2017年9月 皆本悠二

 夏休みが終わり授業再開した。まだ外は暑苦しい残暑。太陽が強烈なコントラストを作り出していた。最後の授業も終わりスクールバッグに宿題で必要な教科書類を入れていると半袖ブラウス姿の女子が寄ってきた。


「皆本くん、明日土曜日のバイトのシフト、朝9時から5時間なんだけど、ちょっと用事ができちゃって。代わってもらったりできる?」


悠二は首を横に振った。


「悪い。もうバイトは辞めたんだ」

「えっ!ホント!」

「ちょっと夏休みから忙しくなって。君には伝えるべきだった。去年は紹介してくれた事は感謝しているから」


会った時に言えばいいと思っていたけど夏休み中は彼女とはシフトも違っていて言う機会がなかった。


「そういうのちゃんと教えてよね」

カンカンだった。その女子は近くで待っていた友達に「行こう。皆本がバイト辞めちゃったから。当てにしてたのにもう!」と言いながら立ち去った。


 悠二は夏休みの終わりにバイトを辞めていた。そしてトランペットの練習を再開、ピアノのレッスンにも行くようになった。目指す進路を考えたら時間がとても足りない。一般教科だってやらなきゃいけない中での楽器演奏は1年ぶり。サビだらけだけど音楽に目的が生まれ、その練習の疲労は心地よく苦にならなかった。

考えている事をやり切れるか。何年かかるか見当もつかない。まずは最初の関門を突破しなければ。


 翌週月曜日の休み時間、前の席に座っていた運動部男子が後ろを振り向いてさり気なさそうに聞いてきた。

「悠二、音大受けるって本当?」

頷く悠二。

「ちょっとやりたい事が出来て音楽が出来ないとダメだから」

「トランペットも?」

再び頷いた。

「僕の乏しい音楽の才能の中でマシな部類の楽器だからね。好きだって言ってくれた奴だっていたし」


運動部男子は悠二に顔を近づけてきた。

「おまえ、いい顔になったよ」

「男子に言われてもな」

「そりゃそうか。……いや、頼みがあってさ。うちの野球部、応援はベンチ入りしなかった選手でやるんだけど、部員でトランペットやってるのが二人ほどいるんだ。でも手ほどきしてくれる奴がいない。教える実験台のつもりでいいから助けてくれないか?」


悠二は少しだけ考えた。融通できる時間には限りはあるけど、

「いいよ。昼休みとかでいいならアドバイスぐらいはできると思う」


 悠二は野球部のトランペット奏者の演奏を聞いてアドバイスをした。それどころか1度だけだけど10月の試合にも足を運んだ。1年生男女のトランペット奏者団員は秋の空に応援のメロディーを奏でた。

 運動部男子が悠二の隣に座った。

「教えるの上手いな。お前に頼んでよかったよ。本当にありがとう」

「こちらこそ。教える楽しさが少し分かった気がする」

「さすが将来は」

「おい。口にしないでくれよ。恥ずかしいしなんか言霊が逃げそうな気がするし」


運動部男子は呆れ顔。

「意外なところで験担ぎだよな」

「験担ぎで合格するならやるよ。それが人事を尽くして天命を待つって奴だろ」

「そりゃそうだな。悪かった」


そう言って二人は秋の澄み切った青空の下で大笑いした。

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