散歩』と、まるで何かあると言っているような発言を返しておいた。
事実であるので仕方ない。
「ふむ、そうか。まぁよい」
「それよりアンタは? さっきの不良を見てりゃ、反撃出来るぐらい腕に覚えがあるのは間違いないんだろうが……」
「我は……実は、人探しをしているのである」
やっぱり帰ろうかな、と思った瞬間である。
ローブの男の声には、心配という感情が多分に乗っていた。だからこそ、まーた厄介事か? と俺は勘ぐってしまったのだ。
だが今回、俺は引かなかった。というのも、今日は『聞くだけなら構わないか』という気分だったからだ。
「ふーん、アンタの知り合いか?」
「娘だ。少し喧嘩をしてな。家をとび出て行ったっきり帰ってこないのだ。心配になって我自身も探しているのである」
「………」
なんか、心当たりのある話だな。
いや、だが待て。まだ確証はない。この人が『我自身も』などという、如何にも他の人にも探させているような発言をしても、まだ確証はない。
「もう既に一日中探しているのだが、全く見つからんのだ。だから、もしやスラムに行ったのかと思い、今に至るわけだ……」
「それは何とも……」
曖昧な返事になってしまうのは、仕方ないだろう。
確証はない。確証はないが……予感はしている。
「……ちなみに娘さんの特徴は?」
「そうだな、金の髪に真っ白い肌で、嫁に似てとても美人だ。少し天然なところがあるのがまた可愛くてな……年は17で、身長はこの位であったはずだ」
そう言って高さを示すが、恐らくそれは160辺り……
あの、多分その娘さん俺知ってますわ。
「ち、ちなみに名前は?」
だが、それでも俺は一筋の希望を諦めずそう聞いた。
爺さんは少し考えるような仕草をした後、うむ、とひとつ頷いてこう言った。
「本名は教えられないが、愛称はクロエである」
俺はゆっくりと目を閉じ、どう対応するかを考えた。
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