第30話 お嬢ちゃん達、おじさんと一緒に遊ぼうか


「あ、タダヒトだぁ」

「タダヒトが来たぁ」

「やぁ二人とも。頼むから呼び捨ては止めてくれないかな?最悪おじさんでも構わないからさ」


 進まされた部屋の中には、お人形遊びをする二人の子供がいた。


 一人は金髪を短く刈り上げ、水色の子供用紳士服を着ている男の子。

 もう一人は同じく金髪のおかっぱヘアーであり、ひらひらの多いドレスのような赤い子ども服を着ている女の子だ。


 天真爛漫な笑顔を向ける二人は、アントワネッタの弟と妹であった。

 彼らは双子で、御年68歳だったと思う。


「えーでもタダヒトって年下でしょー?」

「おじさんじゃなくて坊やだよぉ」

「うーん、グゥの音もでねぇや」


 最早慣れてしまった事実を言われ、俺は二人の呼び方を変えられなくなってしまった。

 口調もついつい投げやりになってしまう。

 この子達、純粋なのか黒いのかよく分からない。


「まぁ、呼び捨てでもいいか。それより二人とも、少しだけ何かして遊ぼうか!」

「えっ良いの!?いつもお姉ちゃんやお母さんとお話して帰っちゃうのに!」

「私たちのことなんか気にもかけないで、すぐに帰っちゃうのに!」

「えぇ……」


 心にくる言い方するなこの子達は。

 心臓が電動ドリルで抉られてるような気分だぞ。


「ま、まぁ今日は少し時間があるから。一緒に遊べるんだよ。さぁ、何して遊ぼうか?」

「パラノイアー!」

「子供がやるようなゲームじゃないんだよなぁ……」


 弟君がやりたいと言うゲームを聞いて、思わず白目になって座り込んでしまった。

 パラノイアと言ったら、俺が元いた時代でそれなりに流行っていたTRPGの一種だ。


 TRPG……正式にはテーブルトークRPG。別名、会話型RPG。

 コンピュータの類を使わず、ルールブックやサイコロを使って対話をしながら進めていくRPG……だったと思う。

 実際にやったことはないが、どういうモノかくらいは記憶していた。

 確かゲームキーパーとプレイヤーが存在していて、プレイヤーの行動に沿ってキーパーが話を進めていく、というシステムの筈だ。


 パラノイアと言うのはそのTRPGの一種で、機械に完全管理されたディストピアで純人間が指令を全うしていく流れのゲームだ。

 このゲームの特徴としては……少々偏見があるがとにかく人が簡単に死ぬ。最早ギャグじゃないかってくらい簡単に死ぬ。

 ディストピアでは人間のランクが色で区別されており、自分より上のランクの人間に少し逆らっただけでも、すぐ殺されてしまう。

 そして殺された後は、何処からともなくプレイヤーのクローンがやって来て、ゲームが継続されるのだ。

 そんなゲームでよく言われる決まり文句が「幸福は義務です」だ。

 簡単な説明だが、これだけでも小学校低学年くらいの子供たちがやるようなゲームじゃない事は分かるだろう。


 しかしこの子たちは、そんなパラノイアが大好きなのだ。

 他人のこと言えないけど、こんなゲームばっかりしてたら性格歪むぞ……。


「ほ、他のゲームしないか?」

「えぇーパラノイアがいいなぁ。ねぇチョウちゃん」

「うん、先生が必死に生にしがみついて、死の淵にきらめかせる一瞬の輝きが見たいんだよぉ」

「どこで覚えたのそんな言葉……!」


 あれか、ご親族の方々か!?

 吸血鬼には本気で怖い性格の人がいたりするが、マジで悪影響だぞこれ!

 あとでエレナさんに忠告しておかないと……。

 アントワネッタの面談に来たってのに、弟君たちの相談までしないといけないとはなぁ。


「うーん、やっぱりパラノイアが良いけど……それ以外だと、すごろくくらいかなぁ」

「うん、良いねすごろく!それをやろうか!ソレが良い、うんそうしようか!」

「た、タダヒトが強引だよリョーくん」


 弟君が呟いた突破口に反応し、俺は無理矢理な路線変更を行った。

 正直、パラノイアじゃなかったら何でもよかったのだ。

 TRPGなんてやったら、きっとこの二人がキーパーとなって俺一人がプレイヤーになる。

 そうなれば、さんざん弄ばれた後でゲームオーバーにされてしまうだろう……。

 考えすぎなんかではない、実際前にやった時ボッコボコにやられてしまったからな。


 子供相手にムキになるつもりは無いが、キャラが死ぬたびに二人が精神攻撃をしてくるから正直やめたいんだよ。

 いつもゲームオーバーの後は精神が摩耗しきってるから、その後に面談なんて出来たものじゃない。


「まぁタダヒトがそこまで言うなら、すごろくにしてあげようかなぁ」

「おぉ、ありがとうリョー君!ボードはどこかな?先生が用意してあげようね」

「わぁい、タダヒトとゲームだぁ!」


 妹ちゃんは両手を上げて、俺と遊べること喜んでいる。

 弟君もやりたいゲームが出来ないのは不服そうだが、それでも楽しみな感じである。


 こう見ると、見た目相応で微笑ましいんだけどな。


「道具ならアッチのおもちゃ箱の中だよ。僕も一緒に用意するから手伝って」

「タダヒトとゲームっ!タダヒトとゲームっ!」


 二人はパタパタと部屋の隅にあった箱の方へ走って行き、中にあるすごろくの道具を取り出した。

 

 エレナさんの準備もまだ時間がかかるみたいだし、ゴールまではちゃんと遊べるかな。

 そう思いながら俺は立ち上がり、きゃあきゃあと笑いながら準備をする子供たちの方へ歩いて行った。


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