精神に溶け込む影
乗り物の模型や大砲など、使用用途が本来と異なっている物や自身が扱えない物であっても、それを扱い“操縦“することが出来るというものだった。
フランソワ・ロロネーという海賊に唆され、人体実験による人間の操縦を叶える事となるが、実際には完全に他人の身体を掌握することはできず、僅かに身体の一部を操縦するだけしか出来なかった。
それでも厄介な能力であったことには変わりなく、海上戦ではグレイスとシンがロッシュと戦う中で、そのパイロットの能力に苦しめられた。
そんなロッシュのスキルから着想を得たシンは、本来WoFのキャラのシンが習得していなかったスキル“操影“を身につけた。対象を操るような使い方では使用したことはないが、ロロネーとの戦いの中で大量の魂を身体に入れられ操られたハオランの精神の中へ入り込み、彼の身体を取り戻すことに成功した。
アズールの身体に残っていたという、彼本人とは別のものの存在。それを探るのに打って付けのスキルと言えるだろう。
シンの影やダラーヒムの術で押さえつけていたアズールは、身動きの取れない状況を利用し始めた。動けないのなら肉体を強化し力を付ければいい。妙に大人しくなるアズールの様子を見て、その思惑に気がついたシンは、早速“操影“によりアズールの身体の中に残されていたという痕跡を調べる為、他の者達に協力を仰ぐ。
「俺がアズールの中にある痕跡を調べる!その間、代わりにアズールの相手をしてくれ!」
「アズールの中に?一体何をするつもりだ?」
アズールの身を案じる獣人達は、彼のいう身体の中に入るというその方法について問う。アズールに何が起きているのかを調べるのも勿論重要な事だが、その手段によってアズールの身に被害が及ぶのであれば、彼らも当然黙ってはいないだろう。
不安と戸惑いの混じる彼らに対し、シンは自身の野郎tしている事について詳しく話す。シン自らの影をアズールの中に送り込み、彼の精神の中へ入り込む。そこでダラーヒムの感じた違和感の正体を突き止めてくるだけで、アズール本体への影響はないことを説明すると、彼らもそれ以外に現状の打開策はないとこれを承諾。
アズールが徐々に力を強めている事と、スキルの使用中シンは無防備になってしまうことを説明し、調査をする間守ってもらうようお願いした。シンの身体はツクヨとダラーヒム、そして獣人族からはケツァルが防衛に務めることを約束し、アズールを抑え込むのはガレウスと残りの獣人が引き受ける事となった。
シンが影による拘束の解除の合図を送ると、それに合わせガレウス達がアズールの周りを取り囲むように構える。そしてアズールの身体を縛り付けていた影がスルスルと地面へ流れていくと、抑え込まれていた彼の身体が動き出す。
「来るそ!いいか、アズールへの攻撃は許さん!」
「了解!」
「分かってるぜ!ガレウス。アンタが一番心配だよ」
「減らず口叩きやがって・・・いくぞ!!」
拘束の解かれたアズールに向かって、その身体を押さえつけようと二人の獣人が左右から攻め立てる。だが、拘束されている間に肉体強化を進めていたアズールは、それまでの魔物のようにただ暴れるだけの動きから、素早い身のこなしへと変わり、取り押さえようとした二人の腕を躱し、流れるような動きで二人を投げ飛ばした。
「なッ・・・!?」
「さっきまでと動きが違うッ!?」
突如動きの変わったアズールが顔を上げると、その目は血に飢えた魔物のように真っ赤に光っていた。
「おいおい・・・理性が戻って来てるってのか?」
ただ操られているだけとは思えぬ動きに驚くガレウスだったが、彼も特有の肉体強化により瞬間的にアズールの力の目測を上回る強化を果たし迎え撃つ。
両手を合わせるように掴み合う二人。敵を倒すという単純な目的とは違い、本来の力を振るえずにいるガレウスに、容赦なく全力を注ぎ込むアズール。
「へッ!この声がお前に届いてるのかは知らねぇが、この俺と力比べでもする気かぁ!?いい機会だから教えてやるよ。パワーじゃ俺が上だってなぁ!!」
ガレウスはシンに言われた通り、見事にアズールの動きを封じている。その間にシンは、自分の身体をツクヨ達に預け、ロッシュの能力から習得した“操影“のスキルを放つ。
「それじゃ、俺の身体の事は頼んだ」
「あぁ、任せてくれ!」
海上戦で見せた時は、共に戦場にいたチン・シーの“リンク“する能力によりシンの身体を動かしていたが、“操影“のスキルは使用すると本人であるシンの身体は、魂のなくなった抜け殻のように動けなくなってしまう。
スキルの発動と同時に倒れそうになるシンの身体を受け止めるツクヨ。そして彼の影から地面を這うように小さな影が、アズールの元へと向かい、彼の影の中に溶け込んでいく。
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