外伝 勇者と串刺し3

 それは地獄だぞ、それはきっと夢見るような地獄だ。

 

 勇者の目の前で、魔王は引き攣るように笑った。

 

 何処がだ、俺は勇者だぞこの時代のならその役割を果たしているだけだ。

 兄さんと真人を足して二で割ったような化け物め、あの人の子供だけあって非常識極まりない。

 だがまぁ始めよう、お前が死なないとこの時代は始まらない。国はいつか終わる形だ、まぁ楽しめ。


 二人は銃口を向け合い兵器を起動させる。

 響く、空間の振動が他の兵器の干渉を一切させない。


 それに俺はその地獄が当たり前のことに思えてならないんだ。


 爆音がして二人が最初に見たのは、串刺しにされ中に浮んだ三十の死体。鉄筋が腹を貫き団子のように何人もの死体を作り上げた。

 地面を貫き彼らの周りに、鉄筋の墓標が轟音さめあらぬ大地に突き立てられた。


「お、乳繰り合ってると思ったが意外と早かったなお前」

「どっちの意味か詳しく聞きたい」

「両方に決まってんだろうが馬鹿かお前、そこの彼女さん言っておくが、顔を真っ赤にさせたり真っ青にさせたりしても、何も変わらないぞ」


 示威行為を含んでいるとはいえ、その光景は鮮烈だ。まだ意識のある人間の呻き声が響くが、新開はその声が鬱陶しいと思ったのか呻き声を上げる人間の顔を吹き飛ばした。一瞬爆音さえ止んだ静寂が包む、満足そうに笑みを浮かべる新開に二人の声さえ止んだ。

 それだけでは収まらない、女の方は、その光景に耐え切れずに胃の中のものを撒き散らかす。

 

「おや、耐性ないのかお前らって。死にたくないなら、殺さなければ生きていけない場所だからなここは、水島が幸せの国であったとしても。周りはただの塵の吹き溜まりだぞ、この世界で平穏を得るなら最低限俺ぐらいの力が無いとな。弱い奴は死んでいけ、強い奴も死んでいけ、全て食われて死んでしまえばいい」


 だが彼の一介の示威行為で、彼らに敵が現れることはなかった。この串刺しの意味を知っているものばかりだからだ、この串刺しとは警告だ。極限の敗北王と呼ばれた新開の最終勧告である。これ以上踏み込むならこの死体が増えるだけだと、彼は武器を納めると寛ぎ始める。

 これより踏み込むものは犯罪都市の人間ではいない、ただその串刺し風景の隙間から見える暴力は極限だった。


 子供がいた、母親を探して泣き叫ぶそんな子供の足が吹き飛んだ。痛みで泣き叫ぶ前に、長刀が子供頭蓋を貫き地面に突き刺さった。

 男がいた、娘を救うために男達に素手で立ち向かい頭を吹き飛ばされた。

 女がいた、その場で押し倒されて陵辱される。


「ひどい風景だなぁ、おいおいあれを見てみろよ。また死んだぞ」

「何で助けないんだ!!」

「そりゃ俺には関係ないし、あいつらが死のうが犯されようが所詮いつもの事だろう。俺の仕事は、お前らの護衛だけだ。何かお前、ここでお前の彼女がああなりたいとでも言うのか?」


 彼は口を塞いでしまう。浩二が守りたいのは、目の前の美樹だけであって他人ではない。

 新開は、そんな彼の表情を見て嬉しそうに笑う。


「だろう? いちいち地獄であって欲しい分けないもんな。この犯罪都市で、自分を考えない奴は死んでいくだけだ」

「けれど!! ここは私たちが生きていける場所に!!」

「馬鹿だなぁ、ここは作られた仮初の楽園に過ぎない。ここが作られて一年、不戦協定のための俺の守護の約束は切れている。名代や明けの花如きの力でこんなものが出来てたまるか、この崩壊は起きて当然のものだ。それでもあれらを助けて欲しいって言うなら、俺はお前らを見捨てて笑うぞ」


 彼らがここならと本当に思った場所はたったの数時間で滅びようとしていた。

 目の前には、彼らの望まない光景が広がる。それを拍手しながら観覧する新開に二人は、怒りを覚えるがそれで終りだ。少なくとも浩二は、彼に口出ししようとは思えなくなっていた。

 ここまでなら良かったのだ、本当にここまでなら彼らは、このまま納得しただろう。

 一人の子供が泣きながら救いを求めて、串刺しの境界を通り越して飛び越してきた。その瞬間まず腕が、吹き飛んだ、地面が爆散し破片が子供の体を穿つ。粉末のような砂さえ針のような弾丸になり子供の体を貫いた。


「おや、間違った」


 あっはっははははははは、照れ隠しなのだろうが、やっていい場面と悪い場面がある。これは当然悪い方だ、辺りの視線に居心地が悪くなったのだが、その視線を感じた瞬間新開は、不必要なほど感情を眼から消した。

