第1章 幕間
幕間 拓磨編
俺達がこの世界に召喚されて、凡そ3週間が経った。
当初は、初めて持つ武器や魔法に感激してばっかりだったが、今となってはそれも当たり前のように感じる。
スキルとやらの力は絶大で、武器を握って素振りをして、スキルを手に入れた瞬間まるで使い込んでいたかのように武器を振るうことが出来た。
今のところ、俺は勇者の中でトップクラスの実力となっている。能力とやらが【勇者】というそのままなものだったことからもそうだが、どうやら俺は他の奴らより何故か強いらしい。
友人である刀哉からは『お前こそ勇者の中の勇者だ』と良くからかわれるが、俺からしたら断固としてお前の方が勇者だと言い返したい。
あくまで俺の実力は勇者の中でトップ
言葉通り、俺より強い奴がいるのだ。
まず、訓練が素振りから模擬戦に移行したんだが、俺は純粋な剣技では美咲に勝てないのだ。
単純な打ち合いや鍔迫り合いなんかは、力的に俺の方が勝つんだが、技術という面では、俺は美咲にはかなわない。
上段からの振り下ろしは、剣を斜めにして流され、隙を突かれる。かといって細かい、予備動作の少ない攻撃に関しては、単純に剣を横から当てられて逸らされる。
懐に踏み込んでの、反応できないほどの速さの一撃じゃないと、基本美咲にはダメージを当てられない。
それもステータスに頼ったものとなっているから、釈然としない。勝率は俺が6割といったところか。
グレイ先生の俺に対する評価は、『少し攻撃が粗いが、ステータスの差や反応速度で補っているな。技術を向上させれば強くなる』とのこと。それからは素振りも毎日の日課として、欠かしていない。
美咲に対する評価は、『才能のある原石だ。素直な攻撃なのが玉に瑕だが、磨けば極上のダイアモンドとなる』とのことで、俺より評価的には上なんだろう。
悔しい、が、事実なので仕方ないことだ。素直な攻撃というのは、騙し討ちが出来ない、ということだろうか?
次に樹だ。樹は槍を使うんだが、これがもう戦いづらい!
クルクルと槍を回転させて、俺の攻撃を矛で、柄で、正確に防いでしまう。
間合い的にも樹の方が広いし、こっちの動きを予測してきたりするしで、なんというか搦手タイプだ。俺とは相性が悪い。
だが、そんな樹は身体能力が低いから、懐に入ってしまえば回避の手段が無くなり、俺の勝ちとなる。まぁ勝率は7割ぐらいか。
グレイ先生の樹に対する評価は、『身体能力は多少低いが、それを補ってあまりある予測能力がある。長所を生かすことで、上手く短所を軽減しているな。これでレベルが上がれば確実に厄介な相手となるぞ』だ。やはり身体能力の差を埋めるほどの予測能力は、グレイさんにとっても凄いことらしい。
叶恵に関してはいうことは無い。強く生きろ。勝率10割。評価も『うむぅ。何も言うまい』だ。ある意味驚きだ。
そして最後、まぁ言うまでもなく刀哉だが。
終始遊ばれている気がする。いや、"気がする"ではなく"遊ばれている"だ。
技術は美咲より上、視線の動きからの予測は、樹とは恐らく方法が違うが厄介、ステータスや身体能力は俺より上。
正直言って勝てる気がしないし、実際一度も勝ったことがないのだ。
なんというか、観察しているというか、基本こっちの動きを見てから動く。攻撃に関しても、見てから避ける。たまに身体が動きそうになってるから、恐らくわざとなんだろう。
敢えて見てから避けることに専念しているような感じがする。まぁ、刀哉の反応速度的にそれでも避けられるから、フェイントの入れようがないんだが。その点も厄介極まりない。
他にはわざわざ格闘してきたり、剣で防御して左手で殴ってきたりと、意表を突かれる攻撃をされる。
刀哉曰く、『武器持ってるやつが格闘やるなんて思わないだろ?』らしい。
その後に『まぁ初見殺しなだけで、対応は簡単なんだけどさぁ』とも零していた。
実際二回目以降は防ぐことが出来ているのだが、たまに格闘を意識しすぎて普通に剣で攻撃されることもある。まさかそこまで見越しての発言だったのだろうか。だとしたら恐ろしい。
取り敢えず、それからは俺も格闘を入れるようになったのだが、樹や美咲も格闘を入れるようになってたから、多分刀哉にやられたんだと思う。
ただ、刀哉の投げ技を何回もやられたことにより受け身が上達したのだけは釈然としなかった。
