第4話 完全記憶様様
程よい緊張も、そう長くは続かない。
結局、今更緊張なんてほとんどないのだ。肝が据わったというか、そもそも元から緊張をしにくい。
暇だと余計なことを考えてしまって、そのおかげか割と早く進んだ時間。とうとう、その時が来たらしい。
コンコン
『ギルドマスター、勇者様方をお連れしました』
「了解。入って」
外からかけられた声に、ギルドマスターは入出を許可した。
俺はギルドマスターの隣でピシッと立っている。少しだけ離れているのは、最初はギルドマスターと話すだろうという配慮だ。
そうして扉が開かれ、最初に入ってくるのは受付嬢さん(俺の知らない人)。
それに続くように入ってくるのが、中々豪華な武装を、しかし鎧のようなものではなく、軽装をした少年少女達10名(男女比は5:5)。久しぶりの日本人顔だ。
そして良かった、多分年下、もしくは同年代。
知り合いは居ないっぽい。いや、世間は狭いって言うが、流石に知り合いが異世界に召喚されるわけないな。学生が召喚されたっていうのなら共通点だが、勇者召喚系だと学生系が多いよな。
おっさんが勇者の小説ならいくつか読んだことあるけど。
心の中でぼけてる自分がいると、平常運行であるということがよく理解出来た。残念臭漂ってる。
「君たちが勇者だね? ……うんうん、少し前より良くなってる」
「あの……僕達のことをご存知なんですか?」
ギルドマスターの呟きに、勇者の中の1人が手を上げた。
少しの天然パーマが特徴的な、こう、柔らかそうな男子だ。どちらかと言うと大人しそうな奴。
勇者とひとくくりにまとめると分かりにくいから、自分の中で解説する所存。[完全記憶]先輩期待してます。
「うん? 君たちの召喚に私も立ち会ったからね。訓練にも時々行ってたし」
「そうなんですか。全然気づきませんでした」
同じく柔らかめの、茶髪の男子が頷いた。というか勇者達は気づいていなかったのね。いや、確かに召喚直後に周りを把握しろと言われても無理か。
「君たちが迷宮に行くっていう勇者だよね? 全員でいいのかな?」
「はい。今日はその打ち合わせなんかをしに来ました」
こちらは焦げ茶の活発そうな、可愛い娘です。勇者となるのは可愛い娘。どこはかとなく抗えない力を感じるね。
打ち合わせとやらはギルドマスターに任せておいて、俺は空気になりすます。変に意識されても困るし。
なお、スキルは使用していません。鍛錬で得た勘を失いたくないのでね。
それでもちゃんと気配を消せてるか不安。というのも……。
「…………」
「…………」
なんかさっきから2人ほど見てくる人がいます。じーっと見てくる子が2人ほどいます。
全力で目をそらしてるのに気づいてくれないし、気配を絶っているはずなのに逸らしてくれない。注意向けすぎじゃない?
片方は眠そうにトロンとした目をしている女の子。もう1人は対照的にぱっちりとした目の女の子。
何より気になるのは、その目から放たれるキラキラとした視線。そんなキラキラとした目で見られるようなことはしていないのだが。お兄さんはむしろお遊びでスライムを虐殺するような人でなしなんだが。
俺は逸らしていた目を戻し、二人を見る。すると、今度は逆に2人が目を逸らした。
およ? と思いつつ俺も目を逸らしてみる。すると2人はまたこちらをじーっと見つめ……。
俺が見つめる→2人が目を逸らす→俺が目を逸らす→2人が見つめる→俺が見つめる……とループ。
「───あれ? トウヤ君?」
「はい?」
そんなことをしていたら突如として名前を呼ばれる始末。というかギルドマスターが幽霊でも見たような顔をしてるんですがそれは
「幽霊でも見たような顔をしてますね」
「気配が無かったらそうも思うよ……」
ありゃりゃ? スキル発動してないから、[気配察知]レベルが中々のギルドマスターなら大丈夫かと思ったんだが……。
俺、努力はしたけど血の滲むような努力はしてないぞ? なのにこの成長である。
「すみません。それで何です?」
「君はホントマイペースだね。緊張なんてしてないじゃないか……いや、ここからは君も交えて話した方がいいと思ってね」
ハハハ! 話を聞いてないのバレてるよ。
……いや、素直に『すみません』と心の中で謝る。
「……まぁいいけどさ。取り敢えず話を進めるけど」
あ、話聞いてなかったの分かっててそれでも進めるんだ。
いやまぁ、[完全記憶]があるから思い出せることは思い出せるけれども。
「そっちの目的はレベルアップで、一応勇者ということから護衛を付けるということで。それで、その護衛がこっちにいる
突然話を振られた俺は、さっき───急に呼ばれて反応した時───の汚名返上のために、紳士を装って口を開く。
「ご紹介に預かりました、第一階級探索者の
「あ、ご丁寧にありがとうございます。俺は勇者の
俺がそう言いながら一礼すると、話を進めている勇者君である、イケメンフェイスがぺこりと頭を下げてくれる。クッ、完璧な返しだ。
イケメン死すべき慈悲はない。
だけど非リアだった場合は一考の余地ありだ……いや仲間意識とかじゃないよ。
「おい、お前ら」(ボソッ)
イケメンフェイス君……ごめんふざける所じゃない。
門真君がボソリと残りのメンバーに言う。さりげない催促が出来るのも良いですね。それに拓磨的な性格そうだ。
「あ、私は
さっき言った、焦げ茶の活発そうな女の子ですね。運動が得意そうというか、適度に女の子らしさも持ってます。
「僕は
この男子も、さっき言った天然パーマが入ってるやわらか男子。どことなくほんわか雰囲気の、クラスのマスコットキャラ的立ち位置なイメージが。
男の娘まではいかない男の子。
「
今低い声で言ったのは黒髪の鋭い目をした男ですね。こいつは身長も、178ある俺よりも高いから、見た目が威圧感を与える。
ちなみに俺はワンチャン見た目とのギャップが凄いドジっ子だと思ってます。もしくは……捨て猫を拾う不良?
