負け犬勇者様
玄米茶
序章 敗北勇者
高度に発達した科学は魔法と変わらない。
昔誰かがそんなことを言っていた、それは事実だった、ある事件により世界は奇しくも魔法の世界で起きそうな地獄をもって一度経済の破綻を迎えた。
かつて誰もが一度は想像した、未来形態は簡単に終わった。
人というのは環境によってどうとでも適応するのは、まぁ当たり前の話といえば当たり前の話、歴史的退行を果たしたというだけのこの世界は、それは混沌とした世界だ。戦後の日本、敗者となって嬲られる者が存在し、勝者となって嬲る者が存在する。
世界中がヨハネブルスクのようなものに、なったといえばいいのだろうか?
誰もが想像する、強者と弱者が完全に別れてしまったのだ。それ以来、日本という形態をした、全くべつものに変貌した。
常識は逆転し非常識に変わり
非常識は逆転し常識に変わる
誰一人まともでは、生きていく事の出来ない常識の変貌に、狂気が生まれ泥の沼となる。だが人間なんて簡単に変わるのだ、環境と常識を与えてその中で育ててやればいやでも。
だから弱者は血の涙を流し悲劇の慟哭を挙げ死に絶える。
だから強者は血の雨を浴び勝利の咆哮を挙げ死に絶える。
誰がこんな世界にしたと叫ぶものがいる、こんな世界にしてくれて感謝すると喜ぶ物がいる。つまりこんな世界で、人はいつまでも人のままだったというだけだ。
空の転換期と呼ばれる事件、人はまた翼を失い地面に伏せる。
しとしとと降っていた、雨がざぁざぁと啼き始め、びゅぅびゅぅと世界を回す。たんと、弾かれた足音に、水はぱしゃんと音を奏でた。
はぁはぁと言う息は、ぜぇぜぇと掠れた音に変わる。
漆黒に星の光と月の光を与えて、世界はうっすらと実像をあらわしながら。雨がそれを浸食し落雷が世界に光を再度与え一瞬で消え去る。
雷鳴とどろく中、それに負けじと一つの音が雄叫びを上げた。
アスファルトとコンクリートがビキリと悲鳴を上げ、一人二人と生命の途絶される音が響き渡る。屍ばかりが死に絶えるというのに、この世の地獄は地獄のままに、
一つの銃を抱え少年は走っていた、周りにいたのは仲間かどうかも彼にはわからない。もしかしたら、ただ巻き込まれただけなのかもしれない、走っているうちに恐怖が頭を埋め尽くし自分が誰かも曖昧になっていった。
怯えながら漏れ出る言葉は荒い息だけ、悲鳴が混じり悲劇が彼の中では繰り広げられる。
彼の名前は新開、苗字などという物はこの世界では称号であり彼のような臆病者に与えられるものではない。だがそれでも彼には苗字があった、勇者と呼ばれる栄光が、だが残念なことに彼の強さは今この場にはない。
仲間がいて、力があって、でもそれだけだった。いま彼を追いかけるのは仲間、賢者と呼ばれた、魔術王と呼ばれた、剣王と呼ばれた、三人の仲間が彼を裏切った。
この日本にあって最強と呼ばれた勢力勇者、だがこのときこの瞬間を持って彼らは破滅した。空の転換期以降最大勢力だった魔王と呼ばれた勢力をうち殲滅した勢力はそのリーダーを裏切るという形で滅びることになった。
だが少年はそれでも勇者と呼ばれる力を持っていて心を持っていた。
今襲う相手ですら殺したくない、仲間だったものを殺したくないと彼は怯えながら走り続けるだけだ。守ってくれたものに謝罪を繰り返しながら、ただ必死に逃げ出す。
これは地獄だった地獄だった、屑は屑のままで、勇者はその字を持ちながらただ逃げ出すだけの臆病者となった。
だが世界はそれで終わらない、だがこの程度で世界の常識はそれでは終わらないのだ。勇者は今だ剣を持っていた、ことごとく世界は屑のままなのだ。それはここにいる善存在としての勇者としても変わらない。
この世界は屑ばかりで塵ばかりだ。
芥は芥のまま、だがそれでも彼はやはり臆病だった。様は人生ままらなぇってことなのだが、殺意のまま攻撃を振るおうとする勇者の幻影。だが脳に激痛が走り、彼の行動を阻む、はじかれるはずだった殺意は、彼の指をひとつたりとも動かそうとすることはなかった。
その硬直、首領者たちが逃すわけもなく、早い光が一つ彼を袈裟に薙いだ。
「新開、お前はここで絶える運命だろう。何故此処まで呻く」
「って……まて。なんでここで、なんでここで、あぁもういってぇなぁくそ、意識だって飛びそうだぞ。
裏切り者め、僕が預言者連中に勇者敗北するとか言われたことを実行しやがって、ぼくらさいこうのめんーばーぁああああくっそう」
その虚勢はすぐには終わらない。
震えるのは体ばかりだ、吐かれるのは血ばかりだ。悪態ばかり吐くが、それ以外の刃を彼は持ち合わせていない。
「いいかここで殺されてやるぞ、一度きりだ絶対に殺し返してやる。覚えていろ僕を殺しても第二の僕、第三の僕が現れる」
不適に笑うがいっていることは、三流魔王と変わりはしない。少年の態度に県央は疲れたような表情を見せる。
「というかお前余裕あるな、結構致命傷だろその一撃」
「はっ、忘れてもらっちゃ困る。死体はすべからく堂々としろ、死ぬ間際で無粋を極めるわけにはいかない、なんていうと思ったか。残念ながら致命傷は避けたっての」
それでも生きようとするのが人間の浅ましさか。
己が鍛えた身体能力のまま、彼は後方に跳ね飛ぶ受身考えずに下がったおかげで、明日ファルドに体を打ちつけ、コンクリートの壁に体を強打し傷口が広がる。
血を吐くようにもだえながら立ち上がる。痛さを表現する行動は多くあるが、この男は屍を踏み歩き魔王殺した男は、そんな言葉の中で意地を使って耐えている。
「痛い痛い痛い、うらむぞー、憎むぞー、と冗談はここまでにしておくか。さすがにこの程度で致命傷にはならないけどさすがに重症だ。まだ第二第三の僕が出る幕じゃない、そして覚えておけ僕の称号はこれより敗北勇者、敗北勇者だ」
とりあえず、声を大にしていうことではなった。
「言ってて恥ずかしくないかお前」
「あぁ、かなり恥ずかしいよ。だがこれを名乗り続けてやる、僕の名前は敗北勇者新開だ」
少し涙目ながら張り上げる声はなかなかに通る。
あきれた顔をしている男は、手に収めてある圧縮重量剣(刃を何千万と圧縮し内包している限定力場武装の事)の起動を開始した。
「あまい、これだけ距離が離れているなら琴渡じゃ怪我をしていても僕のほうが早いぞ」
「さすが勇者、だがいつ私一人だといった」
「それも含めて甘いと言ったんだ僕は、賢者、魔術王、剣王、近接戦闘と長距離では僕は君たちに適うと思ったことは一度たりともないけどね、中距離戦闘なら僕の領域だ」
長距離からの攻勢力場が、二方向から放たれるが彼の懐に納めていた銃弾がそれを阻む。
傷口からはすでに大量の血がこぼれ彼の視界は怪しいというのにそれでも狙った場所に打ち込むそのさまは勇者と呼ばれた字に相応しい。
「ふはははははっはは、いいか覚えていろ。敗北勇者の名を、またいつか僕はこの地に現れる我が名は敗北勇者、ふはははっはははははは」
だが態度は間違いなく魔王の其れだ。
「いやもうあれはなんと言うか異常だなぁ勇者」
「あれこそ私たちのリーダでしょう」
「だが残念ながらここで死んでもらうしかないのは仕方ない。預言者の高起動演算は絶対だぞ、剣を触れ剣の墓場で術の墓場で銃の墓場だ」
黙れ、声に極北の風が吹き抜ける。
「いいか黙れ、黙れ、裏切りの代償は剣群よりも重いぞ剣王。
大体、僕の最初の苗字を忘れたか極限の敗北王だぞ、逃げ足だけなら誰にも負けやしない」
間接支援、間接攻撃、なにより――――――この勇者は尽く自分の被害が加わらないところが大好きなのだ。
「一度さよなら、これで一度おしまい、敗北勇者の名を忘れるな」
ふははははははははははははははははは
こいつは、こいつは、悪役以外の何者でもない。ケタケタと笑いながらクルクルと動き回る。これはこれは最後の最後の最大、巨大な塔は倒れ、世界は動く。
そんな世界の勇者の話、笑いながら笑いながら、復讐者になる大雑把な大馬鹿。
懺滅世界、世界はだんだんと終わっていくだけの話だ。
銃声は雨の降る世界に響き
世界に大穴が開き
三年の月日が流れて、再度死滅の銃弾が響き渡る。
雨が終わり、また雨が降って世界は回る。すでにこのいったいで敗北勇者、名はすでに忘れ去られていた。
勇者が死滅して、勢力バランスが変わり。屍舞の動きが始まりだした。
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