新たな牙
全能回線より世界中に一つの声が響く。それは王国の王である三人の最強、預言者の命により仲間さえ殺し世界を昔に戻そうとする思想者。
世界を元に戻そうとする第二の最悪の軍勢。
勇者が甦った
その声とともに、世界に緊張が走った。
多分魔王の災害を知らない日本以外の人間には分からない事だろうが、それでもあの三王がわざわざ言う事だ勇者と言うのはそれだけ価値のある存在なのだろう。
だが奴の武器 燕 は消え去った
宣言する、勇者を殺せ、敗北勇者、王冠新開を殺せ
燕、今現状の世界でさえ名を殆ど聞かなくなった一番最初の力場兵器。完全にそれを操るためだけに考案されたが、使い手が悪ければ死亡事故さえ起こしてしまう粗悪品の
はずであった。だが使いこなせば、いやその使い手がその武器を失ったとなれば殺すのは容易い。
賞金は富岳一から二十八番までの地域の統率権、オーバーロード EE の進呈
そして破格の報酬であった。アイユーブとまではいかなくても富岳(富士山が見える地域の事)は経済特区の一つである。その統率権と、なによりオーバーロード、力場兵
器と同じく偉業の力を持つもう一つの武器、八機のうちの封印されたもう一つの武器である。
王国は勇者にそれだけの価値があると断定していた。
生死は問わない、いや死しか受け取らない、王冠新開を殺せ!!
力に浮かされた人間達は目先の糧のために勇者を狙い始める。だがしかしながら、笑える話である、彼を今から殺そうとするのは勇者に助けてもらえると信じ信仰してきた
人間ばかりといっていい。
だから、新開は今の時代が大好きなのだ。こんな人間らしい人間の感情を見ることが出来る今の常識が。
七章 新たな牙
場所はいまだ凄惨たる臓花、彼の行った証明は旧世界の全能回線によりつげなられた。
くつくつと狼王は笑い続けるが、周りの空気は別物だった。そこは世界の片隅に存在する悪夢の群生、勇者は無表情のまま回線の映像をのぞいた。彼の空気がたとえようも
ないほど腐った波紋をわたらせる、誰一人彼の空気の前に動くものはなかった。
「下僕、やはり懐かしいか。かつての仲間は」
「当然ですね。EEの使い道も知らないくせに、簡単に人にくれてやるあたりなんかさすがですよ」
注文していた、濁り酒を一気に飲み干すと欲望にゆがんだ人間が彼の威圧を受けて小さく写る。
といっても彼が行ったのはただゆっくりと武器を人間に向けるというただそれだけの行為だ。だが衝撃波を伴いながら人間をなぎ払うには有り余る武器の前には沈黙するしかない。
速度という凶器はそのまま彼らを怯えさせる。
簡単に手を出せる相手ではもともとなかった。アルコールで体が壊れた人間だが、この集落に昔からいる人間たちは知っているし理解している事がある。あそこにいる二人はもともと彼らを上回る戦力を持っている。
「下僕、さっさと終わらせろ。我はマスターの言い訳を聞いた、そして次はお前の厄介ごとだ。立腹であるぞ、これ以上我に迷惑をかけるのであれば……分かっているな」
「了解です。了解です。だが、こいつらはどうやらそれさえ出来ないようですよ。魅力的ですからね、まったく見苦しい、欲望に動く人間は好きだがその後の利益を求めるあたりがえげつなく気が狂っている」
王冠の男は、今の状況を、現状をつかさどる人間が好きでならない。
それ以外の人間なんてくたばり死んで這いずってろ、それは彼の王のとて変わらない、だが彼ら本当に気に入らないのは目先の利益の事ではない。その為にリスクを度変えしする事の出来ない、その部分が許せないのだ。
「確かにそうであるな。人間らしいがこの世にいていい人間の類じゃないのは必定」
「冗談でしょう主。たぶん王国の常識が正しいならこの世にいていい類の人間じゃないのは、こっちですよ」
命が狙われているというのにのんきなものだ。
まぁ、実際この程度というしかない状況で平然とする以外の手段というものも珍しいのだが。
「そんな事はどうでもいいのであるが、それよりもだやらなくてはならない事があるだろう。マスター、裏切った代償だあれを用意しろ」
「っ!! 貴様、また俺から武装をひったくるのか」
だが彼女の圧力が否定を許さない。今生きていられるのは誰のおかげだといっている、殺すだけならこの程度の集落容赦なく彼女はつぶせるのだ、血塗れの毒婦とまで言われた少女、その力を最もよく知るのがこの男である。
殺すだけならどれほどたやすいか、それを会えてせずに、集落のおきてを破った男にかけてやっている唯一の生存理由じひである。
「渡せ、あるだろう天才を滅ぼした男の持っていた武装が、早く我に進呈しろ」
「くれてやる通りがあるのか」
「違うだろうハゲ、それ以外に選択肢をやらんといっているんだよ主は。何かそこで頭を飛ばして死ぬか?」
慈悲があるのはあくまで彼の主だけだ、彼に慈悲などない。集落のおきては簡単だ、仲間を裏切らないそれを怠ったと言うのは、この世界においてごみとさえいえる所業。だが人間である以上その程度のゴミは、はいて捨てるほどいるのだが。
それを行ったのが集落の長ギルドマスターであるのが問題なのである。守る側が売った、殺されてしかるべきだ。
突き出された、安っぽいナイフは確実にマスターを殺すのだろう。空気が一度死ぬ。
コレがもうひとつの掟、同じ集落の物は守りあわなくてはならない。だが、裏切り者の制裁に対して口出しできるものはいない。
「どうするここで死ぬのは掟を破ってまで我を殺そうとした貴様の判断ではここで武器を渡さぬなど愚策中の愚策だろう?」
さまざまな人間を見てきた男が思うのは恐怖だけだ。視線をそらす事をさせない銀髪の少女、本当であれば彼の娘程度の年齢のはずなのに、その少女の視線と圧力から逃げる事は出来ない。
二年ほど彼女に仕事を提供してきてなお彼は彼女が恐ろしいと思った。停止するように呼吸はだんだんと、荒くなり息を呑む音が、それさえまともに飲み込めたか怪しい。
ニヤニヤと小物を証明するような笑みを勇者はつくりながら状況を見続ける。
「選択肢は最初からないって事か、あの兵装は使いこなせる代物じゃないぞ。峰ヶ島ブランドの最高傑作、お前なんかに使いこなせる代物じゃ」
「戯け、ゴミが我を推定で図るな。お前の思考は所詮推定でしかない、それにお前は当にその仮定をはずしているであろう。あの程度の集団で我を殺そうというのはお前の限界に過ぎん」
言い返せる言葉ではないだろう。
怒りを抑えるとマスターはただのナイフをさしだす、殺虫剤と呼ばれた武器である。力場兵器を無効化させるだけの力を持つがそれはナイフに限り、投げて使う事も難しいつくりをした力場兵器に対する唯一の対抗武装であるが、その使い勝手の悪さは類を見ない。銃と戦うには不利、力場兵器と闘うにしてもやはり圧倒的に不利なのだ、ナイフ以外に力場を無効化させることはないつまりナイフだけをはずし圧殺することだって出来る。
力場に対抗するために作られた侵食力場でさえ無効化するが、やはりナイフだけなのだ。
「それって俺がお前にやった武器じゃねぇかハゲ、まだ使い手見つけられなかったのか?」
「ふざけんなあんな武器を使いこなせる人間がこの世にいるわけがないだろうが」
「主なら余裕だろう、やっぱりお前人の見る目ないな。では行きましょう主、どうせこいつらに我らを攻撃する度胸なんてありはしません。極限の敗北王と呼ばれた時代でさえ、何も出来なかったやつらですから。どんな欲望を持っても折られた牙しか持たない獣に価値なんてないです、なにしろ12程度の餓鬼に怯えてた人間ですよそいつらは」
いまさら欲望如きで動くやつらじゃないと、遠まわしに言っていた。
牙を失った獣は勝手にのたれ死ぬが定めなのだから当然である。感情に怒りはあっても彼らは動けない、黒の奥に輝く金と、黒の中にゆがむ屁泥、二人の動けば殺すと証明するその眼光に彼らは何も出来ないだけなのだ。
常識が違うのはそれだけで、根底から人間としての性質が変わる。
今の日本人が戦争を許せないように、殺人が許せないように、新開や狼王は自分の意思を持たない牙の抜かれたような獣は、ただの異常者にしか見えない。
「まぁいい、無様を広げるならここで消すだけの話だ。っと忘れていたなマスターよ、今度我は会社を立ち上げる偽言人材派遣会社だ。用事があるなら来い」
名刺を一枚取り出すと彼女は、マスターの前のカウンタに投げつけた。
そこには偽言人材派遣 社長 偽言朝木 後は簡単な住所と連絡先が記入されていた。そこには最悪の苗字が刻まれていた、狼王の真の苗字であるが、こういうときのみこの世界の人間は正式な名前を使う。王冠新開が川守であるように、人はそれを真名と呼ぶ。
「最悪の厄介事、よりにもよって最悪の地獄か」
「マスター、よりによってその苗字ですか。いやいいですけどね」
二人は引きつった表情のまま顔を固定させる。
「何を言う、血脈など知った事ではない。今の私の名を忘れるな王冠、お前を担うべき王がたかが血脈に流れるものであるはずがなかろう」
すべてを切り裂く風を混じらせ少女は大輪を咲かせた。
彼女の見せる笑いの中で最も年相応でありながら使いどころを一切間違った笑み。
だがこの世界のもっともまともな場所でしか見えない最高の笑顔だ。
「了解していますよ主、流れる血なんて生きるための潤滑液でしかありませんから。最後に諸君、わが企業はどんな依頼でも受け付ける、これから経済戦争の始まりだ。こちらにつくか、あちらにつくかよく考えろ、ない頭を絞ってな」
主とは真逆の表情だ。歪むだけ歪んだ、最高の笑み、
「この世界にもう勇者はいない。サラリーマンがいるだけだ、ではわが会社のご利用をお待ちしております」
この世で最も信用ならない企業がここに誕生した。
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