柔道の実技は俺の方が上だった気がするんだが……刀哉の運動能力は俺より圧倒的に高いからな。授業も本気じゃなかった可能性は高い。
ちなみに、グレイ先生の刀哉に対する評価は
『……剣術に関しては既に抜かれていると思う。レベルの差でどうにか埋まるだろうが、反応速度と危機感知能力が高すぎる。それでいて魔法も使えるのだから……恐らく勝率は五分五分、いや4割に行くかどうかだな』
……という感じらしい。
お前、グレイ先生が言葉に詰まるほど強いらしいぞ。評価が1人だけ違う……いや、対等と言うか自分より強い相手に対する反応だ。
魔法の方も俺は高水準で出来ているはずだ。[時空魔法]以外が使えるようになったり、無詠唱で魔法を使えたりなど、本当に才能があってよかったと思う。
ちなみに、魔法は模擬戦はやらないが、魔法を遠くから的に当てるという訓練はしている。
広い、魔法訓練場で行われているのだが、直径1m程の的に、俺は40mの距離から当てられるようになっている。マリー先生からも褒められたから、恐らく凄いことなのだろう。
この世界で会った人は、俺達よりも明らかに格上の人ばかりだから、平均がわからないのだ。
そう言えばマリー先生に無詠唱を披露した時に、無詠唱はとても凄いことだと言われた。
曰く、何年も使い続けている得意魔法でも無ければ、無詠唱なんかは無理らしく、上級魔法を無詠唱で発動出来るようになると、それは一流と呼ばれる域らしい。
刀哉が良く言っている、『流石勇者スペック』というやつだろうか。確かに、常人にはない力があるようだ。
マリー先生からの評価は『軌道も威力も高くて、無詠唱もできる。優秀賞を上げたくなるよ』だ。
よかった。何気に魔法の方がうまいのだろうか。いや、どちらかというと、魔法の水準が低いのだろう。
一方で美咲は魔法が得意じゃないらしい。[無魔法]を使用しているのをよく見かけるが、10m地点からがようやくらしい。勇者の中では下手な方だ。
とはいえ、マリー先生はそれでも上出来な方だと言うから、剣と魔法を使える者は少ないのだろう。恐らくどっちかに偏ってしまうのだと思う。
かく言う他の奴らも、ほとんどが偏っている。中には叶恵のように、極端な者もいるのだから。
まぁ評価としては『勇者の中では、下手なのかもしれないけど、一般と当てはめれば十分な実力ね』だ。
樹は意外なことに魔法の方が得意だった。特に[風魔法]が得意で、俺と同じように40m地点から当てられる。ただ、闇と特殊属性は使えないらしく、よく嘆いていた。
最近は刀哉から『槍と魔法を同時に使えるようになれ』と言われているらしく、二つの物事を並行して考えることを練習しているようだ。確かに武器で戦いながら魔法も使えたら格好よさそうだし効果的だが、今の俺には無理そうだからやめておく。
マリー先生からの評価は『正確無比な一撃ね。威力に関しても高い。ただ、発動時に行動が止まるから、それをどうにか出来れば強いよ』とのこと。
発動時に止まってしまうのは誰もが同じなので、特別樹にだけ言えることではないが、逆に言えば、それ以外は特に指摘する部分がないとも言える。
そしてやはりというか、叶恵は魔法が得意だ。特に[回復魔法]が群を抜いて得意で、練習にと訓練中に怪我をした騎士団の人を一瞬で治療していた。
しかも、騎士団の人はその後妙に元気そうにしていた。
叶恵に惚れたのだろうか? と変なことを考えたが、もしそうなら刀哉には黙っておこうと思う。刀哉は叶恵に関しては過保護な所があるからな。
マリー先生からの評価は『回復魔法に関してはもうこの国随一ね。多分切断された部位も、先が残っていればくっつけられるんじゃないかな』とのこと。
この国随一と言われていることからも、並大抵ではないのだろう。
他にも、同じクラスの
近接戦闘がイマイチな分、魔法が得意なようだ。無詠唱でバンバン魔法を放つ姿は、見ていて格好良い。羨ましいとも感じる。俺はあんなに連続して撃てないからな。
そんな実は、最近魔法の二種発動を目指しているらしく、よく腕を二本突き出して魔法を放っているのが見える。
ただ、発動するのはいいが的に当てられるほど精度は無いらしい。無詠唱や別々の魔法では無理だし、腕を突き出してある程度の指向性を与えてやらないと、真っ直ぐ飛ぶことすらままならないのだとか。まぁ、頑張ってくれと伝えておいた。
