29話 壊れ、壊れる
「はぁはぁ……」
大きく肩で息をしながらラミアは疲れていた。
こんなに疲れている彼女の姿を初めてだ。レイボルトとラミアの決闘は完全にラミアの劣勢だった。まるで次の行動を読んでいるかのように何をしてもラミアの攻撃をいなされ、すぐさま反撃を食らう。
「言い出しっぺの癖に大したことないな、やっぱり蒼はダメだな」
レイボルトは心底つまらなそうな顔をして欠伸をつく。
「まだ……まだ……!!」
隙をつくように、レイボルトが油断しているところに魔法で自身を強化して攻撃を仕掛ける。タイラスの時と同じ技だ。
「何それ、やる気あるの?」
しかしレイボルトは眉一つ動かさず何事もないように剣を横に薙いで攻撃を打ち消す。
「くっ!!」
思いっきり後ろに吹き飛ばされてぐったりと地面に倒れる。
「もういいでしょ?君の負け。暇つぶしにもならなかったね」
ゆっくりと地面に倒れているラミアの元まで歩き剣先を首元に近づける。
「じゃ、死んで」
勢いをつけてラミアの首に剣を突き刺そうとする。
「ラミア!!」
しかしキンっ!と鋼と鋼がぶつかるような音がしてそれは間逃れる。
「おい、殺す必要はないだろ」
「なに?次は君?」
レイボルトは俺に攻撃を邪魔されて少し苛立つ。
ラミアを抱えて大きく後ろに飛びのき距離を取る。
「ローグ、マキア、ラミアを頼む」
「わかった!」
「はい!」
二人にラミアを預けてレイボルトへと向き直る。
「はあ、なんかお前を倒す!みたいな感じで出てきたけどこの四人の中で君が一番弱そうなんだよね?僕、弱い奴とは戦う気ないの、せめてそこの大きな斧のやつがいいな」
レイボルトは俺に全く興味なしのようでローグを逆指名する。
「まあ、そう言うなよ。もしかしたら強いかもしんないでしょ?」
わざとらしく見えるようにアニスを前に出す。
「ッ!それを何故お前が!!」
レイボルトはアニスについている赤い魔石を見て驚いた顔をする。
「さあね、俺もアンタの剣を見た時驚いたよ」
「……興が乗った。いいよ、相手してあげる」
剣聖はわざとらしく殺気を放ちながら剣を構える。
「なっ!?」
剣聖は話し終わったかと思うといきなり急接近をして斬りかかってくる。
なんとか受け止めるが完全に出遅れた。
"マスター!!"
「問題……ないっ!」
力いっぱい剣を弾き体制立て直す。
「まだ終わらないよ」
しかし剣聖はその隙を与えてくれず、すぐさま攻撃をしてくる。
色々な角度から尋常ではない速さで剣が飛んでくる。全ては捌ききれず、腕や足、胴体に軽く傷を負う。
"マスター、スキルを!!"
アニスに言われて、咄嗟に影渡で地面の影に潜り込む。
「へえ、面白いスキルだね」
少し驚いた顔をして辺りを見渡す。
その間に影の中から剣聖の後ろへと回り込み、背中へ斬りかかる。
「でも、使い手がこれじゃあ宝の持ち腐れか……」
剣聖はわかっていたかのように難なく俺の攻撃を受け止め、またも反撃をくらってしまう。
「はあ……つまらない。もう死ねよ」
剣聖は酷く馬鹿にした瞳でこちらを見ると深く腰を落とす。
「面倒だ、我がギルギオンの剣技を持ってお前を殺してやる、有難く思え」
剣聖の言葉が終わると到底理解できない速さと技で斬られる。
しかしどういうわけか奴の剣技の一撃目を俺はアニスで受け止めて、奇跡的に生き残る。
ピキっ。
瞬間、耳の中でそんな嫌な音が響きそれとともにアニスの悲痛な叫びが聞こえる。
"うぐっ!!"
「アニス!?」
嫌な予感がする。駄目だこれ以上は何かいけない!
「何僕の攻撃を止めてるんだよ、さっさと死ねよ!!」
剣聖は偶然にせよ、自分の剣技を止められたことが許せないのか血走った目でもう一度剣を薙ぐ。
やめろ……頼む……これ以上は……やめてくれ
パキンっ!
「え?」
幸か不幸か俺は二度目のレイボルトの攻撃も防いでしまう。そして再び耳の中で厭な音が響き、同時に目の前の時間が止まる。
剣聖の魔装機とアニスが勢いよくぶつかり合い、アニスが木の棒のように二つに折れる光景が目の中に広がる。
数秒、その場で立ち尽くし、何が起こったか理解する。
「おいアニス……アニス!!」
レイボルトとの闘いなど忘れてアニスを呼び続ける。
「頼む!返事をしてくれよ!!」
大声で何度も神に祈るように叫んだ。
"マス、ター……"
すると細く弱々しい少女の声が頭の中に聞こえてきた。
「大丈夫かアニス!?」
「申し訳……ございません……何もお役に立てませんでした……」
アニスは少女の姿に戻り途切れ途切れで話す。しかしアニスの体の半部は無くなっており、酷く醜くとても見ていられるものではなかった。
「喋るな!今治療を……」
とにかく今はこの現実を否定したかった。出来もしない治癒魔法を使おうと必死に魔力を練る。
「いいえ……マスター……私はもう駄目です……私は本当に駄作だったようです……」
「うるさい!いいから黙ってろ……」
自分の不甲斐なさに自然と目から涙が出てくる。
駄目だ、泣くな、ここで泣いたら駄目だ、泣くなよ……。
「泣かないでくださいマスター……私まで泣いちゃうじゃないですか……私は貴方に拾われてとても幸せでした……」
優しく俺の頬を撫でて、目から流れる涙を小さな手で拭ってくれる。
「ありがとう…ござい…ました……」
最後に一言呟いて、アニスは光の粒子になり消え去っていく。その光の中でひとつの赤い魔石を1つ手にする。
「……ねえ、茶番終わった?」
後ろで退屈そうな顔をしながら剣聖は言う。
なんだと?
「いや〜随分長いんだもん、最後のお別れ。疲れちゃったよー、それにしても武器の性能はすごくいいのに使い手がこんなんじゃ宝の持ち腐れってことがよくわかったよね〜。あ、武器も弱っちいから壊れちゃうのか」
ケタケタと腹を抑えながら笑う。
今、なんて言った?
何も口に出さず静かにその場から立ち上がり、右手の中にある魔石をぎゅっと握りしめる。
俺の事を馬鹿にするのはまだいい……でも、アニスを俺の最高の剣を馬鹿にすることは許さない……。
「君もすぐにあの魔装機の後を追わせてあげるよ。弱いもの同士、死ぬ時も一緒じゃないと可哀想だからねぇ!!」
俺の首を目がけて鋭い刃が襲いかかってくる。
「レイル君!!」
先程まで喧嘩をしていた少女の心配してくれる声が聞こえてきた。
よかった、無事だったか。
これであとはあいつが何とかしてくれるか。
安心して任せられる。
「死ね!!」
先程まで音速に感じられた剣も今は遅く感じられて仕方がない。
カチッと何かの音がする。
「……黙レ」
その言葉を最後に俺の意識はなくなった。
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