第6話 罠



 「うわっ、なんだ!?」

 「キャァ!!」

 「眩しっ!?」


 突然の閃光に、俺もみんなも大パニックだった。

 視界が奪われた状態、俺はその中で反射的に剣を抜き放ち、この状況をどうするか、混乱しながらも思考を走らせる。

 

 「みんな落ち着くんだ!! いいか、武器を持って戦闘の準備をしろ!! 何かの罠かもしれない!!」


 そんな中、我らがリーダー拓磨の声が聞こえた。本当にこういう時は頼りになると思う。パニクっていてた連中もこれに落ち着きを取り戻したらしい。

 悲鳴が一度やみ、抜剣の音があちこちから聞こえ出す。


 未だ光は消えないが、統率は取れたと見ていいだろう。


 「グレイさん、もしもの時はお願いします!!」

 「了解した! ベルト達は視界が回復次第、勇者達を守れ! 転移系の罠と思われるため、地形の変化にも気をつけろ!!」

 「「了解!!」」


 グレイさんの声が聞こえ、それに野太い声で答える騎士団達。流石に訓練を積んでいるだけあって対応が早い。

 俺も言われた通り剣を構え、いつでも迎撃態勢に移れるように腰を低くする。背後からでない限りは問題ない。その背後も、魔法でカバーだ。


 魔力感知で光の中を探索する。居るのは俺達のみ。いや、違う!


 「みんな! 魔物が居るから気を付けろ!!」


 俺は異質な魔力を感知し、大声で叫んだ。

 聞こえたかは分からない。誰が何に対して返事をしているかなど、この中では分かるはずもないのだ。


 そして閃光がようやく収まり、視界に入ってくるのは、俺達の前と後ろ両方から迫ってくる魔物の群れ。


 俺の記憶によれば、あれはオークのはずだった。いや、見た目からそれ以外はありえないだろう。


 「グレイさん、オークの群れです!」

 「何っ!? 20階相当の敵だ、気を付けろ!!」


 20階相当、レベルは30辺りだろうか?

 ここに来る間に俺を除いて全員レベルは10辺りまで上昇しているはずだ。勿論ステータスの上昇値も一般人より全然高い。

 

 が、20レベルの差を埋めるには、些か経験が足りていない。


 ただでさえ突然の罠で混乱しているところに、前後からの強力な魔物の群れだ。

 一度戻った統率は、再び失われかけた。


 だが、俺はその現状を心配することは無かった。


 「慌てるな!! 急いでさっきまでのパーティーを組め!! 手順はゴブリンと同じ! 魔法を使って敵を近寄せるな!!

 武器を使ってるやつは2人組を作りつつ、魔法職に魔物を近づけないように援護しろ! 怪我をしたら2人で後退、穴埋めは騎士団の人たちに任せて叶恵に回復してもらえ!!

 騎士団の人たちは左右から挟撃、手の空いている方はこちらの穴埋め宜しくお願いします!! 叶恵は治癒に専念!! 光魔法を使える奴は自力で回復!!

 後ろは俺達とグレイさんで食い止める!!」

 「「りょ、了解!!」」

 「「了解しました!!」」


 それは、拓磨リーダーの存在があるからだ。


 とてもではないが、初心者とは思えない指揮。これはスキルとかではなく、天性のカリスマがあるからこそのものだろう。


 1度命令されれば後は迅速。もし他の者が一言一句同じ言葉を紡いでも、ここまで迅速には対応出来なかっただろう。それもやはり拓磨という存在だからこそだ。


 こちらの数は100と数名。一方で相手は魔力感知で確認する限り、前後それぞれ約50体ずつ。今も何らかの要因で増加中だ。


 現状では数的にも、恐らく戦力的にもこちらが上だ。既に動き出した奴らが続々オークを倒しているので、増加数を上回る速さで減ると思われる。


 俺はそこで、少しだけここの構造に視線を走らせる。


 俺が向いている方向を前だとして、前にはオークの軍団、その奥はオーク達の隙間から見た限り、どうやら地面が存在しない、崖のようになっているようだ。


 そして後ろは勿論オークだが、その奥には階段らしきものが見える。階段には魔物が沸かないらしいので、取り敢えずはそこに撤退するのが目標だろう。

 そしてオーク達の足元には紫色に光る魔法陣。どうやらそこからオークが続々と出てきているらしい。


 魔物を召還する罠……だろうか。


 「刀哉、考え事をしている場合じゃないぞ!!」

 「あ、悪い! すぐ行く!」


 拓磨に声をかけられて、俺も戦線へと参戦する。


 片手に携えた剣を、高速で振る。それだけでオークの分厚い肉を切り裂き、内臓まで達する。

 ステータス故か、スキル故か、装備故か。オークの贅肉は天然の鎧で、物理攻撃は効きにくいと本で読んだ気がするが、俺には関係なかったらしい。


 内臓に傷を負ったオークはそのうち死ぬと思われるので無視して、次のオークへと向かう。


 オークはとてもでかく、横幅は贅肉でもちろんのこと、身長も優に3メートル後半へ届くと思われるほどだ。

 そのため、首に攻撃を当てるには、空中へとジャンプするか、膝を壊して倒れ込んだところを狙うしかない。


 勿論空中は無防備になるため、俺も狙わない。手に持った棍棒の攻撃を屈んで回避し、膝を剣で斬りつける。

 断ち斬るには至らなかったものの、機能を壊すことは出来た。倒れ込んできたところで、綺麗に首を切断する。

 

 スパン!!


 気持ちいい音を立てながら首が飛んだオークは、その身体を魔力の残滓へと変える。迷宮内で死んだ魔物は、その身体を魔力へと変え、また迷宮に吸い取られるという、ある意味の永久機関となっている。

 そのため迷宮内では魔物は無限沸きで、制圧するには魔力の生成や迷宮の成長の元となっている迷宮の核、ダンジョンコアを破壊する必要がある。


 そんなどうでもいい事を考えながら殲滅していると、オークの数も結構減ってくる。俺は既に8体倒しているが、グレイさんは傍目で見た限り20体近くを仕留めている。同じ時間なのにおかしい戦力差だ。


 ちなみにこちらで戦っているのはグレイさん、俺、拓磨、樹、美咲の5人だ。叶恵は後ろで治療に当たっているはずだ。


 正直言って、後ろよりもこちらの方が単純な戦力的には強いと思われる。グレイさんはもちろんのこと、拓磨は勇者の中では俺を除いて戦力ナンバーワン、美咲もそれに続くナンバーツーで、樹も上位者だ。


 そして後ろでも、突出した戦力の持ち主はあまりいないが、それでも訓練された身や勇者スペックを活かしてオークを狩っていた。効率的には向こうの方が速いのは致し方ないことだろう。

 

 想定外の事態で一時はどうなることかと思ったが、この分なら特に問題なく抜け出せそうだ。


 そう思って安心したその時だ。



 ───一際でかい魔力の魔物が、魔法陣から現れた。

 

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