第4話 単調かつ楽
迷宮への入口は街の真ん中にあり、中へと入るには許可証が必要である。
探索者は自身の身分の証明を示す、『探索者カード』がその枠割を果たしている。ちなみにそれには名前と階級、その街の迷宮の到達階層が記入されている。
その街の迷宮の到達階層と言う通り、街ごとに探索者カードを更新しなければいけないのだとか。無料だから、単純に手間がかかるだけだが、別に他の街に行く予定のない俺には関係の無い話だ。
他にも貴族に発行される身分証も一種の許可証だったりするのだが、それはともかく。
街の真ん中に迷宮なんかがあって大丈夫なのか、と常々思っていたが、どうやら迷宮の入口には常時騎士が待機していて、もし魔物が溢れた場合はその騎士が足止めをしつつ、探索者ギルドに応援を頼むのだとか。
また、ここの住人は迷宮都市に住み着くだけあって、避難経路や対応、そういったものについては深く理解しているらしい。強いて言うならば、流れの商人が危ないと言ったところか。
「許可証の提示をお願いする」
「はい」
前に並んでた人がやってたように、俺も探索者カードを騎士に見せる。俺の到達階層は無記入、つまりこの迷宮に入ったことがないということで、それに加えて俺は1人なのだが、予想に反して特に止めるような声は無かった。
出来るだけ、そういうのには干渉しないように言われているのかもしれない。
「うむ。気をつけて」
「どうも」
礼儀正しい人だなと思いつつ、迷宮へと足を踏み入れる。
迷宮の入口は、地面に石畳の階段があり、そこから入る。流石は最初に作られた迷宮と言うべきか、中はとても広いらしく、数百人規模で迷宮に入っているにも関わらず、中ではちあわせることは少ないらしい。
また、迷宮の内部は、ルサイアにあった迷宮のように、壁や床自体が光を発しているため、基本的には光源は必要ない。が、たまに真っ暗な部屋があったりするので、最低限注意はしなければいけない。
「にしても、気配が多いなぁ」
ルサイアの迷宮に比べて、感じる気配が圧倒的に多い。人間は勿論いるが、魔物もルサイアと比べて数倍は違う気がする。
やはり原初と言われるだけあって、なにか違うのだろう。出来ればここの
「お、敵発見」
そんなこんなで敵を発見。[気配察知]で分かってたから発見というよりは、俺から行ったと言っても間違ってはいないが。
「コボコボ」
ここに来てゴブリンと似た系列の、コボルトだ。コボルトなのだが……。
「お前……そんな鳴き声でいいのか?」
ゴブリンでさえ『ゴブゴブ』ではなく『グギャギャ』的な感じだったはずなんだが……せめてもう少し声帯をどうにかしろと言いたい。
「コボ!?」
「あ、こら待て!」
何だろうか。コボルトは俺の方を見た瞬間、一目散に逃げ去った。
取り敢えず追いかけつつ、[気配察知]を使用。別に誘い込まれてるわけでもなさそうだから、単に逃げているだけだろう。
ただ逃亡中に『コボコボ!!』とうるさく、それに反応して周りからわらわらと気配が集まってくる。いずれもコボルトだな。
俺もこいつがなんで逃げてるか知りたいし、少し遊んでやろうかとつかず離れずの距離を移動。後は集まってきたところをズドンだな。
「コボ! コボコボ!!」
「ふむふむなるほど」
追いかけつつ鑑定した結果、どうやらこの鳴き声は仲間を引き寄せるスキルのものだったらしい。声に同族しか検知できない波長を乗せることで、擬似的な救難信号としているとか。
ということはやはり集まってきたのは、音に反応したよりかは波長に反応したわけね。
「残念、そこは行き止まりだ」
コボルトを追いかけて、数個目の角を曲がるとそこは行き止まりである。
まぁ勿論俺が誘導したわけだが。魔力を糸のように伸ばして、それで道を探りながら移動。行き止まりのある方向に行くように、分岐点があったら瞬時に追いついて、片方に仁王立ち。
するともう片方に勝手に行ってくれるから、誘導は簡単だった。
コボルトは行き止まりの壁を背に、ジリジリと下がる。どうやら俺の事を怖がってる様子。野生の本能で俺の力量が分かったのだろうか? だとしたら結構な危機察知能力である。
これじゃ分かるものもわからん。取り敢えずコボルトは俺を怖がるらしいと。
「コボ!」
「コボコボ!!」
「コボコボコボ!」
すると、俺の背後からコボルトの集団が。その必死な顔で叫ぶさまは、まるで『大丈夫か!?』とでも聞いているかのようだ。
「コボ! コボコボ!」
俺の方を指さしながら叫ぶ、追い詰められたコボルト。
これは、『俺は大丈夫だ!そいつが敵だからやっちまえ!』か、『俺のことは気にするな!早く逃げろ!』のどっちだろうか。もし後者だったら敵ながら天晴れと言ってやりたい心意気だ。
「なぁ、お前らも俺から逃げるのか?」
「コ、コボ!?」
そう聞きながら笑顔で振り返ってみると、逃げることこそしなかったが、硬直するコボルト達。
これ、コボルトが特別人を怖がってるのか? それとも俺に何か要因がある?
