外伝 勇者と串刺し4

 命に貴賎は無い

 それを作るのは理性と言う名の価値観に過ぎない

 命にそれ程の重みは無い

 それを重くするのは理性と言う価値観に過ぎない

 そもそも命に価値なんて無い

 それをつけるのは理性と言う価値観に過ぎない


 否定するのであれば、本能の何処に命を憂う部分があるのか教えて欲しいものだ。人間の涙でさえも自分のために流すような代物だというのに、だからこそ私は涙を流し悲しむものを否定する。

 殺人を肯定するわけじゃない、ただ思う所詮人を殺すのは人と言う名の優れた理性だけだ。人間だけに許された同族殺しの因果に過ぎない。


 最初は一人だった。縫い付けられた男の前で、美樹を陵辱したのは、手から零れる血さえも彼女の精液に見えるほどに凄惨な陵辱だ。

 嫌がり暴れる彼女の頬を何度も叩き諦めるまで何度も何度も、彼女の心は砕かれていった。寧ろ男の悲鳴の方がひどかった、動くたびに皮膚が剥がれて、それで呻き声を上げ止めろやめろと何度も叫び続ける。

 次は二人、次は三人、男の悲鳴が男をさらに呼ぶ、殺してやるという衝動が紅蓮のような怒りを産む。

 彼女の我慢しようにもれる快楽を示す声が、どうしても耳に入って苦しめに飛び込んでくる。そして五人にもなると、既に呻き声のような声しか聞こえない。目から血を溢さんばかりに目を開いていた。


 許せないと、絶対に許せないと、彼女の姿を睨みつける。ふと気付いた男が彼に向けて歩き出す、においたくも無い彼女と男の性臭が、いやでも彼の鼻につく、快楽にだらしなく歪んだ男をみた。


 刹那彼は飛びかかろうと、するが縫い付けられた体から皮膚が剥がれて犬のように口をあけて息を荒らげる。

 

「ひひひひひひ、お前らが殺した弟の敵です」


 ばきんと指の骨が折られ、


「あ……、ずぃ、え、……あ、は」


 顔を何度も踏みつけられる、因果は巡るいやがおうにも巡る、踏みつけられた彼は額を割り、血を溢す。浩二のその態度に男は優越とした表情を見せる、殴りつけ蹴りつけそのたびに剥がれる皮膚に、だらしなく開いた口から呻き声がもれる。


 ひひひと独特の笑い声が癇に障るのに、彼は何も出来ないままに殴られ続けた。


***


 止めろ、お願いだから止めてくれ。

 浮ぶ視界に具現の地獄、幾ら救われようとも救われはしないその世界で、当たり前のように行なわれる話。彼の目の前で行なわれているのは、あくまで起こる現実。否定され、誰もが忌諱するような、当たり前の事実。

 彼女を陵辱する男達は、彼と言う存在快楽の一味にデモしているのだろう。未だに彼を生かし腰を振る、既にまともな思考が出来ないまでに、犯され続けた彼女はぼんやりと視点も定まらないままに、男を受け入れ艶やかな色をした声を漏らす。

 それは呻き声にも似た悲痛の叫びだ、もう無理だ、出来ないという諦めが彼女の思考を奪い体だけが、それに反応する。


 だがそんな行為にも飽きは来た、快楽が埋まれば次は、食欲か。


 何処に用意されていたのか分からないが、何人もの人間を切り落として言ったのであろう鋸が一人の男手に、どこか視点の定まらない男の口からはだらしなくよだれが零れている。乱交騒ぎの後の立食会の始まりである。


 では人間の味はそれ程いいものなのだろうか?

 誰もがそう思うだろう、筋張っているというものがいる。豚の様に美味しいというものが居る、なぁに間違いがなく後者だ。その辺の牛よりも栄養のあるものを喰らい、ある程度管理された栄養状態で生きていき、自由に放牧されて育つ人間が常識的な畜産の知識で不味いという証拠を見せない。

 その辺で放牧されている牛よりも下手をすれば、いい味でもするのだろう。


 人食いを律するのは、常識でありそれが滅びに繋がる禁断だからに過ぎない。人殺しを認定する国家が滅びるように、人食いもまた同じ、故に人はその事実に怯える。そして何よりそれが本能であるのだ、同族殺しを否定するのは、ひとえに猿でも分かるほど当たり前の事実。


