共鳴する装備
真っ暗な靄の中、蒼空は押し寄せる盾を次々に捻じ伏せていく。同時に閉じ込められた相方の能力が、幻覚として襲ってくる靄の檻の中。天臣の剣撃やシンの影スキルに比べれば、致命的になる攻撃ではない。
そして、刀や影よりもその表面積が大きく、魔力の燃費が悪い。取り込める相手の能力を、選ぶことが出来ないのもまた、イルの能力の欠点と言えるかも知れない。
「またこれか・・・。けど、もう要領は掴んでる!直ぐに抜け出してやる」
初見の時の不安や戸惑いは、最早今の蒼空には見受けられなかった。順調にイルの魔力を削っていく蒼空とは対照的に、ケイルは初めての攻撃と突如運ばれた空間に、思い通りの戦いが出来ずにいた。
「何なんだ?ここは。蒼空さん!?天臣さん!?」
周囲を見渡しながら呼びかけるも、二人からの返事はない。彼らが最初にこの檻に閉じ込められた時と、全く同じ反応だった。
どこまでも続く黒い靄の広がる平坦な世界。視界が悪い中、警戒しながら慎重に進んでいくケイル。
すると、その背後から突然何者かの気配がし、振り返る。そこには誰の腕とも分からぬものが、音も立てず不気味にケイルの方へ伸びていた。
「うぉッ!?だッ・・・誰だ!?」
慌てて飛び退こうとするも、蒼空の能力を模したその腕は、ケイルの身体に重力負荷を掛ける。
全身が滝に打たれたかのように、急激に重くなる。
「これッ・・・蒼空さんの・・・!?何で!?蒼空さん!俺です、ケイルですよ!聞こえてないんスかッ!?」
どんどんと強まる重力負荷の中を、一歩二歩と重たい足取りで下がっていく。そして重力フィールドの範囲を抜け出したケイルは、突然軽くなる身体に引っ張られ、尻餅をついてしまう。
「いてッ!何がどうなってやがんだ!?」
それまで自分のいた位置へ視線を上げると、そこには黒い靄の中へと引いていく何者かの腕が見えた。
敵か味方のものかも分からない中、ケイルはその腕を逃すまいと立ち上がるも、自身の身体に残る違和感に邪魔され、思うように手足が動かせない。
急激な重さや軽さを経験し、立ち上がるために必要な力を見誤ってしまう。まるで自分の身体が、別の何者かの身体のように感じる。
これが蒼空の能力を浴びることによって起きる弊害だった。ゲームで言えば追加効果といったところだろう。暫くの間、使おうとしたアイテムやスキル、移動や回避がキャンセルされたり、誤作動を起こしてしまうという厄介な状態異常。
そして、盾や鎧を纏って戦うディフェンダーのクラスであるケイルにとって、非常に相性の悪い相手だった。
仲間としての相性は良いものの、一度敵として立ち塞がると、鎧を纏った途端に重くされ動けなくなってしまう。
何度か襲われる中で、呼び掛けにも応えない蒼空らしきものの腕に、不審に思っていたケイルは漸く刃を向ける覚悟をする。
「蒼空さん、何か事情があるのか・・・?いや、そんな筈ねぇ!今からアンタを敵として見なすぜ!いいよなぁ!?」
決して蒼空に向けて放った言葉ではない。だが、万が一あの男の術により操られているとするならば、ケイルにそれを解く術はない。
自分が殺されるかも知れない状況下で、その命を差し出してまで無抵抗を貫く義理はない。戦う姿勢を見せた彼は、次に現れる謎の腕の気配に神経を尖らせる。
時を待たずして、再びケイルを襲おうと迫る腕が現れる。
その腕が放つ重力の間合いを見定める為、一時的に退いたケイルは手持ちの装備品の一つを、腕のいる方へ放る。
すると、重力を掛けているフィールドに入った途端に地面へと落下する。境目を可視化することに成功した彼は、身に付けている鎧を全て解除し、あろう事かその重力フィールドの中へと突っ込んでいった。
「ぅぉぉおおおらぁッ!まどろっこしいのは無しだ!単純に!シンプルな思考で行くぜ!」
勢いよく飛び込んでいったケイルは、可能な限り腕の方へ近づき、対象者の防御力を上げる擬似的な小手をその腕に向けて装着させた。
腕はそのまま、近づくケイルに警戒し靄の中へと消えていく。ケイルの作戦は失敗だった。だが、彼自身一度のチャレンジで全て上手くいくとは思っていなかったようで、その表情にはまだ希望の色が残っている。
次に彼の前に姿を現した腕は、先程ケイルが装着させた小手をつけてはいなかった。どうやら現れる腕は毎回別物の幻影らしい。
再び腕の放つ重力フィールドの中へ飛び込んでいったケイル。今度は腕に逃げられぬよう距離に気をつけながら、再度腕に小手を装着させる。
すると今度は、重力負荷を受ける中で自身の足に、腕に装着した小手と同じ種類の鎧を付け始めたのだ。
彼が何を企んでいたのか。それは直ぐに目に見える形で起こる。重力負荷を受けるケイルと同じように、小手を装着された腕も地面に向けて急激に落下した。
「俺の作り出す装備にはよぉ。“シリーズ物“ってのがあるんだよ。それらは見えない力で共鳴し合い、揃えて装備すると強力な効果が得られる。つまり・・・!」
ケイルは地に落ちた腕から小手を解除し、その腕を思いっきり踏みつける。腕の生み出す重力負荷の力を利用し、より重い一撃となった。
「俺の足に付いてる装備とソレは、同一のシリーズ。アンタの掛けた重力は、見えない力で結びついたさっきの小手と共有し、跳ね返ってくるって訳だぁッ!」
踏みつけた腕は、黒い靄となって消滅した。だが、周囲から感じる気配は未だ消えない。そこで初めて、ケイルはそれが蒼空の腕でないことを確信する。
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