27話 訓練前夜

 永久に続くかと思われる草原をただひたすらに歩いていく。

 今日でちょうど4日ほど経ったろうか、スレイヴン学園との合同訓練のため俺達は戒めの迷宮へと向かっていた。



 タイラスが言うには今日の夕方頃には到着するとの事。後ろの方を見ると長蛇の列ができて皆疲れ切った顔をしながら行進していた。

 A〜Gの八クラス、全部で800名弱ほどの数が揃うと壮観で見ていて最初の方は面白かったがさすがに飽きがきている。



「う〜、お腹減った〜……」

 腹を抑えながらラミアがフラフラと覚束無い足取りで歩く。

「あ、アリスさん成分が足りていない……」

 ローグは意味不明なことを言う。

「……」

 意外なことにマキアは他の二人とは違い弱音を吐かず黙々と歩いていた。



「マキア大丈夫か?」

 何も喋らないので心配になり声をかける。

「はい!大丈夫です。あと一週間はいけます!!」

 疲れを一切感じさせない笑顔でマキアは答える。



 根性あるな〜。二人にも見習って欲しいものだ……。

 太陽はちょうど真上を刺し俺も疲れがピークに達しようとしていた。



 "もうひと頑張りです、マスター!"

「おうさ!」

 アニスの声援に励まされながら最後のふんばりを見せる。


 ・

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「つ、ついた……」

 日はすっかりと落ちて黄色い三日月が雲の隙間から優しい光で地上を照らしていた。



「みんな、ご苦労。とりあえず今日はこのまま休憩とする、先ほど説明した範囲なら好きな場所で休んでもらって構わない。それでは解散!」

 話半分でタイラスの話を聞いてすぐに野宿の準備を始める。最初はなれなかった設営も四日目ともなれば慣れるものでテキパキと割り振られた仕事をする



 5分もせずにキャンプの設営が終わりみんなで火を囲み暖を取る。

 味気ない携帯食を口にしながらぼうっと火を見つめる。



「ひもじいよ〜」

 干し肉を物足りなさそうに食べながらラミアが言う。

「ああ……アリスさん……」

 ローグは横になりながら虚ろな目をする。

「……」

 マキアは体育座りをして静かに目を瞑り休んでいる。


 ……こいつらまだそんなこと言ってんのか。

 てかラミアさん、それは明日食べるはずの干し肉ですよね?



 後ろの方では魔装機が悪魔の姿になり、何やら話し込んでる様子だ。



 他のグループとは少し離れたところでキャンプを張っているのでアニス達がバレる心配はまずない。



「おいラミア、そこら辺にしとかないとお前の明日の食べる分なくなるぞ。ローグ、いつまでもそんなこと言ってないで寝ろ。マキアも横になってゆっくり休んでくれ。俺が最初に見張りする、2時間交代な」

「レイル君がくれるから大丈夫だよ〜」

「そうなこと言わないでよ相棒〜」

「すいません、ありがとうございます……」

 各々そんなことをぶつくさ言いながら眠りになんとかついてくれた。



「はあ……」

 疲れた。

 てか、あいつら団体行動できなさすぎでは?

 マキアがいてほんとに良かった……。



「大丈夫ですかマスター?」

「ああ、アニスか」

 先程までガーロットやアッシュ、アルコの魔装機同士で話していたアニスが俺の隣に座る。

「お疲れでしたらお休みください。見張りでしたら私がやります」

「いや大丈夫、そう言ってアニスに頼んだらまた一人で見張りしそうだし」

 アニスの言葉をありがたく思いながら少し笑みが零れる。



 なんというか、ほんとに俺には勿体ないぐらい、いい武器だし相棒だよ。



「な、何が面白いんですか?」

「いや、なんでも」

 アニスの反応が意味もなく面白く感じられて先ほどより大きく笑う。

「教えてくださいよ、気になるじゃないですか!!」

「んー、そのうちな」

 教える気は無いが曖昧な返事をする。



「むー……」

 頬を大きく膨らませて駄々っ子のような顔をする。

「っ!!」

 あんまり見ることのないアニスのそんな姿を見て少しドキッと心臓が跳ね上がり顔が熱くなる。



「顔が赤いようですが本当に大丈夫ですか?お体が冷えるようでしたら毛布を……」

「大丈夫!!た、焚き火で赤く見えるだけじゃないか?」

 気恥ずかしくなって慌てて言い訳をしながらアニスを引き止める。



 それから次の交代までアニスと焚き火をつつきながら静かな夜を過ごす。


 ・

 ・

 ・


「諸君!よく眠れたかな?ここまで来るのにかなり体力を消耗していると思うがここからが本当の訓練だ、気を抜かぬよう頑張ってくれ」

 列を組んでタイラスの話を聞く。隣にはスレイヴン魔法騎士学園の生徒達が列を組んで同じように話を聞いていた。



「さて、今ここに集まっている君たちは近い未来一緒に悪魔や魔物、はたまた他国の兵士と戦うことになるいわば戦友になるかもしれないものたちだ。くれぐれも揉め事のないようにな」

 スレイヴン学園の方を見ながら一人の少年と目が合う。

 少年はこちらを見て少し笑って前の方にむきなおる。



 ……なんだ?顔になんかついてたかな?

 ぺたぺたと顔を触って確認してみる。



「それでは今回の訓練の説明をしよう。今回諸君にはこの戒めの迷宮の中にいる魔物のを2日間の間で百体倒してきてもらう。種類はバラバラで構わない目標に達しなかったものには重たい罰があると思ってくれたまえ。それではさっそく始めようか、健闘を祈る!!」

 そうして訓練が始まった。

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