フロアマップ

 近くの壁の中へと消えて行ったモンスター。その周辺を探索するのは危険だと判断し、ツバキはオレンジ色のレインコートの少年が逃げた先へと向かう。


 真っ暗ではあるが、目を凝らせば辛うじて見える暗さの中を、壁伝いに手を添えながら歩いていく。


 すると、先程彼を助けた少年だろうか、施設内の何処かから子供の走る足音が聞こえるようになった。静か過ぎるよりかは恐怖が半減し気が紛れるが、音の大きさの変化が気になり、気が散ってしまう。


 だが、足音は闇雲に走り回っているようではなく、時折足音と共に先程ツバキを襲ったソウルリーパーのものと同じ呻き声が、微かに聞こえている事に気が付く。


 そのおかげかどうかは分からないが、あれ以来モンスターを一切見かけなくなったのだ。


 「モンスターを引き受けてくれているのか・・・?」


 ツバキがこの雨の降るオルレラに囚われてから、少年達は逃げる素振りは見せるものの協力的とも取れる行動をしている。


 何故彼らがそのような行動に出ているのかは分からない。もしかしたら誘い込まれている可能性もある。だが、ここで見た研究日誌に記された子供が彼らなのだとすると、ツバキには何かを伝えようとしているように思えてならなかった。


 「何処に行きゃぁいいんだよ・・・。こんだけ広いと、何処に何があるか分からねぇぞ?」


 まるで自分と会話するように、頭に浮かんだ言葉を口にするツバキ。自分のものだとしても、人の声を聞いていると安心できたからだ。


 暫く進むと開けたところに辿り着く。施設のエントランスだろうか、中央の壁に大きなフロアマップが貼ってあった跡が残されていた。


 綺麗な状態ではなかったが、所々確認できる場所もあり、辛うじて現在の位置と地下へと続く階段の位置が見えた。下の階層の方は、特にマップの消失が激しかったが気になる点もあった。


 意図的に消されたであろう部屋と、そこへ続いていたであろう通路が剥がれていたのだ。


 「あぁ?何だこれ。ここだけ人為的に・・・何か、都合が悪いことでもあったってことか?」


 表向きには研究施設として機能していたようだが、実際は裏で公には出来ない研究や実験をしていたのだろう。ツバキの中で、疑問は確信へと変わりつつあった。


 あとは、ここでどんな研究が行われていたのか。それを知ることが、ここでのやるべき事であり、脱出の糸口に繋がるのかもしれない。


 地下へ向かう階段の位置は分かった。ツバキはマップの位置を頭に叩き込み、このまま暗闇を進むのも危険だと、何か照明になりそうなものを探す。


 近くの部屋から小さめのカップを持ってきた彼は、適当に液体を吸収しやすい布を手にすると、薬品が収納されていた部屋から拝借してきたアルコールを取り出す。


 そして自作の簡易的なランプを作るとそこに火をつけ、地下へ続く階段へと向かう。

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