第8話 雑すぎる実力検査3



 何となく、今更ながら『こんな短い時間じゃちゃんと実力測れてないんじゃ?』と思われてるのかもしれないと気づいた

 だけど安心してくれ。俺[目利き]っていうスキル持ってるから。本来は物の価値とかを見極めるのが上手くなるスキルだけど、多分人にも効く。それもレベル6。だから多分大丈夫なはず

 そんな心の声は聞き届けられるはずもないので、結局疑心の心は変わらず


 「お願いします」


 さて、5番目はどうやら雫ちゃんの様子。ぺこりとお辞儀をする雫ちゃんは、相変らずトロンとした、それでいてやけにキラッキラした目で見てくるが、そろそら[視線耐性]とか出ないだろうか?視線に気づきにくくなる……デメリット効果かよ

 

 「いつでもいいよ」

 「じゃあ、行かせてもらいます」


 抑揚のない声で、でもどことなく弾んでいるような声で言う雫ちゃんは、早速とばかりにその獲物───弓で遠距離から攻撃してくる


 「弓か。弓は流石に無かったなぁ……」


 放たれる矢を回避。しかも矢はどうやら何かのスキルで補っているらしく、放たれた次の瞬間には既に装填された状態という

 矢筒らしきものもないから、無限に矢が出て、尚且つ自動装填のスキルとかだろうか。弓自体は普通の物っぽい


 そして、さすがの俺も弓は持っていなかった。弓は数が少ないから、在庫があまりなくて流石に拝借するのは躊躇われたのだ

 それに、勇者の中には数人だけ弓を使う者が居るし、在庫があまりある剣やら槍と違い、弓が壊れたらもうありませんという状況にはしたくなかった


 「うーん……あ、『ライトアロー』」


 弓がないなら魔法で補えばいいじゃんと気づき、初級光魔法『ライトアロー』で迎撃


 「まだまだ」

 「おぉ、凄いな」


 すると、なんと雫ちゃんは2本の矢を同時に放つようになった!見ててびっくり。一つの弓から同時に2本も矢が撃てるんだとね。しかも正確に右肩と左肩の位置を狙ってくる

 半身になって回避、と同時に、どうやらその2本は誘導用だったらしい。1秒ほどの時間差で俺を穿つように矢がそこまで迫っている


 「秘技、軟体生物」


 無理やり体を捻ってダイナミック回避。別にしゃがむなり『アースアロー』で迎撃なりあったが、見た目にインパクトが欲しかった

 掛け声は無視してください、はい


 「じゃ、次はこれ」


 すると果たしてそれはどうか!三本同時+『ファイアアロー』2本が俺の五体に飛来する!

 ……あれ?これ結構凄くね?割と弓の威力さえあれば、超強いんじゃね?

 雫ちゃんこの10人の中でもヤバイ説浮上。弓である以上、ダメージディーラーにはなれないのが残念か


 取り敢えずそれらは同時ではなく若干(0.2秒ぐらい)の時間差なので、お得意の身体をぬらりと動かして全て回避


 「っ!?凄い」


 何故か俺が称賛される。いやぁ照れるなぁって、年下の女の子だぞ。年上の男が褒められてどうする


 「これなら、どう?」


 次はなんだ?と思っていると、弓を上に向けて射った

 少し嫌な予感がする。徐々に暗くなっていく俺の周囲


 「ハハ、すごっ」


 うん。上から矢の雨が降ってきましたよ!大量のね!およそ半径10mぐらい


 「『アローレイン』」


 後から告げられる技名。なんかカッコイイですね!スキルにそんなものがあるんですかい!

 いや、それよりも頭上の矢の雨をどうするかだ!


