集落の憩い 杭打ち物語
「おい、冗談だろう。タイプエッジが壊れただと一日大騒ぎしてあいつに何が起きた」
「いやもうなんというかあれは……」
「了解した、勝鬨が上がったというだけの話だ。アイユーブに伝達しろ、予言は正解した、勇者を殺せやつに最強の剣はなし」
剣王がゆっくりと彼の議席から立ち上がる。この中において最も力と言う点では優れた男は、勇者を殺すためにあらゆる手管を考え始めた。
魔術王は子飼いの兵士を動かし始め。
賢者は情報を集め始める。
各々が得意とする手法を次々と使用する。強さにおいて力場兵器を持たない男など殺すことは容易いはずだが、魔王殺しの英雄は、魔王より強いのだ。
彼らにとって魔王と言う恐怖以上の恐怖になるのだ、この世界において勇者とは魔王以上の災厄でしかない。
功績を残した英雄はあとは邪魔になれば死する事が定め、ローランのように、アーサーのように、シクルドのように、なしたものはその結果を払う必要があるのだ。だがもっともだ、この狂った時代の勇者は、この狂った時代を守るために生まれてきたのだ。
なすべきことのあるものに障害とは試練にしかならない。
それは彼を次の段階に上げるため手の一つの手段にしかならない。彼らは思い出す体を震わせながら思い出すのだ、真の恐怖の意味を、真の価値の意味を、王冠を被る王とともに彼は歩みだす。
彼らは知らない、開門派閥と呼ばれる事になる彼らは知らない。
世界はどんな形でも変化してこそ世界であると。
「主、最初に言いたいのですが」
ふと彼が問いかけた。
主のいざないによって迷子から解放された勇者は、後楽園を無残に造詣破壊を行った後にできたひとつの集落につれてこられた。これが彼の最初の住処であり、勢力勇者発祥の地である集落ギルド凄惨たる臓花。
「うむ、どうした僕」
「あなたにはここの空気は似合わない、見てください私同様のゴミと、薬漬けのゴミですよ!! あぁ見苦しい」
「……なんというか僕。おぬしほぼ二時間前と口調がまったく違うな」
突っ込むべきところはそこであるようだ。
だが彼のいうとおりここは屑溜めだ。第一から第三までの進化者たちが集まり弱肉強食を歌う世界の中でさえ、さらにその法則が色濃く移る場所である。それはまさに西部劇、荒くれたちが、美酒に狂い力におぼれる場所だ。
ならこの後の展開は予想がつくだろう。テキサスの酒場に来た、一人のガンマン、ミルクを渡す荒くれに飲むガンマン、決闘の始まりだ。
「と言うかここは、我の巣だぞ」
だがそうはならない。ここにいる人間はその姿を見た瞬間から、凍りついたように動かなくなる。
勇者とバードリ、この集落からでた最強の名前でありこの世の中で最も性質の悪い厄介事、この世界最大の力である王国に命を狙われた勇者。そしてアイユーブの支配者に命を狙われ始めたバードリ、日本どころか世界有数の銃罪人と認定されてしまった二人である。
実際今回の依頼は彼女を屠るために行われたセレモニーのようなものだ。
誰が薔薇十字軍の精鋭たる十字軍を使って彼女を殺せないと思うか、だがそれも納得かと彼は思ってしまう。勇者が隣にいた、あの存在ならたかが十字軍。
「久しぶりだ諸君、裏切り者ども、王冠新開が会ってきたぞ」
日本勢力中最大の忌み名がそこにいた。
この世界を混沌に落とす破壊者と言われ、最大の悪夢魔王を殺した存在、彼らが裏切り殺したはずの人類最強。
「気にするな、別に皆殺しにしたりはしない。主の命令があれば別だが、お前らに恨みなんて抱いた日はないぞ俺は」
「意外だな僕」
「何を言うんですか主、こいつらはこの時代の象徴ですよ。こんな自分の力を信用しながら力に這い蹲るなんて最高じゃないですか」
はぁと、ため息を吐くバードリ。ふははははといつぞやの笑いを見せながら、大仰に体を振り回す。
彼と彼女におびえる男たちから酒を掻っ攫い酒を飲み始める勇者。そこでいつも震えている手が、酔うことによって収まっていく。
普通の人間ならこの瞬間に、彼を甘く見るだろう。
だがここは彼の生まれ故郷、勇者を作り上げた集落だ。ここにいる人間たちには、彼がどういうものかがわかっている。いや正しく言うべきだろう、彼らは力場兵器が恐ろしいのだ。
転換期以前に核を超越した武装は、結局のところこの力場兵器しかなかった。限定力場武装と呼ばれる代物もあるにはあるが、力場兵器と比べればそれは地に落ちるゴミとなる。それを持つだけで人間から人は超越できる、その兵器の質にもよるが量子コンピューターレベルであれば事実上星でさえ消滅可能な代物なのだから。
もっとも力場兵器はそれだけの力はないが、軍程度ならなぎ払う程度の力は備えている。その存在の頂点が勇者である、誰だって恐ろしい人間を微塵に変えてしまう最強なのだ。
誰だって死にたくない、あぁ人間の屈辱窮まれり。
勇者はそんな人間の汚点が死ぬほど好きだ。死にたくないから今時分は弱者を気取る、見れば見るほど彼は嬉しいと思ってしまう。
興奮が彼の懐から武器を取り出させるが、
「やめよ下僕、お前の愛情表現は少しばかり血なまぐさい。忘れるな、こいつらが裏切ってもここはまだ我の巣だ、お前の感情で動くな」
彼の暴走を主が許すことはない。
「Д(ダー)」
「ロシア語の回答をしろといった記憶はないが、日本語の回答をしろといった記憶もなのであるが」
「いえいえ主、あなたの言葉が絶対なのです。主従の証に足でもなめましょうか」
一瞬で詰まった空気を彼は、笑いひとつで流しながら奥のカウンター席に彼女を連れて歩き出す。
「いらん、私にそんな趣味は……あるのか?」
「聞かないでください。けど久方ぶりの故郷、昔と変わらずゴミばかりで嬉しい限りですよ」
周りは彼のあの狂気に、怯むが彼はその空気さえ楽しいのか鼻歌を鳴らす。昔からの彼の所定の席だが、埃をかぶっている半年や一年でつくような埃の量じゃない。
「親父、これはどういうことだお前。椅子ぐらい綺麗に拭いてろよ、サービス業勘違いしてねお前?」
一応断っておくが新開である。
主以外にはかなりこいつの性格は、最悪すぎた。禿げた店主が顔を赤くさせて彼をにらみつける。
「そこはこの世界ののろいの場所のひとつだぞ。そこを拭けば勇者の仲間として殺される、店主を攻める出ない僕、お前の大好きなこの世界の人間の一人だ」
「ですね、拭くものぐらい渡せハゲ。お前の輝く頭ならひらめきそうなもんだろう」
「黙れ餓鬼、三年ぶりに顔を見せたら憎まれ口ばかり大体前から言ってるだろう貴様、この頭はスキンヘッドと言う髪型だ!!」
それを人ははげというのだが、あくまでスキンヘッドらしい。
「その辺で話をやめろ二人」
いきなり空気は切迫に緊迫、だが話はようやく始まる。
「でだ、マスター。言い訳をとりあえず聞こうとおもうのであるが」
いそいそとマスターに渡された雑巾で丁寧に、いすを拭く新開を尻目に。あまり見せない真剣な表情で彼女は、この集落の長に問う。
今回の件釈明があるなら聞いてやると。
「裏切った、いやお前を売ったと言うのが正しい。お前は本当に仕事熱心すぎたんだよ、お前の仕事の八割はアイユーブの支配を破壊するものばかりだった、ワラキア公が出てこないほうがおかしいとお前は思わなかったのか。十字軍の中でお前は、すでにブラックリストのナンバーワンだよかったな!!」
「で、売ったと。勇者を生んだ集落でもさすがに、薔薇十字にはかなわぬか、やれやれだ我は立腹であるが、許してやろう。面白いものが下僕になった」
「えー、主やっちまいましょう。主を売るなんてゴミとりあえず一回死なないと自分のおろかさがわかりませんよ。人間一回や二回死んでも復活できますし」
「その命の単位我は始めて聞いたぞ。大体お前の武器は滅びただろう、あの武器でお前がここを生き残れる可能性なんて」
その一言で集落の空気が重くなる。力場兵器がもう彼の手元にないことを彼らは知らなかった、だが今なら勇者を殺すことさえ可能であろう事を。
しかし彼が大好きな人間たちは、自分が優位であるなら簡単に牙をむくような存在だ。誰もがその殺気を究極まで彼に打ち込む。
「主簡単にばらしたらこいつらのおびえる顔が見れないじゃないですか。さて塵達、倉敷の町が壊れたのは知っているだろう。あれは俺の武器が壊れた証明だ、力場崩壊を起こした。大体そろそろその証明がくるぞ」
「ふむ、我はお前の正確をまだ理解しきれていないようだがこれだけは確実にいえるな。この常識を守る勇者らしいお前は、存分に有害な空気でも垂れ流しておれば良いであろう」
少なくとも、この集落はその名の通りの花を咲かせる。
***
この世界の異常者の一人を紹介しよう。
彼女は父親のために、体を売ってある薬を買っていた。通常の人間、性格には第三種進化種と呼ばれる何の能力もない人間が、力の世界で生きていくには手段を選んでいる余裕はない。
だがその薬をもつ存在は、アイユーブの支配者薔薇十字軍。金で彼らは動かない、少女の屈服と言う感情を金銭に薬を用意した。
当然のことだが父親はそのことを知らない。いや知っていて彼は無視した、そうしなければ娘の努力に答えることができないことを理解しているから。
知らない振りをすることが父親の感情だった。
その甲斐あって彼はその集落でも上位の冒険者となっていた。
そしていつものように彼女は男女問わずにもてあそばれて薬を手に入れる。それでも幸せだったのだろう、彼女にとって苦痛を我慢すればみんなが笑ってくれると言う、救いがあったのだ。
いつものように彼女は薬を届けに良く。
いつものように彼女は
いつものように
いつもの
いつ
い
杭を打つ音が響く、カーンと、何度も何度もカーンと音が響く。
カーン、
「ぃぃぎぎぎぎぃいぃぃぃぎぃぃいいぃぃぃぃぃぃぃぃ」
地獄が彼女の目の前にあった。
集落の名前は明けの花、地獄だった、一人一人が楽しそうに一人の男に殺されていた。
それは彼女を嬲った男の一人である。
急所を地名敵にまではずして生きることを彼は強要しつづける。苦痛ばかりが、声とも取れない悲鳴を放つ死体が次々と積み上げられていく。
最初は手から、舌を噛み切らないように猿轡までして用意のいいことだ。吸血鬼を殺す白木の杭が、まずは手のひらに、三度にわたって打ち込まれる。そのたびに地獄を思わせる悲鳴が聞こえる。
そこにいつもなんて優しさは無かった。
だって目の前にいるのは、彼女の父親だった。いつものように俺はお前の為なら頑張れるといいつづけた父親だった。
両手足が食いに貫かれて彼女は始めて悲鳴を上げながら父親に近づいていく。
それからが本当の地獄だった。
「おや、いつもの売女じゃありませんか。どうしたのです、ここで私に抱かれたいのですか」
彼女は父親のまでその言葉を告げられたことに絶望をこぼすが、左右に首をぶんぶんと振る。
「おとうさんを、お父さんを殺さないで!!」
「黙りなさい売女、治安維持のために集落なんてもの入らないのですよ。さっさと邪魔は排除したほうが良いでしょう、起こすかもしれない事件を未然に防ぐのが治安維持軍の勤めですから」
この男の言う治安維持とは、犯罪を起こす可能性のある人間の一斉掃除。何もしていないものを可能性というだけで皆殺しにするだけのものである。
だがこの治安維持はこの世界では当たり前のことだ、王国は安定のためなら手段を選ばない。今もなお勇者が戻ってきてくれと叫ぶ民衆の声があるのはここである。
「やめて、やめてぇ、やめてよぉ」
「ふむ、そういえばあなたも同じようなものですよねぇ」
男の名前を串刺し公ワラキア、勇者の選んだマイスターの一人。この世界の中でも最高レベルの健常者である。
彼女はただ父親を救おうと頭を下げるだけだ、逃げろと叫び続ける父親の声は、猿轡と言う名の拘束具によって無駄に消えていく。
「大体異常者の癖に王国認定の健常者ぶるところが気が狂っている。あんな化け物と同じ人間だと思いたくない」
あぁ嫌だ嫌だ、心底気持ち悪そうに二人の家族愛に震えを抱く。
土まみれになった彼女の紙を引っ張りながら父親の前に連れて行く。
「こんな化け物を生んだ犯罪者予備軍にはただ死んでもらうだけじゃ申し訳がつきませんからね」
「ころさないで、おとうさんを」
彼女の腹を髪を持ったまま蹴りつけ、ぶちぶちと長かった髪が男の手の中に残る。
そこに一本のおもちゃの様な切ることもできない剣を突きつけた。
内圧縮力場兵器 BT-012 川蝉
内圧縮と言うのは、普通の圧縮系の力場である。外圧縮と呼ばれるもうひとつの圧縮技法は転換期に完成された、もうひとつの圧縮体系である。だがこの圧縮力場の本当の恐怖はそこにはない。
インプロージョンと呼ばれる技術を知っている人間は結構多いと思われる。ファットマンと呼ばれる長崎に落とされた原爆に使われた方式だ、プルトニウムを球形に配置し、その外側に並べた火薬を同時に爆発させて位相の揃った衝撃波を与え、プルトニウムを均等に圧縮高密度化させることにより臨海に達する方式だ。
簡単言うなら、力場兵器にはそれがたやすい。しかも己の意思で威力を制限範囲を限定する事だって可能だ。加えよう、さらには放射能だけ限定で操ることさえも可能なのである。その増幅まで力場兵器は行えるのだ。
だからこそワラキア公は勇者よりこの武器を授かったのだ。
だが彼がここで行うのは核爆発よりも下劣だ。100Gyの放射線が彼女を襲う。
それが地獄の始まりだった。もう誰もその地獄を救うことはできやしない、3Gy以上で脱毛などの症状が起きる。すでに彼女の頭の髪は抜け落ち始めていた、わけのわからないうちに彼女は被曝する。
水晶体が異常な細胞分裂を起こして、一瞬のうちに彼女の目は白内障へと変わっていく。もう失明した。
体内からあぶくが溢れ、彼女の体には水泡ができ始める。当たり前の用の赤痢をこぼしあたりに悪臭がち込めるがそんなのどうでも良いほどに彼女は終わっていく。
「むぅうううううううううう」
娘を救おうと叫ぶ父親。異常者らしい光景だ。
反吐を撒き散らし、穴と言う穴ら汁をこぼす。救われない、ここまで一生懸命彼を救った少女はこうやって殺されていく。
父親に似ずに綺麗だった顔はいまやドロドロのヨーグルトのようだ。解けた皮膚から頭蓋骨が見えている。
すでに死んだ少女はここで地獄をやめられる。彼女を殺しつくした、放射能は一瞬にして大気言外に弾き飛ばされすでに地球の外に吹き飛んだのであろう。
だがその痕跡はここにある。髪は無くなり顔中が泡立ち溶けた顔、男のためにと一生懸命に生きた少女の末路であった。
「売女らしい死に様です。さて次はあなたの番です、気にしないでください同じようには殺しませんよ」
これが勇者の望む世界である。
誰一人救われない、本当に変貌だけをきたす屑だけの集まり。王国と呼ばれたこの世界の中心さえこれなのだ、異常者が健常者になるまでそれは永遠に終わらないのだろう。
結局男は杭を二十本打たれた後絶命した。
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