魔王様のゲーム~勇者のお供で魔王の奴隷なぽんこつメイド、世界を救う!?~

タカテン

第1章:ぽんこつメイドはそれでも戦いたい

第1話:何故かダンジョン入り口にボスキャラがいた

 ダンジョンに入ってすぐ、謎のボスキャラと遭遇した。


 正確に言えば、ボスキャラらしきものだった。

 長身痩躯な体型。漆黒のマントに映える金色の長髪。焔のように逆立つ眉。切れ長の眼に、天突く高鼻。そして両耳の後ろから生えている立派な角。うん、どこからどう見てもボスキャラでしょ、こいつ。


 そんな奴が何故か篝火で照らされるダンジョン入り口の大広間で、椅子に座りながらなにやら本を読んでいる。

 あれは魔導書、かな?


「なっ!? あれはまさか、究極魔導書アルティマニア!?」


 隣にいた魔法使いのエルリナさんが、いきなり驚愕した声を上げる。

 と次の瞬間には、大慌てで逃げ出していた。


「究極魔導書だと!? そんな馬鹿なっ!」


 エルリナさんの言葉に、武闘派僧侶のギダンさんまでぎょっとした表情を浮かべたかと思うと、これまた出口に向かって一目散。


「え? ええっ? ちょ、ちょっと究極魔道書ってそんなにヤバいものなんですかー!?」

「当たり前じゃない! 私が持っている完璧魔導書パーフェクトガイドよりも数倍の情報を誇る、それこそ名前に相応しく究極の魔導書よ!」


 逃げていくエルリナさんに質問すると「何馬鹿なこと言ってんの?」と返事がきた。

 ほええ~と感心するあたし。

 てか、完璧と謳いながら完全ではないって詐欺じゃんと思ったけど、突っ込むのはやめておいた。

 その代わり


「それじゃあ、戦闘はやめておいた方がいいですねー?」


 当然の流れだとは思うのだけれど、念の為に確認する。


「アレはきっと魔神の一種よ」

「今の俺たちのレベルでは敵う相手ではない。冒険者メイドのお前はもちろん、勇者とてヤツを倒すには一体どれだけの攻撃を繰り出せばよいのか……見当も付かないほどの強さだ」


 そう言い残してパーティの主力を担う傭兵のふたりは、とっととダンジョンの外へ避難してしまった。 

 

 

 

 あたしはキィ・ハレスプール。

 ごく普通のメイドな女の子……だったんだけど、今では伯爵さまのバカ息子のお供として冒険者メイドをやっている。えっ、冒険者メイドってなんだって? そんなのあたしこそ知りたいよっ! てかあたし、冒険に必要ないよね!?

 と文句を言いつつも、なんだかんだで旅をすることおよそ半年。ここまで色々ありつつも、まぁなんとかやってきた。

 

 ところが先日、先日、とある街のカジノにバカ息子こと勇者様がハマり、あっという間に素寒貧になってしまった。

 かくして一攫千金を夢見てこのドラゴンが棲むと言われるダンジョンにやってきたんだけど、まさかいきなりこんな強そうなヤツに出会っちゃうとは……。

 

 あーあ、ここまでやってきて手ぶらで帰るのはなんとも情けないけど仕方ない。何事も命あってこそ、だ。

 こうなったら帰りははぐれモンスター狩りに精を出して、せめて今晩の宿屋代ぐらいは稼ぐことにしようそうしよう。


 と偉そうなことを言ったけど、実はあたし、戦闘ではまるで役に立たないんだけどね。


 ま、それはともかく撤退、撤退っと。


「おーい、そこの魔物! 大人しくこの勇者様の経験値となれい!!」


 ところが勇者様がいきなりボスキャラ(暫定)に声をかけちゃった!


