学習能力の有無
移動し始めたアナベルを追うように、炎で阻まれた道を迂回して彼女とウルフの後を追う敵のウルフ達。上空からは引き続き、アナベルが乗ってきたドラゴンによるブレスが、地上へ降り注いでいた。
アナベルを乗せた事により、移動能力が低下したウルフは、すぐに後方から迫る追っ手に距離を詰められてしまう。後ろから聞こえて来る足音に首を回し後ろを確認するアナベル。
「あららぁ?もう追いついて来ちゃうんだぁ」
するとアナベルは、必死に走るウルフの頭を優しく撫で、ドラゴンの時と同じように指示を出す。
「君は後ろを気にせず走ってくれ。もう少しの辛抱だよぉ」
そして彼女は上体を起こし、手のひらを上に向けて片腕を横に伸ばす。すると彼女の方から稲妻のようなものが指先へと走り、その軌道上に小さな雷で出来た槍が数本生成される。
上半身を捻り後方を向くと、アナベルは追っ手のウルフ達の内一体に向けて人差し指を向ける。
「ヴォラーレ」
彼女の言葉を合図に、雷の槍が追っ手のウルフに向けて発射される。その雷槍はまるで雷のような稲光を放ち、一瞬の軌道を見せて音を置き去りにする。
雷槍は追っ手のウルフの前足に命中し、転倒させた。だが、足が吹き飛んだり切断されるほどの威力はないようで、多少焦げたような痕はあるものの大きな外傷は見受けられなかった。
しかし転倒したウルフは、すぐに立ちがることは出来ず、その場で足掻いており追っ手を減らすには十分な効果を発揮していた。
アナベルらを追って来ていたウルフの数だけ用意された雷槍を、彼女は次々に追っ手に撃ち込んでいく。狙いは正確で、見事に全ての追っ手を転倒させる。
そうこうしている間に、アナベルを乗せたウルフは別の場所で敵と戦う仲間の元へ近づいていた。
「ご苦労さん。君はこれをお仲間のところへ持っていってやってくれ。頼んだよぉ〜」
アナベルはウルフに回復薬の入った小瓶を括り付けると、背中から飛び降りその跳躍力で敵中のど真ん中へ降り立つ。敵のウルフ達は、それまで狙っていた獲物を後回しにし、現れた一人の人間を標的に定める。
出方を伺うようにゆっくりと旋回を始め、その鋭い目は決して獲物から離れることはない。狩人に囲まれた彼女も、その中でゆっくりと立ち上がり、今度は手のひらを下に向け前方に片腕を伸ばすと、アナベルの足元で丁度手のひらの真下辺りの地面が徐々に白くなり、燃え盛る炎のように赤いマグマ色へとグラデーションを奏でながら変化し、一本の炎柱を彼女の手のひらへと伸ばしていく。
「取り囲んで追い詰めたつもりかぃ?・・・さて、これから私の技を魅せてやるからよく見ておきな。アンタらが学習できるか試してやるからさぁ〜・・・」
そう言うとアナベルは、不敵な笑みを浮かべて鋭い眼光を放つ。
一方、血痕を追っていたシン達は、痕が入っていった雑木林の中へと入り込んでいた。木々の間を飛び回ることは出来ないため、シンはアナベルから授かったドラゴンからおり、徒歩で捜索する事にした。
「周囲を見て、このエリアから血痕が出ていないか見てきてくれないか?」
「分かった。その後で地上に降りて合流すればいい?」
咄嗟の事態に戦闘を行えるシンが地上に降り、にぃなには上空から血痕が雑木林の中から出ていってないかの確認をしてもらうことになった。
二手に分かれ、それぞれの役割を全うする為に動き出す。
木々の合間を抜けて走り出すシン。もしコウやアナベルの仲間が襲われているのなら、わざと音を立てる事によりこちらの存在を敵に知らせようとしての事だった。
そして、ある程度雑木林の中を進むと、少し開けた場所で今まで追って来ていた血痕が途絶えているのを目にする。
「ここで途絶えてる・・・。誰もいないのか?」
周囲を見渡し、人や動物の気配を探るも、すぐ側にはそれらしきものは感じなかった。血痕も、途絶えた場所に近づくに連れ、間隔が長くなり量も少なくなっていることに気がつく。
傷が治り始めたのか、それとも考えたくはないがここで消えるように始末されえてしまったのだろうかと想像するシン。
しかし、もし彼らを追っていたものがモンスターであれば、そのような巧妙な真似ができるだろうか。この場で殺されてしまったのなら、派手に血が飛び散っていてもおかしくない。
それなのに、シンが辿り着いた広場は不気味なほど綺麗に痕跡を絶っていたのだった。シンの脳裏に過ったのは、彼らがちょっと前に戦ったリザードの変異種の事だった。
異様な雰囲気を醸し出す変異種は、他の個体よりも学習能力が高く、こちらの行動やスキルを観察し対策をして来るという、非常に厄介な能力を持っている。
そして、その変異体は他の個体やモンスターを食すことで、能力の一部を吸収し自分のものにするという、WoFの世界ではみられない生態をしていた。
なので、例えただのモンスターであり獣であっても、相手を消滅させられるようなスキルを持っていてもおかしくないのでは、という発想に至った。
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