先生からの評価は『発動速度がとても速いね。撃ち合いの数だけなら、同時発動しないと追いつかないね』だそうだ。やっぱり魔法は才能による部分があるから、上手いやつはとことんうまいらしいな。
言うまでもないが、刀哉はずば抜けている。実の右に出る者はいないが、上に立つものはいる。刀哉だな。
特殊属性も含めた全属性が使えるのは勿論、無詠唱による魔法の発動に、
挙句の果てには的に直接魔法を出現させて壊すという荒業もやっていた。俺もそれを見て「それなら簡単だな」と思ったのだが、まず自分から離れたところに魔法を出すのは、基本的に無理であった。
一応地面から攻撃する魔法などは離れてても問題は無いのだが、他の魔法はせいぜいが自身の周囲5m以内であり、そこから的へ向かって魔法を動かすというものがほとんどだ。
試しに刀哉にコツを聞いたら
『出現させたい場所を、頭の中で座標として数値化して、更にその場所のイメージをしっかりとした状態で魔法を発動する』
という意味が分からない説明をもらった。
特に『頭の中で座標として数値化』というのが全くもって意味がわからなかった。教える気がないのではないか、とも思える。
一応樹にその説明をわかりやすく説明して欲しいとお願いしたら
『出現させたい場所の自分との相対距離……つまり座標を変数として頭の中に
とこれまた分かるような分からないような発言をもらった。
なお、刀哉の説明に『なるほどな』と理解を示した樹は、弱々しく発動速度も遅いものの、自身から10m以上離れたところに魔法を発動させることに成功させたようだ……が、釈然としない。
本当に俺も頭が良くなりたい。これでもテストは2位だったりしたんだが、足りないのか。
樹はともかく、刀哉はテスト10位程だったはずなんだが、アイツは美術が低いだけで、他の教科は樹と肩を並べているから、恐らく頭の回転や記憶力自体は樹に匹敵するのだろう。
いや、樹をすら超えている可能性も十分に有り得る。
……男性陣では俺が一番頭が悪いのかと思うと、悲しくなってきた。
まぁ、マリー先生に遠隔発動の話をすると、『出来るわけない』と返ってきたので、良かったと思う。マリー先生でも出来ないならきっと普通の人には無理だとか、考えが及ばないとかなんだろう。
なお、マリー先生の刀哉に対する評価は。
『センスが凄すぎる……空間把握能力は高すぎるし、魔法の精度も段違い。自動追尾機能でもついてるの? 魔法の同時発動も多分5は超えるし、それでいて特殊を含めた全属性使えて、魔力操作が天才的。隠蔽に関しても私ですら意識しないと分からない程に隠されてるし、敵と剣で戦いながら魔法も並列して発動できる……ダメ。遠方からの最上級魔法による奇襲以外で勝てる未来が見えないよ。グレイと組めば勝てるかもしれないけど、レベルが20ぐらいまで行ったらそれも無理かな。確定負け』
という、グレイ先生よりも酷くなっている。
刀哉、お前マリー先生ですら確定負けと称すとか、マジで何者なのだ。
ということで、実際に本気で戦った場合には、刀哉がずば抜けていて、次に多分俺、そして美咲と来て、樹辺りだろうか。叶恵は魔法はともかく戦えるかはわからないから除外だな。
それにしても、こうやって考えると俺の友人達は全員高スペックだな。実力的には勇者の中で1位から4位を独占だ。叶恵も魔法だけなら強いし、なにより回復能力が凄まじい。
まぁ、刀哉に関しては先生達と対等というか、勝てるかわからないと評価するぐらいでヤバいのだが。
「おっ、刀哉」
「うん? あぁ、拓磨か」
訓練が休みの日。図書館に魔法の本を読みに来たら、刀哉が居た。
基本こいつは暇な時はいつもここにいる。毎回読んでいる本が違って、内容は頭に入ってるのか? と聞いたところ、『完全記憶ってスキルがあるからな』と答えられた。
いいな、それ。テストに使えるというか、結構ずるいな。
今日もどうやら違う本だ。相変わらず凄まじいスピードで読む。
[速読]というスキルのお陰らしいが、俺も結構本を読んでいるのに未だ覚える気配はない。やはりある程度の速さで読めるようにならなければならないのか。
取り敢えず魔法の発動に関しての本を棚から取り出す。復習というか、何度も頭に刻むことも重要だと思うのだ。
