離れた地にて
シンとにぃなが、神奈川調査チームとして、その内のノースシティにあるプレジャーフォレストを調べている間、彼らと同じようにフィアーズの末端の兵となって働いていたWoFユーザー達も、各地で調査を進めていた。
決まった調査内容はない。彼らに与えられたのは、ただ調査してこいという命令だけ。上層部の連中は、下の者の働きになど期待してはいないのだ。それどころか興味すらないだろう。
死のうが使い物にならなくなろうが、知ったことではない。せっせと自分の命の保証を得る為、真面目に調査している連中の中から、少しでも有益な情報が得られれば儲けもの程度の任務。
それがシン達に与えられた、フィアーズからの命令だ。
連絡も直接スペクターやランゲージらのような幹部達に繋がることはない。そんな末端の者達の報告など、下の連中でまとめておけ。これが組織内でのルールなのだ。
そんな中で、重要ではないものの特別な任務を任されている者もいる。そのうちの一人がイヅツだった。
彼は主にスペクターの元で活動しており、彼に拾われた時より特に問題も任務をこなしていき、能力を成長させていくと共にある程度の信頼を得ていたのだ。
決して簡単なことではなかっただろうが、自身がどのような状況に置かれているのかも分からない状態では、彼らに従う他なかったのだろう。重要な任務には呼ばれなかったが、スペクター直々の命令を受けることもあった。
そしてイヅツは今、東京からそれなりに離れた土地、京都のセントラルシティに来ていた。
彼に与えられた任務は、シン達のように目的もないただの調査などではなく、とある組織の根城を探すというものだった。
この依頼は、幹部達からのものではなく、その下の上層部からの依頼だった。組織というのもフィアーズやアサシンギルドのように大きなものではなく、現在の日本に蔓延っているハッカー集団だった。
現実世界に生きる者達の調査は、同じく現実世界にも生きているWoFユーザーでなければならない。何しろ、彼らには異世界からやって来た者達は見えないのだから。
別に彼らを調べるだけなら、直接接触する必要などないのだが、そこはやはりフィアーズ。利用できそうなものは何でも利用する。それが彼らのモットーなのだ。
フィアーズはハッカー集団を利用し、この世界と異世界を繋いでる可能性が高い、WoFというゲームを開発・運営している会社を攻撃する為の準備を進めていた。
一度は日本にあるその会社へ乗り込んだこともあるようだが、肝心のWoFに関するデータが見当たらなかったのだという。詳細については語られなかったが、本社にデータがないなどあるのだろうか。
恐らくはなかったのではなく、辿り着けなかったのだろう。そこから現代に生きるハッカーを使おうという発想に至ったのかもしれない。
現地のデータを探るには現地の人間にやらせるのが一番。その為の調査に、一部の信頼できるWoFユーザーを使って、ハッカー集団を探させていたのだ。
無論、ハッカー達もそう簡単に痕跡を残すような真似はしない。なので、フィアーズも彼らの実態を探るのに苦労しているようだった。
そんな中、漸く尻尾を掴んだ人物が、イヅツの送られた京都のセントラルに在住しているのだという情報が入った。信憑性が薄い為、駒の多いWoFユーザーが選ばれたのだろう。
イヅツは上層部の中でも評判がよく、スペクターによる口利きなどもあり、より任務らしい任務を頼む時は、彼を頼る事が多い。
日が沈み、夜の街に和風の街灯が照らす道の中、一人の男が無人ストアから買い物袋を手に出てきた。
買ったばかりで熱々の湯気を立ち上らせる揚げ物を手に、食べ歩きながら軽快に頭を揺らし、かなりご機嫌なようにリズムを刻んでいる。
年齢は二十代くらいで身長は成人のものよりやや低いくらいだろうか。夜中で人目も少ないこともあり、部屋着のまま出て来たようなラフな格好をした男を、柱の影から何者かが音を立てずにつけている。
そして、人通りのない狭い路地へ入ったところで、後をつけていた何者かが、ご機嫌に買い物袋を揺らす男に話しかける。
「アンタ、NAを知ってるか?」
「・・・・・」
しかし、前を歩く男は後をつけてきた男の声に全く反応を示さない。もう一度声をかけようとするが、よく耳を澄ませてみると、何やら軽快な音楽が聞こえてくる。
頭を揺らしながら歩く男は、耳にイヤホンをしており、周囲の音が全く聞こえないほどの音量で、音楽を聴いていたのだ。
「ったく・・・しょうがねぇなッ!」
そう言うと、後をつけて来た男は自身のスマホで何やら操作をすると、前の男のイヤホンに突然、大音量でノイズが走ったかのような甲高い音が漏れ出す。
「うわッ!んだよ、これ・・・」
「おい」
「あぁん?アンタ誰?」
漸く声が届くようになり、つけて来た男がやれやれと言った様子でスマホをしまいながら、先程と同じ質問を繰り返す。
「アンタ、NAってグループ知ってるか?」
「何それ、聞いたことねぇけど・・・なんで?」
「いや、ならいいんだ。済まなかった・・・」
男は質問の返答を得ると、潔くその場を折り返すように大通りの方へと歩いて行ってしまった。
「何だ?アイツ・・・」
再びイヤホンを耳にはめて、男は自宅と思われる建物の扉へと入っていった。
暗い廊下を抜け、角を曲がった所に幾つかの扉がある広間へと出る。その内、二階の右奥の部屋へと入ると、男は靴を適当に脱ぎ捨て、怪しいネオンの光に照らされる一室へとやってくる。
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