sky watch!!

𠆯海人

「星空エンゲージ」

第1話 プロローグ

 いきなり天文部の危機と戦うことになった。


「どうしようかな。学校提出用の活動報告書。そろそろ提出のシーズンじゃないっけ」と先輩が言いだし、調べてみると締切は迫っており、あまり悠長にはしていられない事が判明したからだ。


「成果物を提出しないといけないってやつですよね。去年まではどうしていたんですか? わかるの、月宮先輩だけなんですから教えてくださいよ」

「先輩たちは手書きのレポートだしてたよ。私は字が汚いから手出ししなかったなあ。なのでまともに読んだことがない」

「……えぇーっ。シャレにならないじゃないですか。廃部はイヤですからね」


 学校に提出する成果物は私たち文化部にとっての生命線である。ちゃんと提出しないと「名前だけでまるで活動していない部活動」と認識されてしまい、予算や部室を削られ、場合によっては命まで奪われるのだ。


 その情け容赦なさは我が校では伝説になっている。例えばある年の料理研究会は、作ったお菓子の写真を撮ることなく食べてしまい、レシピの提出も怠って、成果物なし。結果、大幅に予算をカットされ、その中でやりくりしていたら節約レシピばかりになったらしい。――これは、さすがに作り話だろうと思っているけど。


 その厳しい成果物提出について、まったくの手探り。一からどうするか考えなくてはいけないのと言うのは、我が天文部の規模などを考えると、廃部の危機と言っていいだろう。


「落ち着いて考えよう。あやが毎回書いているレポートもあるから、どうにかなるはず」

「それに月宮先輩が写真撮ってますよね。それを添えれば十分な実績にはなるでしょうし」

 先輩が小さくガッツポーズを取る。高校二年生なのに美少女小学生でもまだいけてしまいそうな先輩だから、そういう芝居がかった動きをすると、いちいち絵になる。

「それだ。棚にまとめて整理してあったよね?」

「もちろんです」


 ホコリ臭い部室は掃除が行き届いているとは言いづらいのだが、機材の整理ばかりはきちんとやっている。備品としてそこそこの貴重品(それこそ天体望遠鏡だとかだ)をおいている都合、乱雑にもできないのだ。私たちの私物もそこそこ転がって入るものの、邪魔になるほどではない。


「それなら今から私の写真フォルダ整理して、現像するもの決めるね。一緒にまとめれば、そのまま文化祭の展示にも使えるでしょ。学校側なんてどうせ厳密にチェックするとも思えないから、こっそりマンションの方でやった記録も混ぜよう!」

「それだっ! カサ増し重要ですね」

「君がマメだから助かる」

「マメに記録するしかないんですよ。天体観測のレポート、お母さんに提出義務があるから。そうだ。先輩たちの過去のレポートどこかにないですか? 先生のほうで保管してあるとか」

「聞いてみないとわからないなあ」

「書式とか統一したほうがいいんですかね。いや、そこまでやらなくていいですかね……」


 しばらく二人でウンウン唸って「とりあえず慌てないことにしよう」と言い合い、各々で地道な作業をすることにした。先輩は私のレポートの、私は先輩の写真をチェックする。


 そうなると、まずは個人的には黒歴史一歩手前だが、最初のレポートから渡さなくてはならない。


 これを手に取ると出会った頃を思い出して、先輩をチラチラと見てしまう。先輩に見ていて浮かぶイメージは、表情が豊かな人形、ドール。均整のとれた小さな人工物。星空ばかり見上げている人なのに、私には彼女が星には見えないでいる。


 あれは私の最初の観測記念日だ。この日の朝にはまだ、この部活があることすら私は知らなかった。


 しかしあの日の夜、私は確かに木星とランデブーし、宇宙に恋した乙女の気持ちを知った。他ならぬ月宮先輩が、神聖な秘密を分かつかのように星空について語るその姿に出会ったからだ。


 *****

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