同行者という名の人質
同胞にそれほど警戒心を抱かせてしまうガレウスとは、一体どんな獣人であるのか。彼がどれほど人間にとって危険な存在であるのか、過去の行いを例にいくつか取り上げるケツァル。
その余りに非道な行いに、残されることが確定してしまっているツバキとアカリの表情は暗く沈む一方だった。
怖がらせてしまった代わりに、ケツァルは自分と考えを同じくする同胞を、残された者達の見張り役として多めにおいていく事を約束してくれた。
それは彼らが部屋で眠る前に、腹を空かせたツバキやアカリの為に自分の分の食べ物を分けてくれた彼らの事だった。反対派の彼らがいることである程度の抑制にはなるが、それでも安全が保障された訳ではない。
「出来れば我々も、君達とは協力関係を結びたいと考えている。だが、この話もダラーヒムという男に掛かっている。彼の持つ情報に信憑性がなければ、私も君達を庇う事は出来ない・・・」
「分かってる。俺達もそれを当てにするしかないからな」
「いいか?最後にもう一度念を押していくが、同行する者と残される者のバランスをよく考えるんだ。私なら、どちらの生存も考えた力配分にするがね・・・」
最後に意味深なこと口にしたケツァル。間も無くして、窓の外に待機させていた彼の仲間から合図が送られてきたようで、すぐ側にまでボス達がやって来ている事を伝える。
床を軋ませる幾つかの足音と共に、シン達を捕らえていた部屋に獣人達のボスであるアズールと、幾人かの取り巻き。そして、一際大きな獣人がぞろぞろと彼らの前に姿を現した。
「この男の情報とやらが本物であるかを確かめる為に、お前達の中から一人、人質として同行してもらう」
煌びやかな装飾を見に纏い、獣人達を従えてやって来た彼こそ、獣人達ボスであるアズール。説明されずとも、その振る舞いと言動、そして先頭を切ってやって来たことからも、シン達も彼がボスであることを確信していた。
そして彼が口にした“この男“という人物が、獣人達の間から引き摺られるように引っ張られ、シン達の目の前に差し出された。
まるで放り投げるように床に投げ出されたのは、拷問により見るも無惨な姿へと変わり果てた、様々な物でつけられたと思われる無数の傷を負ったダラーヒムだった。
あまりの凄惨な姿に、アカリは悲鳴を押し殺しながらその場にへたり込んでしまう。ツバキやミアも直視できないといった様子で目を背けていた。
「酷い・・・」
目を背けることなく、彼に意識があり呼吸をしているのかを確認しようとするツクヨ。
そんな彼らの前に、一際大きな獣人が前にやって来てダラーヒムの状態にすいて語る。その様子から、この者がダラーヒムを拷問したと見て間違いないという確信を得た。
そう至ったのは、拷問する時の彼の様子を楽しそうに語る声色と表情だった。
「安心しろよ、人間。虫の息だが、こいつぁまだ生きてる。死ぬ一歩手前まで弱らせるのも大変なんだぜぇ?何つったって、人間はすぐ壊れちまうからなぁ」
「おいっ!ガレウス!」
余計な不安や心配をさせまいと、ケツァルが彼の話の腰を折るように割って入る。今はそんな話をしに来たのではないと、彼らを率いてやって来たアズールも、睨みを効かせて首を横に振る。
「チッ・・・!」
「さて、あまり時間を掛けたくない。誰が同行するか決まったか?」
一切の無駄口を叩くことなく催促してくるアズールの問いに答えたのは、シンだった。
「俺が同行する」
「話が早くて助かる。ケツァルを事前に向かわせて正解だったな。では行くぞ。留守は頼んだぞ、ガレウス」
「・・・了解」
同行者を連れてこいとだけ言い残し、アズールは獣人達を連れて部屋を後にする。ケツァルが取り巻きに指示し、床に倒れるダラーヒムを拾い上げさせる。
そんな彼らの後をついて行くシンは、去り際にミアとツクヨに目配せをして小さく頷く。後の事は二人に任せ、シンはダラーヒムが隠していた情報を確かめに、獣人達と共に森の奥にあるという“その場所“を目指す事となった。
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