ルアと時の魔法学校

にぃつな

序章 異世界の魔法学校に編入・転入

第1話 不合格

 男をウィザード、女をウィッチと呼んでいた時代。

 世界はいま、魔法が大ブームとなっていた。


 三人の魔法少女の活躍から、四人の魔法少年の活躍などテレビでも話題になり、魔法学校に進学したい生徒が大いにあふれていた。


 主人公ルアも同じだった。


 テレビで自分と大して変わらない年代の子が魔法使いとなって日常に潜むマモノや人が生み出した怪事件などを魔法を使って解決する番組が一夜放送されていた。


「ぼくも主人公(魔法使い)になりたい!」


 その思いが現実になるために一生懸命努力した。


 くじけることもスランプに陥ることも笑われることもあった。それでも、テレビで活躍する彼らのような魔法使いに憧れ、日々努力することを怠ることはなかった。


 小学校を卒業した日、中学校へ進学するため推薦状を手に魔法学校へといざ試験へと立ち向かった。


 魔法学校は中学生から進学することができる。魔法学校は異世界にある。魔法使いは異世界とつなぐ転移の魔法で生徒たちを異世界に送り魔法の術を身に着けるという。魔法を身に着けた生徒は故郷に戻ったり他の世界に行ったりすることができた。

 中学生から魔法学校に通えるようになるのは、魔法が存在していない世界から来た人たちに限られた。魔力がない世界では中学生ぐらいの年代になるころには芽生えるケースが多かったため、その年代で許可されるようになった。


 他にも理由があり、異世界に行ったものの帰れなくなることも多々ある。それは異世界が楽しいとか、憧れるとかいうものではなく単純に命を奪われることが多いのである。


 命を奪われても一切の保証はしない。家族にも、助かったその子にも。病院や復活の呪文でさえも助けることは自身が保証するしかないと契約を書かされるからだ。


 それを承諾した一部の生徒だけが異世界で魔法を習得することができる。限られた人間だけが得られる。そんな厳しい世界だった。


 魔法学校では危険な実験や命に係わること、使い魔の召喚、魔法による甚大被害など多数の報告が毎週流れている。


 それでも魔法学校に進学したい生徒は後を絶たない。そこで、厳しい試験と称してテストを行うことで、魔法に憧れる生徒をおおいにふるい落とすことで将来を変えてもらおうと始めたのが二回目の試験からだった。


 試練はみっつの項目があり、それらすべて合格しなければ進学が許可されない。

 厳しい試験を乗り越えてこそ、一人前と認められるのだ。


 日々努力を怠わなかったルアは、希望を信じて、テストを受ける。


――結果、すべて落選した。


 どの評価も「並以下」と大きな判子を押された。


 三つ殿試験はすべてクリアした。だが、何かが足りないと向こうから断られたのだ。その何かとは「特徴となる属性がない」というものだった。


 特徴となる属性。

 この世界にはいくつかの属性が存在し、それぞれ独自が好きで強くなれるという確信が持てるものが存在する。


 属性は主に、火・水・風・土といった自然界における一文字で表したもの。そのほかに氷・雷・光・闇といったものもあれば、機・操・緑・力・武といったものもある。


 それが、ないのだ。


「――特徴がないって・・・そんなので納得できませんよ!」


 試験官に納得できないと抗議した。

 試験内容はすべてクリアしているはず。顧問からも認可はおりている。それが、『特徴がない』という理由だけで不合格されるのはどういうことなのか? と聞いているのだ。


「得意とする属性がないのだ。」


「得意とする属性? そんなの、なんでもOKですよ」


 現に試験で得意となる属性はいくつもある。それを順に見せていったにも関わらず、こんな不当な言葉で外されるのはおかしい。


「オールOKだと困るのだよ。いいか、魔法学校にはいくつか得意となる属性の顧問がいる。二つとか三つまでとかならいいが、それ以上となると習得している顧問がいないため、君を素直に本校へ招待するわけにもいかないのさ。他校ならあるかもしれないが・・・」