分からないから君たちには八つ当たりだ。
「『プレス』」
質量を持たせた魔力でコボルト達を押し潰す。
ブシャッ!! と辺り一面に肉片が飛び散りスプラッタ状態。グロいのは盗賊で慣れたから問題無いし、飛んできた血もサッと避ける。
なお、追い詰められていたコボルトも一緒に殺している。仲間と一緒のほうがいいよね? という猟奇的な発想によるものだ。
「……そういえば、この迷宮は魔物の死体が残るタイプだったか」
いつまで待っても消えない肉片に、俺は思い出す。ルサイアの迷宮が消えちゃうタイプだったから忘れていた。
あ、魔物の死体が残ると言っても、それは1時間程度の話で、放置しておくとそのうち勝手に消えるらしい。
とは言え普通の奴は魔物をその場で解体して素材を『マジックポーチ』なり『アイテムボックス』(マジックポーチの上位互換)なりに入れるんだろうから、一種の掃除屋となっている。死体を放置しても問題無いということだ。
しかし、これなら普通に倒した方が多少なりとも稼げたかな? と嘆息。後悔先に立たずとは言うが、先に立ってくれても良いじゃないか。
頼むから厄介事の時にそんなに諺を使うハメにならないこと願おう。
取り敢えず魔石だけ回収し、次の階層へと移動することに。
一つの階層で1体敵を倒したら移動だな!
◆◇◆
二階層
「
「ダメだ! どう聞いても小保さんにしか聞こえない!!」
コボルトの声が、突然『小保』という感じに変換されてしまった。
く、小保さんという知り合いは別にいないが、頼むから声をどうにかしてくれ。気が散ってしまう。
三階層
「グギャギャ!」
「ゴブリン、お前の鳴き声ってこんなに安心するんだな」
緑の小人は、予想以上に俺に安らぎをもたらしてくれた。
お礼に剣で一閃してあげました。
前に寝ている時に不意打ちされたこと、忘れたとは言わせん。個体はお前ではなかったが、種族全部で連帯責任だ。
四階層
「グギャ!」
「グギャギャ!」
「小保小保!」
「
ゴブリンと小保のレギオン。慈悲なく飛剣術で一掃した。
そしてやってきた五階層
「迷宮って単調だなぁ。今のところは特に強い敵も居ないし」
何となく「はぁ」とため息。見所が無いと言うか。もう少し色々とやりたいんだが、敵も弱すぎてどうしようもない。
この階層には
そう言えば、迷宮内は迷路のようになっているのだが、今のところは俺は全く苦戦していない。
というのも、この幸運故か、歩いた先には下へと続く階段が必ずある。行き止まりについたことは無い。魔力の糸を伸ばして確認しつつ進んではいるものの、迷ってる感じが全くないのだ。
少し、いやかなりズルしてるとは思うが、そこはそれだ。今の敵の強さははっきりいって素手で殴り殺せるレベルだし、早く移動したいしな。
考え事をしながら、出てきたゴブリンを有言実行とばかりに殴り飛ばす。
結果、頭だけ飛んでった。首が衝撃に耐えられなかったらしいね。千切れたわ。
「ここがボス部屋か……」
なんとなく呟いてみました。
俺の目の前には、めちゃくちゃでかい両開きの扉が。なお、扉は開きっぱなしの模様。
「さて、取り敢えずは休憩……いや無しでいいか」
休憩する程疲れてない罠よ。
俺は扉の内側へと足を踏み入れる。
ゴゴゴゴゴゴ……
「……やっぱり閉まるのね」
俺の後ろの扉が、俺が入った瞬間に閉まる。基本は開けておいて、中に獲物が入ったら閉まるみたいな。食虫植物か?
その後は、養分を取り尽くしたら再び開くんだろ?
はてさて、
『グギギ……ギギィ!!』
「……はぁ?」
魔力が壁際から出現したと思うと、それは中央へとまるで竜巻を作るかのように集まり出した。
無論、魔力なので何も目に見えないが、俺の[魔力感知]では魔力の奔流が中央で渦巻いているのが確認できた。
だがしかし、現れたそのボスは恐らく『ホブゴブリン』であった。
ゴブリンの次、コボルトよりも上。確かに強くはなっている……なってはいるの、だが!!
「結局ほとんど変わってねぇじゃねぇか!!」
『グギャギャ!!』
ご丁寧に鳴き声も、低くなっている以外は変わりませんね! 全くの真新しさを感じないんだが!
「喰らえ! 怒りの鉄拳パンチ!」
説明しよう。怒りの鉄拳パンチとは、拳が付いた後にパンチが来るという矛盾で理不尽極まりないパンチである! また、怒りの感情によって威力が増減する。
効果、相手は死ぬ。
『グギ……ギ?』
俺の鉄拳により飛んでいった首が、地面に落ちてなお少しだけ声を出した。勿論絶命だ。
恐らく彼(彼女?)は自身の背中を見るということが出来たのではないか。冥土の土産に丁度良かったな。俺優しい。
と思ったら、魔力の残滓となって散っていくホブゴブリンの体。階層主はもしかして死体持ち帰れないのか。これは
ホブゴブリンの体が、魔石を残して消えると同時、その魔力が今度は部屋の中央に集まり、宝箱を作り出した。
チクショウ。少し演出がかっこいいと思っちまったのが悔しい。
「……まぁ、報酬はもらっていくとしますか」
オープン、ザ、宝箱。
何故か一部分だけ日本語なのってあるよな。基本英語が上手くない人とか?
そんなどうでもいいことを考えながら、宝箱を開ける。中に入っていたのは鞭……。
「マジいらねぇ」
品質も中級と微妙で、マジいらねぇ。
鞭とか使ったことないし、マジいらねぇ。
というか魔物相手に鞭振るったら仲間になりそうで、少しだけ欲しいと思ったしぃ。
でも自分が鞭振ってるのはやだなとやっぱりいらねぇ。
うん、こいつは
ひとまず鞭の存在は思考から消去して、気分転換に
え? 話が急すぎるって? 俺にとっては一刻も早くこのストレスを発散したいんだよ!
そうと決まれば、迷宮RTA。夜になるまでで何階層まで行けるか……スタート!
心の中でパン! とあのスタートの合図がなり、クラウチングから全速力で走り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます