Side拓磨
「慌てるな!! 急いでさっきまでのパーティーを組め!! 手順はゴブリンと同じ! 魔法を使って敵を近寄せるな!!
武器を使ってるやつは2人組を作りつつ、魔法職に魔物を近づけないように援護しろ! 怪我をしたら2人で後退、穴埋めは騎士団の人たちに任せて叶恵に回復してもらえ!!
騎士団の人たちは左右から挟撃、手の空いている方はこちらの穴埋め宜しくお願いします!! 叶恵は治癒に専念!! 光魔法を使える奴は自力で回復!!
後ろは俺達とグレイさんで食い止める!!」
「「りょ、了解!!」」
「「了解しました!!」」
つっかえることなく、かつその場で直ぐに指示を出せたことに、俺が一番驚いている。
俺の言葉にみんなは動き出す。その行動の速さは、指示した俺も舌をまいてしまう程だ。やはり二年も共に過ごした同じ学年だからこそ出来るのだろう。
後ろの方は大丈夫だろうし、と俺は前を向く。こっちにも豚頭達は沢山居たが、どちらかと言うとこちらの方が楽だろう。
なぜなら、こちらには勇者の中でも頭三つ以上ずば抜けている刀哉と、国を守護する騎士団の団長であるグレイさんがいるのだから。
その頼みの刀哉を見ると、何やら考え事をしているようで、こんな中突っ立っていた。
おいおいこんな時にやめてくれよ。
「刀哉、考え事をしている場合じゃないぞ!!」
「あ、悪い! すぐ行く!」
刀哉がこちらに意識を戻したのを確認して、俺は豚頭を仕留めに行く。
やはりグレイさんが20階相当と言っていただけあって、ゴブリンのようにあっさりとは行かない。ブヨブヨとした腹を切り裂こうとしたが、意外なことに、脂肪に阻まれて奥まで剣が届かなかった。
「クソッ!」
豚頭が振るった棍棒を屈んで避ける。見た目は太っているが、体がでかいからそれだけで力がある。棍棒に当たったらひとたまりもないだろう。
俺は一旦離れて、肉の薄そうな豚頭の顔めがけてジャンプする。
「セイッ!」
剣の間合いに入った瞬間に一閃、しようとしたが、横から迫ってくる棍棒を防ぐために力任せに戻す。
ガン!!
「グッ」
くぐもった声が俺の口から出る。少し腕が痛いが、気にしてはいられない。
「『光よ、我が傷を癒せ、ヒール』」
最小限の回復魔法で治しつつ、豚頭を見る。
空中に飛ぶのは下策だったようだ。今になって考えれば空中では無防備なのだから、あまりにも短絡的思考だったのだろう。
俺は反省をしながらも、行動は止めない。
豚頭の顔の当たりに無詠唱で閃光玉を魔法で作る。俺も一瞬その光に目を細めるも、来るとわかっていれば別にどうってことは無い。
だが、突然のせいで至近距離から閃光を凝視してしまった豚頭はそうもいかない。驚きのあまり棍棒を落として腕を振り回す豚頭。
その腕をかいくぐり、今度こそ顔まで上り、一閃する。
骨などの硬いものに当たっても力任せに押し込み、顔の真ん中に横線を作る。そこからは盛大に血が溢れ出し、少し俺の顔にもかかる。
当の豚頭はすぐに消えてしまったため、あまりかからなかったのが幸いか。
(なんで、全然忌避感が無いんだ?)
