幕間

幕間の物語:街を目指して

 ★幕間の物語・その二 コウエ視点★


「お、ニーデンドディエスが見えてきたな」


 小高い丘の上から望む、複数の城壁で取り囲まれた街・ニーデンドディエス。

 この街こそが、僕たちの追っているハヅキという冒険者のホームタウンだった。


「ったく、ここまで歩きで来るのは辛かったぜ」

「でもおかげで道中レベル稼ぎが出来ただろう?」

「言ってもふたりしてたかがレベル10じゃねーか。もしそのハヅキってヤツが本当にお前の弟だとしても、喧嘩になったら俺たちが束になっても敵わねぇぜ? なんせ相手はレベル99なんてバケモノなんだからな」


 バケモノと言いながらも、ニトロはどこか心踊るような表情を見せる。


 この旅の当初、ニトロは久しぶりに冒険者へと復帰した僕との旅に楽しみを見い出しているようだった。

 僕とニトロは先の大戦のずっと前から一緒にパーティを組んでいた仲で、普段はお互いに憎まれ口を叩きながらもいざ戦闘になれば息がぴったり合う。このニーデンドディエスに向かう旅すがらモンスターと何度も戦ったが、そんな阿吽の呼吸は相変わらずで、どこかノスタルジックな感傷をお互いに楽しめたのだった。


 そこにもうひとつ、ニトロの興味を引くが起きた。


 弟と思われるハヅキなる冒険者が復活したかと思うと、凄い勢いでレベルを上げて、ついにはMAXの99に達したのだ。


 僕たちが魔王に立ち向かった時でも、レベルは85ほどだ。

 そもそもレベルも後半になるとひとつあげるのに膨大な時間がかかり、99まで上げた冒険者なんて聞いたことがない。

 それなのに復活から一日も経たないうちにレベル99へ到達……どんな美味しい狩り場を見つけたのだろう、とニトロが興味を持つのも当然だった。


 加えて僕の脳筋な相棒は、とかく強いヤツが大好きなのだ。


 強いヤツと言っても、単にレベルが高い冒険者、というわけではない。

 例えば大戦に参加しなかった、今の時代最高レベルの、いや違った、レベル99が生まれた今となってはナンバー2であるドエルフには「死ぬのが怖い腰抜け野郎」というレッテルを貼って忌み嫌っている。

 

 その点で言っても、ハヅキはニトロの興味を惹くのに十分だった。

 なんせレベル99になったかと思えば突然死亡してすぐに復活、またまたレベル上げにいそしみレベル99へと舞い戻り、そして死亡……そんなバグにしか見えないような行為を延々と繰り返しているのだ。


 もちろん、バグである可能性がないわけでもない。

 でも、それ以上にもうひとつの可能性……彼がレベル99になっても簡単に倒すことが出来ない相手に挑み続けている可能性の方が高いと思われた。


 そして僕たちは、そんな強敵をひとりだけ知っている。


 魔王だ。


「さぁて、ホームタウンで待ち受けるのはいいが、ハヅキってヤツ、戻ってくるかな?」

「可能性は高いと思う。もしそいつが僕の予想通りひとりで魔王と戦っているのなら、そろそろ現状では太刀打ち出来ないと気付くはずだ」

「そうか、仲間を集める為に戻ってくるってわけかっ!」

「それに装備をパワーアップしようって考えるかもしれない」 


 なるほどと頷くニトロに、僕は街に着きハヅキに関する情報収集が済んだら、酒場の方に張ってくれないかと頼んだ。

 ニトロは一瞬「俺がそっちでいいのか?」って表情を浮かべたが、すぐに「ああ」と請け負ってくれた。

 酒場は冒険者にとって一緒に旅をする仲間を集める場所だが、文字通り、酒を飲む場所でもある。

 こんな世界であっても、ニトロは酒が大好きなのだ。あの酩酊感に馴れない僕より、彼の方がずっと適任だろう。


 それにこれはニトロには内緒だが、酒場はあくまで保険だった。

 もしハヅキが弟ならば、本命は酒場より装備関連の店なのだ。

 

 僕たちはニトロの『情報収集』スキルによって、ハヅキと同じようにレベル99になることも、また同じタイミングで死亡する冒険者がいないことを突き止めていた。

 それはすなわち、ハヅキはひとりで魔王に立ち向かっている可能性が高い、ということだ。

 ニトロはそんなハヅキのことをますます骨がある奴だと気に入ったが、僕は酷く落胆した。そもそも弟は家出して冒険者なんてやっている困った奴なんだ。ニトロはそのことをすっかり忘れている。


 そして弟のことをよく知っている僕としては、彼が今更仲間を集めるとはとても思えなかった。だからホームタウンに戻ってくるとしたら、その目的は装備のパワーアップだろうと思ったわけだ。

 

「んじゃ、行くか」

「ああ」


 僕たちは眼下のニーデンドディエスを目指し再度歩き始めた。

 

 ★幕間の物語・その二 終わり★

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