 そしてあっけなく、子供は一センチの肉の塊に変貌したのだ。


「な、なにを、やっているんだ君は」

「とどめ、苦しむよりはいいだろう? 俺にしては珍しい慈悲だ、この範囲に来る奴は基本的にどんな人間でも俺は皆殺しにすると決意してるんだよ。子供だからなんて単語はこの場所には無いんだよ、お前らの目の前にいい例が要るだろう。この都市の子供は、基本的にこんなもんだ信用するだけ馬鹿らしい」


 だが彼の言葉を聴いてもなお、美樹は許せなかったのだろう新開の頬を叩いた。


「子供を殺しておいてなんて事を!!」

「旧世代の偽善者かあんたは、命に量も質もあるか。なら聞くが、俺が護衛しているのはお前らだけだ何でそれ以外の奴を信用しなくちゃならないんだ? 護衛対象がそんなくそなめた態度をとるなら、俺は別に構わないんだぞお前らがああなっても」


 銃を、領域の外にいる人間に向ける。何発もの銃弾が、誰とも知れない人間の体を吹き飛ばしていく。

 十歳の子供でこれなのだ、信用できるのは自分だけだと言うことをここではまざまざと見せ付けられる。彼は笑う、彼女が何も喋れないから、子供を殺してなんて蛆蝿にも勝る下劣さをのたまう偽善者の言葉、命に男も女も子供も老人もあるか、そんな事ほざく人間全てが、命の価値を平等には見えない偽善者の三枚舌だ。

 少なくとも新開は、そう信じているし、彼の出来る平等の扱い方だ。殺す奴の貴賎を問うことは一度たりともない。


「そう言う問題じゃない、未来があの子たちにはあるのに」


 彼の視線が段々と冷たくなっていていることに彼らはまだ気付かない。

 薄く作った笑みが、氷のように冷たくなっていくことにさえ気付かないのだろう。くつくつと笑う姿は、形容しがたい。それは未来の時代に作られた無価値の眼光、魔眼といっても差し支えの無い。


「あぁ、偽善者、偽善者、未来があるのはどの命も同じだ。長さ以外に差なんてありはしない、猿が猿のままの思考をして勝手に価値を決めるな」

「力があるのに助けないのは怠慢でしょう!! 何で助けないんですか!!」

「なら無力なのに救いを強要するお前も怠慢だろう。自分で何もしないんだ、俺は自分の職務を全うしている、お前は何もしていない、自分が出来ないことを他人に強要する時点でお前は怠慢どころか傲慢だ。俺の言うことが間違ってるなら教えて欲しいところだよ」


 彼女は静かになった、彼の言うことの方がまだ理にかなっていた。

 だがそれが不味かった、……彼女の価値がその瞬間なくなったのだ。彼がこの世で最も価値の無い人間だと認めた瞬間だ、彼が好きなのは自分の力で歩く人間だ、他人の力を借りて歩く人間を彼は好まない。

 ましてやそれを強要する人間など許せる部類の人間ではないのだ。


「あぁ、やはりこうだ、やっぱりこうだ。理解した、所詮お前はその程度だ」


 色が消えていく、彼の視界から彼女は線描写にしか見えていない。色は消えた、一瞬の駆動音とともに串刺しの風景は消えうせた。

 銃を納めると彼は歩き出した、そこに護衛なんてものの価値は無い。


「仕舞いだ馬鹿らしい、こんな価値も無い奴を依頼とはいえ救ってられるか」

「まて、ここで放置されたら僕らは生きていけない」

「はっ」


 失笑する、彼はそこで眼を見た自分の存在価値全てを奈落に蹴落とすような自分の価値を断定する瞳。


「死ね、お前の彼女の言う命の価値があるなら救ってもらえるさ。出来ないことを強要するようなら、ここで全てを救って見せろよ」


 色が消えた、その瞬間彼の視界に二人が入ることはなくなる。

 彼らは見捨てられたのだこの瞬間、よりにも寄ってこの場所で。紛争で苦しむ人々をかわいそうと言うテレビの前で言うような偽善を吐く、それに彼は胸焼けが起こる。そしてその度を越した瞬間彼の視界に生きも賭して彼らは写らなくなった、いないものを護衛する必要は無いそう思った彼は水島から姿を消した。


***


 彼が姿を消してそれからは早かった。

 十分ほどの静寂がこの区画を包む、多分新開を警戒しての事だろう。だがそれから数分も経てば終り、また怒号が飛び交い始めた。当然だ新開が消えた以上、彼らが躊躇いをおぼえる理由もあるはずも無い。浩二は、焦りながらも冷静に物事を動かそうと必死に考える。

 手元にある武器は、包丁ぐらいだ。銃声が響く中でこの武器は心もとないに決まっている。彼はその十分で許される限りの致死性の罠を張った、そして火の点けづらい建物に入ると息を彼女と一緒に潜める。