「わー、勇者様のバカ! 何やってるんですかーっ!?」


 慌てて後ろから勇者様の首を両手で絞める。

 が、時すでに遅し。

 勇者様の暴言であたしたちに気付いたボスキャラは、魔導書を読む手を止めた。


 そしてジロリと、ひと睨み。


 ひええ。

 おっかない。ごっつぅおっかない。

 心底縮み上がってしまった。

 

 そんなあたしの様子にフンと小馬鹿にしたように鼻で笑うボスキャラ。

 しかもあたしたちに向かって「かかってこい」とばかりに、人差し指をくいくいと動かして挑発してきた。


 もちろんあたしは思わず両手を振って「そんな滅相もない!」と身振りで返答する。

 すると。


「ぐぉぉぉぉ、俺様の首を絞めるとはメイドのくせしていい根性をしているなぁぁぁ、キィ!?」


 ぜいぜいと激しく呼吸をしながら、勇者様が凄い剣幕であたしの名前を叫んで振り返ってきた。

 あ、しまった。思わず身振りで応えてしまったから勇者様の首から手を離しちゃって、バカが復活してしまった。


「しかも、普通あの場面は口を塞ぐもんだろうが! 首を絞めるとは貴様ぁ、俺を殺すつもりかっ!?」


 しまったその二。慌てて弁明する。


「ごごごめんなさーい、思わず勇者様への日頃の想いが、咄嗟に首を絞めるという行動に現れちゃいました!」


 さらにしまったその三。つい本音が……


「日頃の想いだと!? くっくっく。まったく、俺を亡き者にしてまで独占したいなどとは、メイドの分際で大胆な事を……。まぁ、いい。これから宿に泊まる時には、俺の部屋を訪ねる許可をやろう」


 うん、勇者様がバカでよかった。

 てか、誰が訪ねるか、バカヤロウ。


「そんな事より、さっさと逃げましょうよぅ、勇者様」


 そうだ、今はこんなアホの相手をしている場合じゃなかった。早く逃げないと。

 慌ててあたしは踵を返す。

 見ると、エルリナさんとギダンさんが外で楽しそうに談笑していた。


 あー、あの二人、一応勇者様を守るよう雇われた傭兵なんだけどなぁ。やはり傭兵たる者、結局はお金よりも自分の命の方が大事、という事だろうか。

 ……いや、そもそも勇者様に人望がまったく無いのが原因だな、きっと。

 そりゃああたしだって本当は、こんなおバカで、見栄っ張りで、エロくてセコい勇者様とは一緒に冒険なんてしたくない。

 だって、ほら


「ちょっと待てーい! どうして勇者である俺様が、経験値の元であるモンスターを前に逃げなきゃならんのだ!?」


 傭兵ふたりに見捨てられたのに、いまだこんな馬鹿なことをのたまってる人だよ? 誰が悲しくてこんな残念な人と一緒にいたいと思うものかっ!


「勇者様ぁ、さっきのエルリナさんたちの話、聞いてなかったんですか? 相手はここのボスキャラかもしれないんですよぉ」

「ボスキャラぁ? キィ、お前はホントに世間というものを知らないなぁ」


 勇者様がバカにしたように、ちっちっちと指を振る。


「ダンジョン入ってすぐのところにボスキャラなんているかっ!」

「いるんだから、しょうがないじゃん!」


 思わずカッとなって言い返した。こっちだって命が懸かっているんだ。必死なんだ!

 ところが、勇者様は全然ひるまない。


「まぁ、敵がボスキャラだろうがなんだろうが、俺様の前では所詮ザコ同様よ」

「どこからそんな自信が……。ねぇ、勇者様、ホント、やめましょうよぅ。相手はとびっきり凄い究極魔導書とか言うのを持ってるらしいですし、怪我だけでは済まないですよぉ」


 今度は泣き落としで攻めてみた。


「ほほう、究極魔導書とな? それはさぞかし売ったら金になりそうなシロモノじゃないか」


 お金って、あんた……。

 もう、やだぁ、この人! 逃げるって言ったら逃げるんだってば!

 あたしはやけになって勇者様の体にしがみつき、引き摺る様に後退する手段に出た。

 が、しかし、


「うわぁぁぁぁ! ちょ、ちょっと、勇者さまぁ~!?」


「あはははは、経験値とレアアイテム、ゲットだぜ!!」


 逆にあたしを引き摺って、頭がアレな勇者様は無謀にもボスキャラに突っ込んでいくのだった。

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