30話 その目に映るもの

「レイル君!!」

 思わず叫び彼の名前を呼ぶ。

 少しだけニッコリして彼は剣聖に首を切られた……はずだった。



 剣聖の魔装機は彼の首を斬ることなく、彼の体から無限に湧き出るかのような黒い何かによって完全に止められていた。

「レイル君……?」

 彼の瞳には意思というものが何一つ感じられずまるで人形のようだ。



「ちっ!次はなんだよ?」

 剣聖はつまらなさそうに魔装機を退き、大きく後ろに飛ぶ。

 彼は何も言わずただ黒い物体を太い鞭のようにしならせて剣聖を逃がさないように攻撃する。



「へえ……」

 鋭くしなった鞭を難なく魔装機で受け流し少し驚いた顔をする。

「さっきよりは楽しめそうだ、いいね面白い!」

 黒い物体を弾き、頬を吊り上がらせ反撃と言わんばかりに剣を上段から振り下ろす。



「ふっ!!」

 上段から振り下ろされた一撃から始まり剣聖はわずか二秒の間に合計で37回という不可能としか考えられない速さの連撃を彼に浴びせる。

 その一つ一つの攻撃は雑味がなく洗練され、全てが一撃必殺の攻撃だ。



 その攻撃を彼は防御する素振りもなく、全て無防備に喰らう。

「……化け物め、そんな力どこに隠していた?」

 しかし彼は今の連撃を受けても傷一つつけず無気力に佇み、剣聖をただ見つていた。



「ど、どういうことだよ……」

「あれがレイルさん?」

 変態とマッキーは見たことのない彼の姿を見て困惑する。



「エリス!」

 剣聖は魔装機の名前を呼ぶと刃を彼に向けて詠唱を始める。

「我が闇は全てを凍てつかせ永劫をもたらすものなり……」

 詠唱が終わると彼の足元の地面から突然、巨大な氷塊が現れ飲み込む。



 彼は身動きひとつ取れずそのまま氷塊に飲み込まれる。



「はあ、流石にこの大きさは魔力をたくさん使うな。さて……」

 剣聖は呟きながらこちらに視線をやる。

「お仲間は死んだ、次は君たちの番だね」

 少し疲れた顔をして剣聖はこちらに近づいてくる。



 ズドン!

 しかしその歩みは後ろからした激しい音に止められる。

「これも駄目か……」

 音がした方を見ると悠然と彼が剣聖を見定めていた。



「ッ!!」

 剣聖は何も言わず激しく彼に再度向き直り斬りかかる、拳と拳の喧嘩のような凄まじい速さで魔装機と黒い物体が混じり合う音がする。

 私の目では到底捉えきれず、自分が何を見ているのか分からなくなる。



 次元が違いすぎる……。

 釘付けになりながらふとそう思う。



 何をどれだけ頑張れば私はあの境地まで行けるのだろうか。

 わからない……。



 激しくぶつかり合うなか、彼が操る黒い物体が剣聖の首を捉えようとする。

「まずい!」

 剣聖も慌てて回避をしようとするが間に合わない。

「シネ」

 彼が短く呟き剣聖の首を完全に捉えたと思った瞬間、二人の間に激しい嵐と錯覚するほど荒く速い影が現れる。



「そこまでにしておけ」

 影の正体はよく見れた私たちの担任タイラスだ。

「ここで剣戟のご登場か……」

「………」

 タイラスは二人の攻撃を完全に受け止め制する。



「ジャマヲスルナ」

 しかしタイラスの言葉を無視して彼は剣聖に攻撃をしようとする。

  「お前は黙ってろ」

 が、それをタイラスは彼の首根っこに鋭い手刀をひとつ打って黙らせる。



「邪魔をして悪いな、しかし今日はここらへんにしといてもらえないか?」

「……わかりました。今日はこの辺で失礼します」

 剣聖は少し何かを考えてタイラスの指示に従う。

「お前らも帰るぞ!」

 タイラスはぐったりと気を失っている彼を担ぎながら私たちに声をかける。



「ジャマヲ……スルナ!!!」

 突然、彼からものすごい量の黒い魔力が溢れ出し辺り一帯を包み込む。

「クソ!まだ起きていたか……」

 タイラスも予想外のことが起きて混乱した様子だ。



 そのままあたし達は為す術もなく、闇に飲み込まれていく。


 ・

 ・

 ・


「これは何事だい?私のお気に入りの場所がこんな真っ黒になるのんて」


 ………。


「ああ、君の仕業か。困るよこんなメチャクチャにしてもらっちゃ」


 ………。


「かなり闇に飲み込まれてるようだね。どうしたんだい?」


 ………。


「なるほど面白い。しかたないこれも何かの縁だ、私が助けてあげよう」


 ………。


「ああ、本当さ、この戒めの迷宮に住まう光の精霊リュミールにお任せあれだ!と、助ける前に依り代はどうしようかな〜」


 ………。


「お!なんだちょうどいいとこにあるじゃないか、珍しいね精霊石なんて。それじゃあお邪魔するよ」


 ………。


「これからよろしく頼むよ……」


 ・

 ・

 ・


 気がつくと私達は迷宮の外で寝ていた。

 彼とタイラスの姿はなく、キャンプ地に戻ると傷の療養中とのこと。



 次の日、私達は三人で訓練を行い、目標は余裕で達成できた。

 それから二ヶ月、学園に戻りいつも通りに日々は過ぎていく。

 その中に彼の姿はなくなにか物足りない感じがした。



「暇だな〜」

 変態が、彼がいつも座っている席に座り頬杖をつきながら気だるそうに言う。

「なにか物足りないですね……」

 そして変態の隣に座りマッキーが寂しそうな顔をする。

「……」

 私は何を言うでもなく窓から外の青空をなんとなく眺めていた。



 タイラスが言うにはもう体の傷は癒えているらしいのだが、まだ帰ってきてから一度も自分の部屋から出てきていない。



 このままじゃいけない気がする、なにか行動しなければ……。

 モヤモヤと自分の中に腑に落ちない何かがずっと居座って落ち着かない。



「……会いに行こう」

 窓の外を眺めながらポロリとそんな提案をする。

「ん?」

「え?」

 二人はいきなり喋り出した私の言葉に首を傾げる。



 私は立ち上がり、授業をサボって彼の部屋まで足を動かす。

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