 ここで彼がいないことの恐怖を時間するのだ、呼吸が怖い、歩くことが恐ろしい、なぜ自分はこんな所に居るのだろうと、そして何よりここは自分達が望んだ楽園ではないのか、浩二は一人歯噛みする。

 興味本位で来ていい場所ではなかったのだここは。


「僕は人を殺すと思うここで、一生後悔すると思う。美樹、君は許してくれるかい?」

「はい、貴方だけは」


 彼らはそうやって愛情を認識しあう。そんな時罠にかかり悲鳴を上げる男の声、そこには女の声も含まれていた。

 来たと、一瞬にして浩二は空気を尖らせ、それと同時に彼女の口をふさいだ。彼とて修羅場をくぐっていないわけではない、何しろ近畿二十七区の長の娘に手を出し追っ手を差し向けられていたのだ。

 それを払うのに殺人がなかったわけが無いのだ、五感のうち視覚を消し去り聴覚と嗅覚を集中させる。


 たかが包丁、だがここは犯罪都市しかも水島でなければ、ちんけな悪党でさえ何でも切り裂けるナイフを持つ場所だ。防刃の装備が無いわけが無い、彼が狙うのはそういった装備がされていないであろう場所だけ、それ以外で確実に命を奪わなくてはならない。

 スイッチが切り替わったようにつめたい眼をする、地面の砂を握り目くらましの代わりを用意した。肺から空気が流れるのが止まったように静かになる、

 足音が段々と近付いてくる、誰がくるかわからない。だがここで死ぬことだけは彼には許されていない、彼女が目の前に居るのだ、新開がいっていた情報だけでここで女性がどうなるかは明白、確実に殺すと彼は断言する。

 夜の暗がりに目は不要、だが彼は足音が近付いてくることを確認し目を見開いた。目を閉じ暗黒に慣れようというためだけに行なったに過ぎない、そして足音が建物の中に入ってくる瞬間、砂を投げつけそのまま自分の体をその影に、飛び掛り首に向けて突き刺しそのまま左右に包丁を動かして喉に大穴を空けた。


 それだけで呼吸は不能になる、これで一撃で殺せなかったとはいえ喋ることは許されない。だが他の人間にそれを認知される前に、出入り口から敵を引き摺りその場で強引に服を脱がして心臓に包丁を突き刺し止めを刺した。


 嘔吐感が、体に押し寄せるがその音が無駄、ひたすらに息を潜めて死体から武器をあさる。


 そこで彼は理解した、抑える声を必死に抑える、叫びたくて、この場所で喚き散したいほどに、今自分の行なったことは彼にとって嫌悪するべきことだったのだ。

 音を出すわけにはいかない、必死に必死に声を抑える。


「ひひひひひひひひひひひひ」


 だが一人の声がそれを許さなかった。


「ひひひひひひ、ひゃああ、くあははははあははははははっはははははははははははは」


 誰もがその声に気付いただろう、だが気付いたとてもう遅い。その声は、美樹を捕まえ美味しそうに彼女の指を舐めながら。彼の殺した死体を見る、それが最高の見世物だというように、美樹の指を噛み切り美味しそうに咀嚼して、彼は嗤った。

 激痛の余り悲鳴さえ上げることなく、彼女はだらしなく口を開いたままだ。その光景を見てもなお彼は、何が起きたか理解できなかった。


「ひひひひひひひひひひひひひひ、面白い見世物ありがとうございますです。俺は、笑い袋と申しましたことがあります、先ほどの腐れ風景楽しくご拝見させていただき申した。見物のお菓子も大変美味しく、素晴らしい限りでござますです。

 しぃかしねすねぇ、それは私の弟でございました。まだ六歳程度の、可愛い弟でした。ひひひひひ、先ほどの言葉が思い浮かぶようです、子供を殺すなですか。

 ひひひひひひひひ、流石偽善者。喉を咲いて心臓を突き刺す、外道のような光景です」


 それは怒りだったのかどうなのか、未だに彼にはわからない。だがもう理解しても遅い、彼は既に地面に縫いとめられた後だった。

 この言葉は比喩ではない、ミシンを破壊者によって弄繰り回した結果できたものだ。そのミシンが彼を地面縫いとめたのだ、動かすたびに皮膚がちぎれる音がする、涙を流しながら男は引き攣るようにまた笑い。


「ですから私達が次は楽しもうと思います。いいでしょう別に、下劣な人殺しの女に何をしようと、貴方の言う未来のある子供を殺した責任ですから孕んで頂きましょう。私の弟の代わりに」


 下劣な表情を浮かべて美樹の服を力任せに、引き剥がした。

 悲鳴を上げる、だがそれさえ無意味だろう何しろ彼女は先ほど殺しを賛同したばかりだ。そして何より、自分の言った言葉の責任を取らされているだけに過ぎない。

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