 ゆっくりと、彼女の腕に鋸が添えられる。だがそれだけではない、頭に医療用の麻酔装置が点けられる、理由は明瞭。

 食欲と言う名の悪魔の所業だ、人は痛みで死ぬのだ。食物は新鮮なほうが美味しい、しかしまぁ笑える話である、他の生き物で行なっている所業が人にするだけでまぁ凄惨なこと凄惨なこと。


 ずちゅり、ずちゅりと、肉を摺る音。猿轡をかませて舌をかまないようにしているが、そこから漏れる声は悲鳴以外ではない。麻酔をかけてもなお、痛みが彼女を苦しめ、いやでも体から剥がれようとする腕に悲鳴を上げ続ける。


 先ほどまでの陵辱がまだましに思える。肉を断つ音が止むその代わりにゴリゴリと骨を削る音が聞こえ始める。途中何度も、刃が骨に止められ肉に絡まり、そのたびに力任せに男は、引き続けた。幾つも刃が欠けて、ようやく腕が一本切り落とされた。

 血が溢れるが、医療装置でどうにか生命保護をきちんと行なわれるが、殺して欲しい彼女は懇願する。


 傷口を強引に、熱した鉄の棒で無理矢理塞ぎ、げらげらと笑い声が響いた。


 その場で、ナイフで血抜きを行い当たり前の料理の手順を踏んでスライスする。後はしゃぶしゃぶの要領だ、中国では比較的ポピュラーであった人間が原材料の料理である、実際に歴史書の中にもそう言う話があるほどだ。

 だが料理を待つだけの人間じゃない、足に向かってそのまま噛み付く男も現れる始末だ。それは死体をついばむ烏のようであった、まだ生きているが意識があるままに自分が料理されるなんて、起こる事実の中でも想像し得ない。


「さて君もおなかがすいた頃だろう」


 ぎちんと歯車合う、砕けていた精神が一瞬して地獄に引き戻された。

 その場でもがくが皮膚が少しずつ剥がれていくだけで、彼はその場で呻き声のような悲鳴を上げる。しかし今から行なわれる、その行為に彼は悲鳴を上げるのだ、いやに決まっている、守りたくて成らなかった少女をお前は守れなかったと突きつけられる。そしてその証明が、目の前にあって、さらに刻み付けられる。


 口をあけられないなんてことは無い、あごを外されればいやでも口は開く。


「ほら、美味しそうだろう。多少におうがまぁそれは、隠し味だと思ってくれ」

「あ、ぐ、ええ、あう」


 はまらないあごを無理矢理上下させて咀嚼させる。吐こうと努力するが、今までの痛みで口自体がまともに動かないのだ、既に皮膚と肉の間から零れる血の量でさえ彼の意識を奪うには相当量である。

 飲み込むつもりは無いとでも言うように必死に口を閉ざすが、こんなこと日常茶飯事でやっているような男達が、無理矢理食わせる手法を知らないわけが無い。だが彼らあえてしないそれを、その代わりに次々と彼女の肉を放り込む。


 後は口を塞ぐだけだ、ついでに鼻を押さえて呼吸を遮断する。体が勝手に酸素を求めて、最適な行動をするのだ。

 酸素を求めて喉を動かす、それだけでゆっくりとだが確実に彼の喉に感じたくも無い感触が、喉を通る。


「そういえば、いただきますはどうしたのかな。子供でも出来るだろう、出来ないならお仕置きだよ」


 強引にまだ残っていた彼女の腕が口に突っ込まれ、男はその腕を彼の口に蹴りこんだ。

 全ての感情が、ぐちゃぐちゃに埋め込まれる。頭の処理能力を奪うほどの感情に、涙を溢しそうになるが、それより先に彼の意識は完全に断線した。


***


 いつも思う、自分はあの時何処で失敗したのかを。

 それは新開を手放したときだろうか? 違う、もっと別のレベルの話だ。彼は、護衛だが最初からまともな護衛ではなかった。それともあの子供を殺したときか? 違うそれも違う、あれは言いがかりに過ぎない。

