真っ直ぐな言葉
片腕を失い、銃弾を浴びた獣は地に倒れ動かなくなる。これもまた、巨大樹の中で倒した獣同様に消えることはない。その場に残されるのは、肉塊へと変わり果てた物と凄惨な血の跡だけだった。
「やっぱりか・・・」
「消えない・・・みたいだね。モンスターってのとは違うって事?」
「どうだろうな・・・それはアタシにも分からん。ただ、この世界の認識では、これはモンスターとして扱われないのかもしれないってだけだ・・・」
トドメを刺した獣の側に、ミアとツクヨが近づきその生態について何かわかることはないかと様子を見ている。しかし、二人にとってもこれまでに見たことのないイレギュラーな存在に、何の情報も掴めずにいた。
一匹目の時は、巨大樹の中からの脱出途中であり詳しくは調べられなかった。あの時に比べれば、状況的には僅かに余裕が生まれた。
だが、ここに長居もしていられない。戦場となっているリナムルでは、他にも各所で獣人達がこれと同じ者と戦っている。
獣人族に協力する姿勢を見せる為にも、今はガルムの仲間達を少しでも多く救ってやらねばならない。
最初に負傷していた獣人と、それを手当てしたツバキとアカリは、戦闘を終えたガルムともう一人の獣人の元へ駆け寄り、残りの回復薬を分け与える。
「おい、人間を野放しにしてることがガレウスにバレたら・・・!」
「そんな事も言ってられないだろ?現に俺もお前らも、その人間のおかげでこうして生きてる」
「戦力的にガルムだけでも十分だっただろ!?」
獣人が三人も集まれえば、先程の獣も倒せたであろうと主張するが、そんな彼にその自分がここへ来れたのは、ミア達に命を救われたからだと、巨大樹に逃げ込み窮地に陥っていたことを説明するガルム。
ガルム達の生存は、必ずしもミア達人間のおかげとは言い切れない。だが、あのまま巨大樹の中でミア達に助けてもらっていなければ、あの時既に死んでいたであろう事実を仲間に伝える。
すると、救われた二人の獣人はそれ以上何も言えないと言わんばかりに、口をつぐんでしまう。
「それより今は他の仲間達を!お前達も気配を辿り、他の救援へ向かってくれ」
「あぁ、分かってる!」
「絶対に一人になるなよ?必ず複数人で対応に当たるんだ」
ツバキ達の回復薬ですっかり元通りとなった二人の獣人は、ガルムが次に向かおうとしている方向とは逆の戦場へと向かう。
すると、彼らはその場を後にする前に、助けてくれたツバキとアカリにお礼の言葉と謝罪を述べていった。
「お前達人間を、まだ信用した訳じゃない。だが・・・怖い思いをさせて悪かった・・・」
「してもらった事に対する恩は忘れない。これは人間に対するものではなく、“お前達“対するものだ。ありがとう」
初めて獣人族と出会った時は、馬車を襲撃され殺されるかもしれないという恐怖を与えられた二人だったが、巨大樹に囚われていた時のケツァル派の獣人達といい、今目の前にいる獣人達といい、話してみれば理解のある者のようにも感じた。
「いいってことよ!困ってる奴がいれば、助けるのは当たり前だろ?」
「その通りですわ!無事で何よりです。この後も、どうかお気をつけて」
思いもしない真っ直ぐな言葉に、二人の獣人は顔を見合わせ呆然としてしまった。今の彼らには、ツバキやアカリのように裏表のない純粋な言葉が深く刺さる。
二人の獣人を見送り、ガルムはツバキとアカリを連れ、死体を調べるミア達に合流する。
「おい、すまないがそろそろ次に移動したい」
「あぁ、分かった」
「どうかしたのか?」
血溜まりに倒れる獣に興味を示すミア達が珍しかったのか、ガルムは彼らが何を調べていたのか気になったようだ。しかし、彼らの調べていたものは、このWoFの住人では知り得ない、理解のできぬ事だろう。
ガルムの問いに対し、ミアの機転により彼女の錬金術のスキルで何かされた痕跡を辿れないかどうかを調べていたと、それらしい言い訳でガルムを納得させることができた。
実際この獣も、獣人達を襲ったという人間に何かしらの手を加えられているに違いない。そういった反応を調べる為にも、錬金術のスキルや精霊の力は役に立つ。
ミアも自身の使役する四大元素の一つ、水の精霊であるウンディーネの力を借り、その獣の死体を調べていた。
その結果分かったのは、獣の死体の中に他の生物らしきものの反応を感じ取ったという事だった。それが細菌や微生物である可能性も否定できないが、ウンディーネがその反応を妙に気にしていたのだ。
今はそれが分かっただけでも収穫があったと思うべきと、一行はガルムが掴んだ次なる戦場の反応を追い、移動を開始した。
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