Emotion

とりたまご

プロローグ

「私の人生が小説だったら何もかも楽しめるんだろうね」

 彼女は部屋の窓から夜景を見ながらそう呟いた。

 昔からの付き合いである彼女は、どこか普通の人とは違っていて、時々、不思議なことを言う。

 「まるで今が楽しくないみたいじゃないか」

 「今が楽しいとかそういう次元の話じゃないの、だってそうでしょ?仮に人生が恋愛小説なら、今、私があなたに振られても最終的にくっつく運命にあるじゃない」

 また意味不明なことを言い出しだ。

 「それは恋愛小説なら、だろ。世界にはたくさんのジャンルの小説があるし『自分の人生が恋愛小説だ』なんて確信を持てる証拠なんてどこにもないだろ」

 「ほんと、あなたって夢がないよね。証拠なんていらないの。自分が恋愛小説だって思ったら、もう自分の人生は恋愛小説になるの。自分の人生が恋愛小説だって考えるだけで、必ず成功するって思えるし些細な事が幸せって感じられるようになる。他にもどんでん返しがあるミステリー小説なら、嫌な事があってもそれを上回る出来事が必ず起って、嫌な事なんてどうでもよくなる。そんな考えができる人生って、小説みたいな人生って、楽しくない?」

 いつもがまともじゃないだけに、今回だけはまともなことを言っているように感じられる。

 「初めてお前の意見に納得できるかもしれないよ、そう聞かされると楽しそうだ」

 「でしょでしょ!でもね、たった一つだけそんな人生を送るためには必要な事があるの、教えてほしい?」

 「嫌だって言ってもお前は話したいだろう、ほら、早く言えよ」

 「わかってんじゃん!それじゃあ特別に教えてあげます!それはね――」



 「本を読むこと」





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る