魔法の発動方法は、一言で言うならイメージ。だが魔力操作も重要だ、というような内容で、魔法を出現させる際、無意識に魔力を操作しているのだとか。
それを意図的にできるようになれば一流だと言うらしいが、今度試してみようか。
あまり深くは読まず、要点だけを読んでいく。この世界の本は、言っては悪いが長々と書いていて、簡単な内容なのに理解出来なかったりする。説明下手というのだろうか。地球で小説家とか論文を発表してる人は凄いと思った瞬間だ。
なお、俺は邪魔をしないように別の机にいる。というのも、刀哉の邪魔じゃない。あいつは俺と話しながら本を読むのも全く苦にしないらしいからな。
じゃあ何かと言うと、ということで、俺は悪趣味だと自身で思いながらも耳をすませる。
「……トウヤ、これ」
「ん? 新しい本か。内容は……深淵の森に挑んで唯一生き残った冒険者の話か」
「ん。この世界じゃ、結構有名な、冒険譚」
「なるほどな。あの深淵の森に挑んだんだろ? 内容が本当なら勇者の俺でも死にそうな場所なんだが」
「……トウヤなら、シレッと帰ってきそう」
「流石にそこまで強くはないって」
「……そんなこと無いと、思うけど」
「ははは。信頼してくれてサンキューな」
「別に、信頼してるとか、じゃなくて、事実なだけ」
「はいはい」
刀哉と話しているのは、この図書館の司書らしい女の子。
俺は彼女が刀哉と話すのを邪魔しないように離れているのだ。
勿論、普通ならそんな気遣いはしないだろうが、俺はあの女の子は刀哉に
何せ、いつも図書館にいるあの女の子だが、刀哉以外とあんなふうに喋っているのを俺は見たことがない。唯一喋るのだって、本がどこにあるか聞いた時ぐらいだ。それだって一言で終わる。
後は勇者の1人が何度も喋りかけて無視されてたのも覚えているが。つまり、率直に言うと無愛想なのだ。
そんな無口無表情な女の子だが、刀哉にだけは自分から喋りかけに行くのだ。どうやら彼女がオススメする本を刀哉に貸しているらしいのだが、まずここも驚愕すべき部分だ。
基本ここの図書館から本を持ち出すのは禁じられている。何せ俺が1回あの女の子に持っていっていいか聞いたところ、『……ダメ』と言われたのを覚えているからだ。
なのに、貸出オーケーしているのだ。恐らく本が好きなのだと思われるが、自分が読んでいた本を貸し出しするということは、少なくとも相手を信頼している証拠となる。
更に、微妙に返答までの時間も、他の人と比べて短い。つまり矢継ぎ早に喋ろうとしているのだろう。
ついでに言えば、あの言葉もツンデレから来ているとも思っている。彼女は本を貸すというのを口実に、刀哉と喋りに行っていることで、自分を誤魔化している可能性もある。俺が言うから間違いない。恋愛には疎いが、美咲がそういうのをよく話すから分かるのだ。
結論。彼女は刀哉に恋愛感情を抱いている可能性大。恋愛感情でなくとも、好意は確実だろう。
しかも
まぁ、問題はそれに関して、刀哉が気づいていない……ということなんだが。
「ルリって冒険譚とか好きだよな。冒険者に憧れてんの?」
「……違う。冒険者、というよりは、冒険に憧れてる」
「あぁ、未知に対する探究心だな。分かるよ、その気持ち」
お前は全くわかってない!
何となく、俺の考えていたことと正反対のことを言っていたので、俺は頭の中でつい否定してしまった。
にしても鈍感すぎやしないか、とも思う。
いつも近づいてきて、しかも微妙に距離も近くて、本も貸してくれて、自分に対してしか喋らず、ツンデレ風の発言までしたら多少なりとも考えそうなんだが。
あいつ、前に『本を貸してくれたりするのは嬉しいんだが、微妙に近いんだよなぁ。勘違いされそうで怖いわ』とか抜かすし、俺が少し出すぎた行為だと理解した上で、彼女はお前のこと好きなんじゃないか? と聞けば、『ルリに限ってないだろーHAHAHA』という始末だ。殴っていいだろうか。
もう、本当に、見ていて凄いもどかしいのだ。
そんな思いを抱えたまま、今日も今日とて邪魔しないようにこっそりと図書館を抜け出す俺である。
───もし刀哉があの女の子に本気で応えようとしていた場合、俺は今とは真逆のことをしていただろうな、と自嘲しながら……。
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