「俺は
先ほどの柔らか男子パート2。茶髪君ですね。身長は高いが、目元が柔らかい。さっきの鋭い男子と対照的。
「……
「
うん。あの見つめてくる2人だね。というか双子? 双子ですか? それとも同じ学年の姉妹?
でも確かに似てる……というか目と髪型以外は身長も顔立ちも全く同じじゃあるまいか?
もっと観察眼を鍛えろよ俺。自負してる面もあるだろうに。
「俺は
これはクラスのムードメーカー確定だな。こう、笑いをとるタイプか、ひとりテンションが高いタイプ。
声からして元気そうだし、間違いなく体育祭で活躍するような人材。
「
大人しく一礼をしたのは、清楚そうなお嬢さんだった。
何でかな、飛鳥って聞くと空手のイメージだったんだが、清楚系ですか。若干の違和感があるけれど、名前で決まるわけじゃないし。
なお、黒髪ロングではない。そしたら『清楚』が服を着て歩いているようか人だったろうな。
「え、最後ウチ? ウチは
最後は何故か一人称が『ウチ』な少女。しかし恐らく標準語。
『ウチ』を使う娘は関西弁という偏見があるが、よく良く考えてみれば俺の学年のやつにもウチと使う娘がいたのを思い出した。
「うんうん、自己紹介が終わったところでだけど、護衛と言っても少々異なるからねトウヤ君は」
「えっと、それはどういう意味ですか?」
「それは、勇者様方が致命傷を負う一歩手前までは手助けをしないということです」
俺はギルドマスターに言わせずに自分で言う。こういうのは我関せずよりも、自分から言っておかないとギルドマスターの部下だと思われる可能性も無きにしもあらずだからな。俺だったら絶対そこまで考えないけど。
そしてなんかギルドマスターがまたしてもおかしなものを見る目で見てるんですが、俺の丁寧な敬語がそんなに不思議ですか?
「そ、それは流石に酷くないですか!?」
反応するは活発少女御門ちゃん。すごいアニメっぽいことは置いといて、まぁ当然の反応だと思います。俺だったら絶対にそう思うもん。声に出さないだけで。
「御門様は絶対的な安全圏で強くなりたいので? もしそうだとして、本当に強くなれるとお思いですか?」
しかし、ここはこいつらのため、強く出させてもらう。性格的には好ましいので。まだほとんど喋ったことないけどね。
「紫希、落ち着け。トウヤさんが言ってる事の方が正しい」
「幹!? で、でも……」
すると、門真君が御門ちゃんを宥める。やっぱり拓磨っぽい性格だな。冷静に状況を把握できるタイプ。
「いつまでも護衛がいるわけじゃないんだ。必ず助けてもらえる状況で強くなって、助けてもらえない状況の時にちゃんと対応できるか?」
「それはっ、確かにそうだけど……」
「紫希ちゃん、ここは落ち着こ?」
更に水上さんが追加で加わる。流石に2人に言われたら反省したのか、御門ちゃんは素直にこちらに頭を下げた。
「その、すみませんでした……」
「……いえ、こちらも言い方が悪かったですね。気休め程度にですが、私は回復もそれなりに出来ますので、たとえどんな事があっても立直せますよ」
1度瞑目し、その後微笑と共に告げる。こう、大人な感じを演出してみました。
というのも、さっきからギルドマスターが、今度は笑いをこらえているというかね。そんなに似合いませんか?
「まぁそういう事だから、助けてもらえるなんて甘い考えは捨てた方がいいよ。助けるには必ず痛みが伴ってくると思ってくれ」
しかしギルドマスターの辛辣な一言。俺がやんわりと伝えたのにそんなスパンと言わなくても。てかさっきまで笑ってたろ、その雰囲気のまま喋れよ。
「はい。さっきはああ言いましたけど、覚悟はできています」
「───無論、俺達もです」
しかし御門ちゃんは今度は確固とした意志をその目に乗せてギルドマスターに頷いた。それに続いて、門真君がそう言って、全員が頷く。
いや、黒澤君だけムスッとしてるけど、京極君に無理やりやらされてるね。主導権の在処がはっきりとしてます。
「……その言葉が聞けて良かった」
するとギルドマスターは、さっきの冷たい雰囲気とは一転し、優しげな笑みと共にほっと息をこぼした。
やはり昔に勇者と関わったことがある以上、なにか思うことがあるのだろうか? しかしここで聞くのは空気が読めてない感じがするので、いつものように見送りで。
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