「ですが、ぼくはどうしてもこの学校に入りたいのです! 得意となる属性を見つけますから、どうか、お願いします!」


「・・・わかった。校長に聞いておこう。でも、校長が頷かない限りは君は不合格のまま退場してもらう」


「・・・そんな・・・」


 せっかくの合格が、『特徴がない』という理由だけで不合格になるなんておかしい話だ。同級生はみんな受かっているのに、ルアだけが入れないなんて、世の中おかしいよ。


 教頭が言う通り他校を調べる線もあった。でも、譲れない理由がある。

 この学校に入学したい、進学したいという気持ちは誰にも譲れない理由があった。


 テレビで報道されていた少年少女たちはみんなこの学校の卒業生だからだ。テレビ業界に最も近く、将来有望な生徒がたくさんいるという名門中名門の学校。そんな学校に進学できるのは五十人に一人程度の確率。


 その確率の中に含まれ、大喜びしていたのに・・・こんな理由だけで不合格なんて・・・。校長に直談判だけでも、なんとか合格取り消しは避けたい。



――一週間後、通達が届いた。


「クソが、世の中腐っているだろ!」


 届いた通告書にはすべて”不合格”という烙印が押されていた。


 他校にも受験した。

 すべて”同じ理由”で追い返された。


 納得できない理由ですべて不合格にされたのだ。


「なんでだよ、なんでだよ、なにがダメなんだよ!!」


 悔し塗れで外へ飛び出した。


 涙顔を袖で隠し、公園まで走った。


 悔しくて悲しくてたまらない。


「特徴って・・・なんだよ・・・」


 涙声で喉もガラガラだった。鼻水が出ては息が苦しくなる。


 ルア以外はだれも悔しそうにしていない。悲しんでもいない。みんな明るく前を見て一生懸命、遊び楽しんでいる。彼らにわかるのだろうか。魔法はすべての人を受け入れてくれない。輪の中から外れた者は容赦なく振り落される。


 そんな言葉を楽しそうに笑いかける子らに伝えたくて胸が苦しくなる。


「ぼくだって、ぼくだって・・・」


 いつも持っている杖をかざして、魔法を唱える。


 クルクルと竜巻のように風が渦を巻いて回転する。小さな竜巻となって砂埃を吸っては上空へと吐いていく。


 その光景を見かけた子供たちが駆け寄ってきた。


「まほう? すごいね」

「みせて、みせて!」

「すごーい、どうやったらこんな風にできるの?」


 子供は純粋だ。これがいま落選してきた人の魔法とは思えないだろう。


「テレビでやってた魔法使いみたい!」

「みたみた、すごいよね私もああなりたいな」

「ぼくだってなりたいよ! 魔法でぐーるぐーると敵を回転させて地面に落しちゃうんだ」

「ボクはいやだな。どうせならみんなの傷をなおす魔法使いがいいなー」


 まるで昔の自分を見ているようだった。


 昔、こんなに純粋にテレビを見て、自分も同じように魔法使いになるって信じていた。


 自分の杖を見つめ、過去の自分のことを思い浮かべる。


 魔法は、こんなにも優れているのに、術者がこんなにも諦めてしまっていいのだろうか。


 自分に投げかけるかのように疑問と質問を繰り返して呼び覚ます。自分はダメじゃない。きっと、なにかが足りなかったからだ。その答えを自分で見つけてこそ、慣れるものじゃないのか?


 そう言葉を心に投げかけているうちに、少しずつ悲しみが溶けていた。


「それじゃ、もういっこ魔法を見せてあげるね」


 いつのまにか、子供の言葉に押され、自ら魔法を披露するようになった。子供の輪のなかで大人に近い年代の子がワーワーとやっている。


 はたから見ればガキ大将。


「ありがとう」


「え?」


 ぼくは静かにほくそ笑む。

 忘れかけていた思いが彼らによって呼び覚まされたのだ。


 ぼくはもう一度、試験に挑もうと思う。何度、失敗しても必ず答えてくれる学校がある。それを信じて、進めばいい。進路は大人がレールを引いてくれた道しるべだ。そのレールに歩けるか大人の許可があってこそ、前へ進むか別の道へ進めるかを決めるだけだ。

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