 「普通に範囲外に出れば避けられるが……」


 必殺技みたいなものに対してそれはあんまりな気がする。それに相手は夢見がち乙女の雫ちゃん(勝手なイメージ)だ。それは幻滅されるのではないか

 ということは、雫ちゃんの期待に応えるようにするのだが……派手なのがいいだろうか

 派手なのなら魔法一択だな


 俺は右腕を上に突き出し、掌を向ける

 指定する範囲は『アローレイン』と全く同じ。属性は時空。要領は転移……いや、無限収納インベントリに移動してからのってやつだな


 「『審判の右手』」


 魔法名を呟き、発動。途端アローレインと全く同じ規模のゲートらしきものが出現する。内側は完全な暗闇となっており、先は見通せない

 そして、全ての矢を門の内側、つまり無限収納インベントリへと収納

 次いで左手を横に向ける


 「『断罪の左手』」


 収納されたアローレインを、勢いはそのまま、勢いの方向だけを変更し、射出

 先ほどと同じく門が出現し、そこからアローレインが向きだけを変えて出現し、何も無い空間に炸裂した


 「すごい……」


 俺のやった事に、雫ちゃんが感嘆の声を漏らす。見れば周りで見ている門真君たちも驚いている


 「終わりだね。十分な実力だよ」


 消えていったアローレインの矢を見て、後始末は必要ないなと思い雫ちゃんに一言


 「そんなことない。トウヤさんの方が凄い」


 淡々とした口調で、尚且つ熱を持たせた言葉を俺に送ってくれるというか、距離が近いというか

 これはもしかしたら悪い方向にこじらせたのでは?と心配。もしかしなくても、夢見がち乙女が、マジ夢見乙女にクラスチェンジしてしまったのでは?


 「アハハ、まぁこれくらいはね……あ、嫌なら答えなくていいんだけど、さっきの矢を無限に出すのはスキル?」


 ふと、話を逸らすという目的で話題を考えた結果、それが頭に浮かんだ


 「うん。[無限矢]って言うスキル。弓を沢山射ってたらいつの間にかあった。でも魔力で出してるから、魔力がなくなったら出せない」

 「そっか……アローレインはどうやって?」

 「そっちはそのまま。一回陽乃に教えて貰ったアローレインを再現してみたら、[アローレイン]っていうスキルが出た」


 それはまた、凄いな。ユニークスキルじゃあるまいな?

 [無限矢]も普通のスキルにしては少々強い気がする。まぁあくまで気がする程度なので、普通のスキルの可能性の方が高いだろうが

 [アローレイン]はそれ単体の技をスキルとしているのだろうか。一体どういう基準なのか、そもそもスキルというのがどういう仕組みなのかもわからない以上、考えても仕方ないか

 ただもし仕組みがわかったら、俺もそういう技系統のスキルは欲しいかもしれない


 「トウヤさん、最後のは何?」


 すると、今度は俺が雫ちゃんに質問される。俺が先に質問した手前、断ることは出来ないのだが、さてどうするか

 最後の、というのはやはり『アローレイン』に大して発動したものだろう。雫ちゃんは魔法だということすら分からないだろうし

 ここは、普通に教えても構わんか?相手は勇者だし、魔法を作るという話も別に『凄い』ぐらいで済むはず


 「俺のオリジナルの魔法だよ。簡単に言うと、受けた技をそのまま相手に返す魔法かな。今回は防ぐために使ったけど」


 実際防ぐだけなら『次元の壁ディメンションウォール』でもいいのだ。だが咄嗟に頭に妙案というか、使い勝手の良さそうな魔法が思いついたからついでに作っただけで

 まぁ、その場で即興で作れるのかどうかは置いておいて


 「そうなんだ……やっぱり凄い。本で読んだとおり」


 後半はぼそぼそと言っていたが、しっかりと聞こえちゃうんですが。京極君が言った通りだなと

 これ以上こじらせないといいんだが、それは難しい雰囲気


 



 

 「トウヤ君、次お願いします」

 「……刀哉君?」


 次の御門ちゃんは、まさかの君呼び


 「えと、変ですかね?1歳違いですし、それなら『さん』より『くん』かと思いまして……その、駄目でしようか?」

 「……いやいや、全然いいよ。むしろそう呼んでくれると嬉しいかな」


 上目遣いの御門ちゃん。こう、どストライクなんだがどうしよう。何?美少女補正が本当にヤバいんだが、もしかしてワンチャンあるのだろうか?

 ……なわけねぇだろ。男は目移りが激しいってわかんだね。心の中だけだが、可愛いとか美人だとか片っ端から言ってたら、節操なしだと思われても仕方ない


 そしてよくよく考えれば、俺のことをくんで呼ぶのって、叶恵や美咲を除くとこの世界ではギルドマスターとハルマンさんとマリーさんだけなんだよなと、意外と少ないことが発覚した

 そう思うと年下の子からそう呼ばれると新鮮で、何となく嬉しくなってしまう俺がいる。ニヤニヤするのは耐えているが。[偽表情]さん仕事ですよ!


