教えられない情報
アナベルの拠点で、変異種のモンスターについての講義を受けた一行は、モンスターにもレベルアップの概念や、生物としての進化があることを知る。
その上、戦闘で死んでしまった仲間を放置する危険性も、同時に知ることとなった。そのままにしておいては、さらに厄介なことになって自分達の身に帰ってくやもしれない。
メルのような例もあるが、それは期待しない方がいいだろう。これまでの個体も、友好的なモンスターよりも交戦的なモンスターの方が圧倒的に多いのだから。
「私が知っているのはここまでだよ。この子は特例だ、私も少し興味がある。悪いけどメルは私の側に置かせてもらうよ」
「はい、それで構いません。きっとメルにとってもそれがいいだろうし・・・。それにここは貴方達の拠点だ」
他人事のように話すシンの言葉に、鎧の男ことヴァンが口を開く。シン達も異変に目覚めたWoFのユーザーであり、命の危険に晒されているのは皆等しく同じことだった。
「おいおい、アンタ達他所に行くつもりか?こんなに危ない目にあったのにか?」
「確かに危険なのは分かるけど、もうちょっと周りがどうなっているのか見て回りたいんだ。それに、コウって人からもいつでも歓迎するって言って貰えたしな」
「そりゃぁ勿論さ!俺達も歓迎する。ですよね?アナベルさん」
腰を下ろし、メルと同じ目線で身体を撫でていた彼女は、それまでの真面目な話から解放されたかのように一変し、明るい声と笑顔で彼らを迎えてくれた。
「あぁ歓迎するとも。ただ、君達が戻ってくるまで、私がここに止まっているのかは分からないけどねぇ〜」
「え!?また旅に出ちゃうんですか?アナベルさん・・・」
「さぁ、それはどうかなぁ?」
アナベルはまるで、ヴァンのコロコロ変わる表情を見て楽しむかのように、彼を惑わせる。折角人間の性質を手に入れたのだからと、慌てるヴァンの表情をメルに見せ、人の娯楽を教えるかのように接している。
「ただ、もう暫くはここにいます。まだ見て回ってないエリアがあるからね!」
まだ見ぬ景色やアトラクションに胸を躍らせるにぃなに、シンの顔にも明るさが戻る。彼女は周りの空気を読み、明るい話題へと切り替えるのが上手い。シンは彼女の、そういったところに何度も助けられていた。
真実を知ろうとすればするほど、見えてくるのは暗く悲惨なものばかり。こんなものがいつまでも続けば、心を壊してしまっても不思議ではない。
実際、他の者達がどうやって乗り越えてきているのか、シンには不思議でならなかった。イヅツや朱影ら、それぞれ所属や転移してきた世界が違えど、誰しも心に不安はある筈。
「そうだな。・・・みんな、表には出さないだけか・・・」
「え?何か言った?」
「あぁ・・・いや、次はどこに行こうかなって・・・」
「お!シンさんも漸く楽しもうって気になってきたんだぁ〜」
もしよければと、アナベルがテイムしたモンスターを貸そうかと声をかけてくれたが、二人は自分の足で見て回りたいのだと言い、これを断った。
プレジャーフォレストにいる間は、何かあればすぐにアナベルが駆けつけると言ってくれた。彼女の足があれば、この広いリゾート地であってもひとっ飛びで移動することができるだろう。
頼もしい味方を得て、二人は別れを惜しみつつアナベルの拠点を後にし、新たなエリアへと赴く。
それからの二人の散策は、モンスターに襲われうこともなく穏やかに過ぎていった。同時に、プレジャーフォレスト内で新たに異変に目覚める者も、見つかることはなかった。
RIZAやメンデルのように、立て続けにWoFユーザーが見つかる方が異例だったのだ。運が良かったのはこれだけではない。
新たな地にいて、最初に訪れた場所で有益な情報や味方になってくれる者達と巡り会えることも珍しい。
しかし、シンとにぃなは再度悩む。人を喰らい人の性質を身につけた変異種のウルフ、メルのことをフィアーズに報告するべきかどうか。
彼らにとって重要な情報であれば、黙っているとこちらの身が危ない。それどころか、同じくフィアーズからの離反を目論むイヅツら謀反チームの者達にも危害が及ぶ可能性がある。
だが報告すれば、メルはフィアーズにより実験の道具にされてしまうことだろう。アナベルはきっと抵抗する。フィアーズの上層部らの実力は、生半可なものではない。
いくらアナベルであっても奴らの追っ手を振り切ることは出来ないだろう。それにそうなれば、プレジャーフォレストの仲間達も黙っていない。
漸く見つけた外部の味方を、易々と殺させる訳にはいかない。
二人は来る日の為、今は身を潜め事を荒立てない策を考えながら、次の調査地をどこにするべきか考え始めていた。
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