突如として現れる疑問。自身に得体の知れない薄気味悪さを感じつつ、次の豚頭を探しに行こうとするが、俺の前にいた豚頭は何かにやられて一瞬で消え去った。
どうやら刀哉のようだ。一息で豚頭の膝を壊して、そのまま首を切り落としたみたいだ
(俺が十数秒かかった相手をこんな一瞬で片付けるなんて……)
相変わらずの理不尽っぷりに、嫉妬や畏怖を通り越して呆れる。そもそも友人に嫉妬するほど狭い器ではないと思っているが。
多分今の俺の戦いだって、十分合格点を貰える戦闘だったはずだ。レベルは届いていないのにも関わらず、十数秒で倒せたのだから。
現に、樹と美咲は二人がかりで豚頭を倒しているようだし。やっぱり刀哉が異常らしい。いや、異常と言えば特に力を込めていなさそうな1振りで豚頭を倒しているグレイさんもそうだが、あちらは例外だろう。
「よし、俺も頑張ってみるか」
負けていられない、と言うよりは、刀哉にばかり任せてられないと俺は意気込み、次の豚頭を倒しにいく。
今度は刀哉を参考に膝を壊すことにしよう、と。
◇◆◇
「勇者は今すぐ階段に行け!! オークを倒している暇はない!! 騎士団はその援護、ベルトは私と共にオーガキングの足止めだ!!」
「了解!!」
「みんな、今すぐ階段へ急ぐんだ!! 道は俺が開ける!!」
みんなにそう言って、俺は豚頭───オークと言うらしい───に突っ込む。
さっきまでの戦闘で手順はなんとなく理解した。やはり刀哉がやった、膝を壊して首を攻撃が一番速い方法だ。
剣で一連の動作を繰り返しながら、光魔法の詠唱をする。光魔法は攻撃には扱いづらいとマリーさんは言っていたが、刀哉からレーザービームみたいなのをやってみたら? と言われたことがある。
要するに光をたくさん集めて、それを放てということらしい。地球に居た頃サバイバルのテレビで虫眼鏡なんかで光を集めて熱するみたいなのを見たことがあった。
ここでは光があまり無いので、無詠唱で光の玉をいくつも創り出し、その光を使用する。
「『光よ、集まり、放たれよ! レーザービーム』!!」
左手をオークに向け、そこからレーザービームを放つイメージをしながら即席の詠唱をすると、直径50cm程の太さの光線がオークの腹を貫いた。
焼けたような、焦げたような臭いが充満するのは計算外だったが、威力は高いようだ。生き物に向けて撃ったのは初めてだが、貫通するとは思わなかった。
ただ、光の玉も含めると魔力の消費が激しい。
だが剣術だけだと、後ろのオーガキングなる魔物が来てしまうかもしれない。ヤツは直感でわかる。今の俺にはとてもじゃないが相手できない。一瞬でやられると本能が訴えている。
魔法を使うか、剣術だけでやり通すか。幸いにして、この選択に迷う時間は少なかった。
「拓磨、助っ人に来た!」
「こっちは任せて頂戴!」
「ナイスタイミングだ!!」
二人が来たおかげで、剣だけでも幾らか楽ができるようになったからだ。オークは増えているようだが、こちらも倒せば倒すほどにレベルアップをするはずだから、段々と楽になるはずだ。
その証拠に先程までは二人で戦っていた樹と美咲も、分かれて戦っていた
「セイッ!! ふぅ……樹! 刀哉はどうした!」
「そらっ! っ刀哉はグレイさん達の加勢に行ってる!」
「何!?」
目の前のオークを倒して、グレイさん達の方を見る。どうやら刀哉は遠くから魔法で援護しているようだが、俺たちとグレイさんの間の空間が歪んでいるように見える。
「な、なんだ!?」
「魔法を使った!!その歪んでるところよりこっちには来るなよ!死ぬぞ!」
クラスメイトの西崎が俺と同じことを思ったのかそう叫ぶと、刀哉の声が反対側から返ってきた。
どういう事だと俺が聞き返そうとしたら、歪んでいる場所の向こうから来たオークがそれに触れて、その瞬間身体が三つに分かれて別々の場所に瞬間移動した。
「あ、あれが刀哉の魔法なのか?」
叫んだわけではなかったため、戦闘音が激しいこの中では返事は返ってこなかった。だが、一つ言えるのは、刀哉はやっぱり異常だってことだ。
何だろうか、もう全部刀哉に任せていればいい気がしてきたが、流石にそういうわけにも行かない。刀哉があちらで戦っている以上、俺がみんなをまとめるしかない。
「階段についたら魔法でこっちを援護してくれ!! どうにかオークを倒し切る!!」
俺は大声で叫び、そろそろ喉が枯れてきたと思いながら、再度目の前のオークを同じ手順で倒した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます