幻場の枕語 月下詩残

 この世界の文明はひとまず終幕を迎えた、辺りにはもう彼と彼女しか残っていない。

 紫の光と赤き光、またしても今は空に浮ぶは月。


 剣王戦争にて最大の厄災を撒き散らした二つの刃は共に向かい合っていた。既に他の大陸は分断され、そこに存在した最強たちと国は消え去っている。この二人が斬り殺し続けた結果だ。


 彼らは最後の願いをかなえようとむき合い続ける。


「やっとここまでこれた」

「なごうございました。ようやく私達の目的が願いが叶うときです」


 文明ごと破壊し尽くした二人の刃は、その凶器を向け合った。

 本当に長かった、もう彼らの体に血の被っていない所等ありはしないただもう望むだけだ彼らの二人の結末を。

 本当に長かった彼らの刃の終わりそれは目の前にある。


 彼らにとって最強の刃とは目の前にいるその存在そのものだ。


「それが、私達に」

「斬れない筈は無い」


 なんと真にふざけた夫婦か、自分達で殺しあうためだけに今まで全てを殺してきたのだ。


 彼らの結末はそんな屍の上にあるものでありながら静かに厳かに始まる。そこにかつての焔纏の月の様な苛烈さがあるわけではなく、ただ静かに、ただいままでの時間を紡ぐように、二人にとってこの時間が契りと言うように、ただ静かに結末を迎える。


 二人ともの構えは無構え、ただ一歩一歩を確実に歩き己の間合いに踏み込む。


「僕が紡ぐ最後だろう全身全霊の一撃だ、この上なく楽しく終わらせようもうそれで終わりなんだ」


 こんなときだと言うのに赤らめながら初夜を迎える女子のように淑やかに頷いた。

 二人は確認する、その目にはもう刃しか映らない。


「はい、見ていてください私の一刀を」

「当然だ君も見ていろ僕の一刀を」


 空に浮ぶ白い月、地面に写る二つの月、一つは満月一つは三日月一つは新月。


 それは余りにあっさりした終わりだった、この二人は既に避けると言う考えを捨てただ斬ると言う思いだけを紡いだのだ。二人の刃の軌跡は本当に世界に広がらんばかりのまばゆい光、その軌跡は世界を切り裂き二人の体の中で止まる。


「互角か」

「その様ですね」


 …………………………………………これ以上語ることは無いのだろうか。


「あはは」

「ふふふ」


 二人とももうは長くは無い、世界に厄災を撒き散らしたこの二人の生涯は静かだった。


「終わった」

「終りました」


 けれどその顔に既に未練は無い、終った終わったと、今までの長い時間をようやく巡る。


「長かったねぇ本当に長かった」

「とても楽しゅうございました主様」


 始めて彼らは後ろを振り返った、その長い時間の軌跡を今始めて頭に浮かべる。


「素晴らしい刃だった」

「必死な刃でした」


 だが浮ぶのはやはり刃の事ばかり、刃以外のことなど彼らに浮かべることが出来るはずも無い。

 頷いて頷いて、けれどやはり分かれはとても辛いもので、


「又一人に戻りたい、最後まで君といたいものだよ」


 彼はそんなことを呟いた。


「当然でありましょう私と貴方は刃の夫婦、貴方が刃なら私は鞘に、貴方が鞘なら私が刃に、今までずっとそうしてきました」


 だが片割れは何を今更と軽く主を笑う。 

  

「そうだった」

「そうですよ」


「ならこれからの生涯もずっと付き合ってもらうぞ、君と僕がいれば世界だって切り裂ける」

「いえもっと上を目指しましょう、もっと上を」


 なんとこの二人は、なんて二人だ。


「あぁ、本当に終わりが見えない」

「見えてしまっては私と貴方は刃でなくなってしまう」


 だがもう彼らの体は消えかけていた。

 それだと言うのに彼らはまだ上をまだ上を目指し続ける。


「次は使い手を捜そう、僕らと言う刃を使ってくれる月を」

「はい、主様もとよりその覚悟は出来ております」


 では、今からもずっと一緒でありましょう。

 あぁ、その通りだ僕らは刃なのだから。


 カランと刀が地面に転がった。

 それは使用と言うには程遠い、刃が休まるためだけに存在する鞘かつて彼捨てた鞘だ。そこにただ眠るように一振りの刃が鞘に納まったまま転がっていた。

 彼らは眠る、自分達に斬れないものは無いといまだ終らぬ決意のままに眠る。


 だが今は長きに渡る休息を与えよう。彼らは全速力で世界を走り抜けたのだ。

 二人は眠る、人でなくなってしまった一振りはただいまは眠るのだ白鞘の中でただ今までの疲れを癒すように、ゆっくりとゆっくりと彼らは眠るやがて来る時代の使い手の為に。


 ただ白鞘の中で眠るように

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