2024年10月 楽しい音楽の時間 自由曲『愛の共鳴』
自由曲は『愛の共鳴』というタイトルの曲だった。曲想は祈里が作っていて、それを祈里の母の明野さんが見つけ菜穂子さんの紹介で新進の作曲家の方が8分間の吹奏楽曲に仕立てた。私が母校の吹奏楽部復活を目指して音楽科講師になった時、明野さんが訪ねてきてこの楽譜を預けてくれた。
それから3年、私は初めて部員たちにこの曲を候補として挙げて曲のセレクションを行なった。祈里の曲は高難度。オリジナルなのでほとんど知られておらず他の学校が演奏する可能性はまずない。その事を今の部長は評価して部員たちに後押しして決まったのだった。
『愛の共鳴』もいよいよ終章部に入ってきた。この作品の見せ場はクラリネットとトランペットのソリにある。同じ旋律を奏でているのに合わなさがなくなってピタリと合った時、フルート・ソロが歌い始め、それに続いて全てのパートが加わってのクライマックスそしてフィナーレへとなだれ込む。
もうすぐ楽しい音楽の時が終わる。一瞬危ういと思う所はあったけど止まらずテンポが揺れるようなこともなく進んで行く。やっぱりこうやってみんなと音楽を作るのは楽しい。そうしていくうちの最後の小節、最後の音がコンサートホールに響いた。
そして愛美の左手がそっと閉じられると楽器が最後の一音を奏でた。その音がホールを満たし、そして消えて行った。
愛美が両腕を下ろすと一瞬の静粛の後に拍手がホール内に響いた。指揮台を降りた愛美は奏者全員に起立の挨拶を送って観客席に礼をすると更に大きな拍手が鳴り響いた。結果はともかく全力を引き出してあげられたと思う。今はただ音楽を作ったという達成感だけがあった。
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