独眼の巨人
キュクロープスとはラテン語名であり、英語名をサイクロプスと言う。ギリシャ神話に登場する鍛治職人であり、神話に登場する神々の武器や防具を作ったとされている。
独眼の巨人の姿をしており、日本神話にも似たようなもので、天目一箇神アメノマヒトツノカミや天津麻羅アマツラマという製鉄と鍛治の神がある。
それらの共通点として、独眼であることと鍛治に秀でていることが挙げられる。その身体は人のような形状をしているが、人のサイズとはかけ離れた巨人であったとされている。
「サイクロプスだ!モンスターはもう一体いるぞッ!!」
視線を察知したのか、その大きな瞳はシン達のいる方をギョロリと睨み、振り抜いた岩のように巨大な棍棒を振り上げる。
「おいおいおいおい・・・!嘘だろ!?」
「ねぇちょっと!範囲が広すぎじゃない!?走って逃げられるの!?これッ!!」
シンは咄嗟に、にぃなとマキナを自分の元へ引き寄せ、まだ会場の何処かにいるであろう蒼空に大声で話しかける。
「緊急事態だッ!持ち場を離れるぞッ!!」
床に手をついたシンは、暗い会場という地の利を得て、足元に真っ黒で大きな影を広げる。
「二人とも!俺から離れないでッ・・・!」
しゃがむシンの肩に、それぞれ手をつくにぃなとマキナ。足元の影は彼らの足場を飲み込み、三人を底なしの影の中へと引き摺り込む。
巨人の棍棒が振り下ろされるよりも先に、シンの作り出した影は収縮し、その場から消え去る。
岩のように大きな棍棒は、会場を縦に抉り取るように破壊し、まるで深い渓谷のような溝を作り出した。
会場にいた蒼空と、気を失っていたMAROは、爆風のような風圧に吹き飛ばされ、外壁に激しく身体を打ち付けられてしまう。幸い大事には至らなかったが、強烈なボディブローを喰らったかのように、胴体に大きなダメージを負ってしまった。
「ぐぁッ・・・!直撃してないのにこれかよっ・・・。室内に居たんじゃ追い詰められる一方だ・・・」
蒼空は周囲を見渡し、吹き飛ばされて倒れているMAROを見つけると、痛みを必死に堪え彼の身体を抱えると、次の一撃が来る前に破壊された会場の天井から外へと飛び出していく。
モンスターや異世界から来た者達が無意識に周囲へと放つ結界のようなもの。それのおかげで、彼らの見ている景色と、現実の世界で何も知らずにライブに没頭する観客の見ている景色は、似ているようで全く別の景色。
シン達には赤レンガ倉庫に大きな縦の溝が空いたように見えているが、現実の世界に生き、何が起きているのかさえ分からぬ者達は、見方によっては宙に立ってサイリウムを振る姿に見えていた。
屋上へと登った蒼空は、その奇妙な光景を上から眺め、サイクロプスの動向を伺う。
会場にいた筈の小さな生物が目の前から消え、サイクロプスは素早く動き回っていた蒼空を次のターゲットとして捉えていた。ゆっくり動く大木のような首が上がり、飲み込まれそうな程大きな瞳が彼のことを見つめる。
懐から取り出した液体の入った小瓶の中身を、抱えていたMAROの顔にかける。現実の世界でWoFのモンスターを倒すと稀に手に入る、ゲームと同じ回復薬。
どういった原理でこちらの世界に送り込まれてくるのかは分からないが、彼らが即座に傷を癒すのに重要な代物であることには変わりない。
「さぁ、目を覚まして。眠るにはまだ早いよ」
液体をかけられたMAROの身体が、淡い緑色の光に包まれ、体外に流していた血が引いていき傷を癒していく。
「ん・・・ぅうっ・・・。ここは・・・?ッ・・・!?そうだ!俺は確か・・・!」
彼を屋上に下ろし、蒼空は彼が気を失っている間に起きた出来事を簡潔に説明する。そして、それまで居た会場の景色には、こちらを見上げる独眼の巨人の姿があった。
「そんなッ・・・大型のモンスターが二体も!?何だってこんなことに・・・」
すると、上空かMAROの式神と共に降りて来た峰闇が、二人と合流しようと近づいて来ていた。
「MAROッ!蒼空さんッ!無事か!?」
「峰闇君。よかった、君も無事だったようだね」
自分の力だけで立ち上がれるようになったMAROが、声をかける峰闇を見上げて手を振り、無事であることを知らせる。
「俺なら大丈夫!蒼空さんが助けてくれたんだ。不意打ちを食らったけど、もう同じ手には掛からない・・・。俺はもう、奴には近づかない・・・!」
巨大な対象が相手では、近接戦闘を行うのは極めて困難になる。素早さや特殊な移動手段でもあれば別だが、相手のちょっとした動作が彼らにとってそのまま命を落とす攻撃になり得るのだ。
MAROは大きな紙を取り出し、再びスキルで峰闇を乗せている鳥のような形へと変える。蒼空と共に出来上がった式神に乗ると、屋上を離れ上空へと上がる。
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