 「じゃ、いつでも来ていいよ。剣を持ってるから近接かな?」

 「それは見てからのお楽しみってことで」


 手の内は明かさないと。召喚されてから学んだんですかね。こう、勇者と言えど学生のはずなのにこうも慣れているのは何故か

 俺も人の事を言えたことではないが、俺の場合ラノベや小説のイキリオタク的な感もあるし。自分で言うことでもないが

 

 「!!」


 と考えていたら、宣告なしのいきなり魔法。しかもどうやら無詠唱

 使われた魔法は、初級火魔法『ファイアボール』のようだ。少々弱い火の玉が迫ってくるが、特に慌てることもなく回避

 しかし、それは陽動用だったようで、火の玉の後ろにぴったりついてくるように御門ちゃんの姿が


 「シッ!!」

 

 息を漏らしながら、手に持った剣を振るってくる。だが気配で普通にわかっていたので、剣が振られる前にそれをパックステップで回避

 途端、まるで待っていたかのように背後に魔法の反応が生まれる


 「そこ!」


 それに少し遅れて叫ばれる言葉。発動される魔法は下級風魔法『ウィンドカッター』だろう。陽動に本命、と思わせて、それすらも陽動だった、ということか

 少なくともこの時、俺は背後を警戒していなかった。ただいつもの癖で魔力がたまたま感知できただけで。つまり、戦略的には負けていたと言えなくもない

 まぁ、俺は戦いのプロではないので、当たり前といえば当たり前なのだが。それが年下の女の子というのが少々釈然としないのであって


 ただだからといって、素直に当たるわけもない。バックステップで宙に浮いている状態で身体を反転させ、魔力を纏わせた手で発動寸前の『ウィンドカッター』を撫でる


 「えっ!?」


 御門ちゃんが驚愕から声を上げる。それは、自身の魔法が突如として消失した驚きからだろうか

 それでも体の動きが止まらないあたり、慣れすぎと言いたいところ。すかさず追撃をかけてくるので、無詠唱で出した剣で相対


 ガキン!!


 「いつの間に!?」


 剣を取り出した瞬間が見えないから、こうやって驚くことになる。『無限収納インベントリ』マジ様様。超便利っす


 「後少しかな」


 体感時間で計りつつ、残り時間はあと10秒ほど。御門ちゃんももう少しだけだと悟ったのか、連撃へと移る

 縦、横、斜め……様々な方向から仕掛けてくるが、それを剣でいなし、躱す。攻撃をこちらからするつもりは無いから防御しかしないが、その分俺の防御を崩すのは難易度が更に上がっているのだ


 「はい、終了」

 「あっ……」


 下から剣をすくい上げて、訓練場内にキン!と澄んだ音が響き渡る


 「お疲れ様。最初の魔法には、ちょっとヒヤッとさせられたよ」

 「……嫌味にしか聞こえませんよぉ」

 「いやいやホントだって。対応できたのは慣れみたいなもんだしね」


 そう伝えると、御門ちゃんは剣を下げて、口を尖らせる。どうやら機嫌を損ねてしまったらしい

 まぁ相手からしたらこちらは終始余裕だったわけで、ヒヤッとさせられたと言っても実際はすぐに対応できてたように見えるから、仕方ないのかもしれないが

 ただ俺が対応できたのは慣れだってのも本当なので、ここは信じてもらいたいところ


 「それに、どうやって魔法を消したんですか?トウヤ君が魔法を使ったようには見えなかったんですけど」


 だが機嫌を損ねるのとこれは関係ないらしい。素直にそう聞いてくるので、俺も答えることに


 「それはちょっと難しいんだけど、簡単に言うと俺の魔力で御門さんの魔力を吹き飛ばしたって感じかな。魔法になる前ならどうにでもなるから。今回の場合は手が届く範囲だったってのもあるし」


 この『吹き飛ばす』というのは物理的な作用を与えるのが一番で、[魔力操作]で魔力を操作して遠くにある”魔法に昇華しようとしている魔力”に自身の魔力を当てたところで、反発するか通り抜けるかのどちらかしかない

 それを、俺は『魔力を纏った手で触れる』ことで、無理やり吹き飛ばしたのだ。力技とも捉えられるし、できる範囲も限られる


 「でもまぁ、逆に言えば手が届く範囲なら誰にでもできるんじゃないかな?」

 「いやいや、無理ですから。普通魔法になる前の魔力とか感知できませんからね?」

 「[魔力感知]のレベルを上げれば出来るようになるよ。あ、[気配察知]も重要かな」

 「はぁ……出来るように頑張ります」


 釈然としないような表情で、それでも最後に頭を下げて礼をしていくという。真面目だなぁと感心する

 それにしても、負けず嫌いだったりするのだろうか。何となくそのうち再戦を挑まれそうな予感がしなくもない

 まぁ俺としては美少女と近くにいれるのは嬉しいことなので是非もないがな

 



 

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