15話 実技試験2

「何を突っ立ってる? お前の番だぞ? それとも怖気付いたか?」

 タイラスは微動だにしない俺を見て不思議な顔をする。



 いや、やりずらい。ものすごくやりずらい、というか俺の後ろにいたはずの受験生が全員いなくなってるですけど!?



 "あの無礼者! マスターが怖気付いたですって!? 私のマスターを侮辱するとはいい度胸です。やっちゃいましょうマスター!!"



 うん、やる気があるのはいいことだと思うんだ。でもね?相手が相手なんだよ……。しかも俺にあんなレベルの高い戦闘技術なんてないですし、鬼斬がでてきた時点で詰んでるんですよね。



「どうした〜、殺んないのか〜?」

 タイラスは大きく欠伸をする。



 今俺の聞き間違いじゃなければあの人、殺るって言ったよね!?



 "マスター、グダグダ言ってないで早く行きましょう! 大丈夫です! マスターはできる子です!!"

 心の声が漏れていたようでアニスに急かされる。



 確かに筆記試験は散々な結果だろうし、どのみちここのままじゃ試験なんて受からない、さすがにあの人も人殺しなんてするわけない。腹を括るか。



 そしてやっと決心がつき、アニスを鞘から抜き中段に構える。



「お前も珍しい片手剣を使うんだな、黒か……。綺麗な剣だ」

 アニスを見てそう呟く。



「よしどこからでも来い」

 タイラスはラミアの時と同様、受けの姿勢でこちらが仕掛けてくるのを待つ。



 "さあマスター、まずはプランCです!"

 アニスは声を弾ませ楽しそうだ。

「いや、そもそもプランなんてひとつしかないでしょ……」

 ついつい声を出して突っ込んでしまう。



 秘策と言っても物凄く単純なものだ。ラミアのように真正面から攻めれば確実に死ぬので、3ヶ月の間で覚えたスキルを全て使い、不意打ちでもやってみようというものだ。上手くいくかはわからないがやってみよう。



「アニス」

 "はい!"

 タイラスには聞こえない小さな声でアニスを呼び、1つ目のスキルを使う。



「ほう、面白い……」

 タイラスが瞬きをした瞬間俺の姿は消え、さっきまでいたはずの場所にいなくなる。



 次に2つ目のスキルを使い、タイラスに俺の魔力を察知されないように隠蔽する。



 これで俺は完全にタイラスに気配を悟られずに攻撃することができる。

 タイラスとの距離は約15mほど、このまま足音や砂埃をたてずに近づいて攻撃でもいいが剣戟のタイラスのことなので少しの音や砂埃でも気づかれてしまうだろう。



 なので最後のスキルを使う。

 お天道様は俺に味方してくれるようでちょうど大きな雲が運動場の真上を通り、地面に雲の影ができる。

 俺はその地面にできた影の中に入り込み一瞬でタイラスの後ろを取る。



 ここの間で約7秒。

 最後に後ろから見事な不意打ちを決めてお終いだ。

 タイラスの背中を目掛け剣を一閃、横に薙ぎ払う。



 よし、これで終わり……………。



 そう思った瞬間、俺の攻撃はタイラスの鬼斬に受け止められる。



「な!?」

 攻撃が受け止められたことで俺のスキルは全て効果を失いタイラスの目の前に姿を晒す。

「まだまだだな、最後まで気を抜かずゆっくりと剣を俺の背中にでも突き刺すんだったな」

 俺の姿を見つけニヤリと笑う。



 まさか剣を払った時に起きた風圧を瞬時に感じ取って剣を防いだと言うのかこの人!?

 もしかしてかすり傷をつけたラミアはかなりすごいんじゃないか?



「さすが剣戟のタイラスだ……」

 俺は最初にして最後の攻撃を防がれ、力なく剣を下に降ろす。

「なんだもうおしまいか?」

 タイラスが残念そうな顔をする。

「ええ、今の俺にできるのはこれだけです」



 終わった。これで完全に試験に落ちた。

 はあ、村のみんなになんて言おう……。



「いやいや、今年は粒ぞろいが多いな。こんなに楽しめるとは思わなかったぞ。試験の結果楽しみに待つといい、ガリス村のレイル」

 タイラスはそう言って運動場を出ていく。



「もしかしてあの人、全員の名前を覚えてるとか?」

 そんなくだらない疑問を口にし、死なずに実技試験を終えた。


 ・

 ・

 ・


 鬱蒼とした森の中に立てられた豪華絢爛な建物の中の一室に何人かの大人が集まっていた。



「さて、それではこれより合格者の最終選考を始める」

 白いローブを羽織った老人が口火を切る。

「そうですね、それで今年の実技はどうでしたかお二人さん」

 青ブチのメガネをかけたミディアムヘアの女性が口を開く。



「1部の方はボチボチだったかな? あ! でも面白そうなの受験生が2人ほどいたよ」

 150cm程の子供っぽさが目立つくせっ毛の男が言う。

「2部の方も2人ほど面白い奴がいたな。かすり傷なんて久しぶりにつけららた」

 部屋の中にタイラスの姿もあり腕を組みながら今日のことを報告する。



「ふむ、今年は豊作のようじゃな。それは良いことだ」

 白いローブを着た老人がにっこり微笑む。

「はあ、毎年のことながら筆記試験は1部と2部、両方ダメでした」

 青ブチのメガネの女性が肩を落とす。



「そうか。それで実技試験で面白いと言った受験生は誰なんじゃ?」

 老人がタイラスともう一人の男に聞く。

「僕の方はね、北のノースウェル村から来た……と西のルーウッドの街から来た……って言う受験生だったよ」

「俺のところは、南のオールレイの街からきたラミア=アンネットってやつと東の最果てにあるガリス村から来たレイルってやつだな」

 2人がお互いに気にった受験生の名前を言う。



「ふむ東西南北、それぞれからか……。何か関係があるのかの〜?」

 老人は顎をさすりながら目を細めた。

「これからその4名の行動をよく見ておくことじゃな。頼んだぞ君たち」

 そこで話し合いは終わった。

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