2017年8月20日 追悼コンサート後半 『羊は安らかに草を食み』

 チャイムが鳴り客席のライトが消えた。舞台上の照明が点灯して最初の演奏を担う木管四重奏の面々、それには愛美も含まれていた、が楽器を持って舞台上に立った。


 舞台袖寄りの位置のスポットライトが点灯した。主催者である明野さんと夫の礼央れおさんが並んで挨拶に立った。礼央さんは準備の間、明野さんを支えておられたけど、今日は祈里の事を思い出すようであまり頼りにならなかった。その分、明野さんが大車輪で演奏会を牽引した。


「……私は祈里が逝ってしまった事よりもあの子がいた事を忘れ去られるのが嫌でした。今日、あの子の事を知ってもらう場として演奏会を開く事が出来て良かった。ちょっと音楽が上手い娘がいたって事をたまに思い出して頂けたらうれしいです」


 明野さんはそう言うと一呼吸間を開けてから最後の演目紹介に入った。


「まず吹奏楽部で祈里と一緒に練習、研鑽していたフルート奏者の平愛美さんと祈里のクラリネットの先生をして頂いていた名張菜穂子さん、オーボエの西野にしの希望のぞみさん、ファゴットの藤田ふじた嗣幸つぐゆきさんの四重奏でヨハン・セバスチャン・バッハ『3声のインベンション第1番』から『第15番』まで。『目覚めよと呼ぶ声が聞こえ』『羊は安らかに草を食み』をお聞き下さい」


 愛美達4人は菜穂子さんの目配せの合図で息を合わせて音楽を奏で始めた。

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