 彼女を鈴剣から連れ去ったとき、それも違う、僕らは幸せだった。


 この犯罪都市に来たとき、それとも水島、何処だ何処で僕はどう間違った。縫いとめられたとき、僕の全ては終わった、救えなかった。


 今からでも彼女は救えるのだろうか、喋ることも力を振るうことも僕には出来やしない。のろいを呟く、のろいを呟く、地獄のようなのろいを積み重ねる、復讐してやる、絶対にそれだけは行なう 僕にはそれしか出来ることが無い。


 何処で失敗したんだ、明確な答えが出せない、彼女と僕はなぜこうして出会ったんだ。


 何もかも終わった、全てが終わった。


 だが分かっていることがある、結局僕の所為で彼女が、ああなったということだけは。


***


 口の異物感に吐き気を催して彼は眼を覚ました。

 まともな意識も無い状態で、殆ど無意識に彼女の腕を抜いて投げ捨てる。喋ることができない事さえできない、縫い付けられた体がまともに動くことはなかった。


「あ、ああああ、ああああああ」 


 呻き声のような声が、建物中を揺さぶるように響いた。

 既に昼頃なのだろう彼の目の前はやけに鮮明な明りに照らされている。その光が写すのだ、今の彼女の現状を、そして彼が辿る絶望の色を、美樹は生きていた。生きていただけだ、達磨のような体になり頬の肉は食われたのだろう白骨が見える。猿轡はそのままで、彼が倒れてからまた陵辱されたのであろう、酷い性臭が鼻につく。


 だが彼が気絶している間に、縫いつけられ糸が半分以上切れていた。それは多分彼が動いていた所為もあるだろう、もう止める思考もなく彼は、自分の皮膚をはぎながら美樹の前に行き猿轡を剥しあごと無理矢理繋げる。


「殺して」


 しかし既に時間は彼女を絶望させ、願望が死に染まるだけの時が経っていた。


「殺して」

「殺して」

「殺して」

「お願いだから早く殺して」


 目の前で体は食われ、何度も陵辱されてた。もう自分が絶望に染まるだけの理由はできている、涙が頬を伝いながら零れるが遅い、何もかもが二人にとっては遅かった。達磨のように手足の無い美樹を抱きしめ首を横に何度も振る。

 出来ない、出来る筈が無い、彼にとってそれは自分が行なう中で最上位の禁異だ。


「殺して、殺して、殺して」


 壊れたのだろう精神は、彼の心を壊していく。歯が砕ける、明滅する視界に涙が零れる。

 したくないそんな事はしたくない、だけどそれでは終りだ。彼女はどうせ死ぬのだ、もう一秒たりとも生きて居たくないと思っている、もう既に生きる目的が無いのだ。死ぬ事が目的になった時点で人は生きていけなくなる。

 そして体自体がその生命活動をゆっくりと停止していくのだ、決意するしかもうなかった。


 それが彼が彼女に出来る最後の愛情。


「分かったよ、分かったよ」


 伝う涙は一体何のためにあるのだろう。一体何のために。

 辺りを見回しても彼女を殺せるような道具は無い、ただ彼の腕に押し込められていた腕の骨が鋭利な跡を見せていた。一瞬力なく彼は、呻きを溢す、いつ間違ったとかこのことを呪い続ける。


 彼は生涯この出来事に後悔し続けるのだろう。


 邪魔になる肉に齧り付き飲み込む、もうそれぐらいしか彼女に対してしてあげる事が無いから。

 不恰好に肉がついた骨を彼は掲げる。


「僕は一生認めないこの出来事を、一生!! こんなふざけた結末一生認めて溜まるか!!」


 そして心臓に振り下ろす、中途半端に刺して彼女を苦しめるわけにもいかない。彼女にこんな感情を抱きたくもなかっただろう、彼女に対して明確な殺意を作らなくなるなんて、何もかもが砂上の城のように消え果ていく。

 全てが終わったように消えうせる、一つの音が一つの命を奪い、嗚咽が辺りに響く。


 最後に聞こえた、「ありがとう」と言う言葉に、彼の感情は止められなくなっていた。どこで間違ったかじゃない、全てが終わってしまった、今まで何年も積み重ねてきた世界が、悲鳴を上げながら終わっていった。

 だが、まだ始まらない。まだ彼の話は始まらない。ただ終わっただけの話だ。

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